【完全解説】空き家媒介報酬が倍増!2024年7月改正で変わる不動産ビジネスのチャンス


2025年12月26日


日本国内では少子高齢化に紐づく形で空き家が増加しており、総務省が2024年4月30日に発表した「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果」(PDF)によると、空き家数は900万戸と過去最多を記録しています。

空き家の増加は地域の過疎化と自治体の税収減少につながり、ひいては公共サービスの質の低下を引き起こします。

さらに、放置された空き家は景観を損なうだけでなく、地域の治安にも悪影響があります。

状況を鑑みた国土交通省は空き家問題の解消に向け、2024年6月21日に「不動産業による空き家対策推進プログラム」を策定しました。

本記事では「不動産業による空き家対策推進プログラム」の一環である、媒介報酬の見直しを解説します。

なぜ今、空き家取引の媒介報酬が引き上げられたのか


「この物件を扱っても採算が合わない…」

空き家を扱う、これまで多くの不動産会社が抱えてきた本音かもしれません。低価格帯の空き家は手間の割に報酬が少なく、積極的な取り扱いが進みませんでした。

国土交通省はこの課題に段階的に取り組んできました。2018年には400万円以下の物件を対象に、売主から受け取れる媒介報酬の上限を18万円に設定。不動産会社の参入障壁を下げる第一歩となりました。

そして今回、2024年6月に策定された「不動産業による空き家対策推進プログラム」では、対象範囲を800万円以下に拡大し、媒介報酬の上限も30万円(税込33万円)へと大幅アップ。これにより、不動産会社が空き家取引に積極的に関わるインセンティブが強化されました。

◆関連記事:

【23年12月】空家措置法の改正法が施行|変更点や対応を解説|全日ラビー不動産

基本を押さえよう!不動産売買・賃貸借の「媒介報酬」とは


宅建業法では、物件の売買と賃貸借の報酬について明確な上限が定められています。まずは基本的な枠組みを確認しましょう。

売買における報酬額の上限

売買代金(税抜) 仲介手数料
200万円以下 5%
200万円超~400万円以下 4%+2万円
400万円超 3%+6万円

賃貸借における報酬額の上限

依頼者の双方から受けることのできる報酬の額(合計):賃料一か月(税抜)✖1.1
居住の用に供する建物の賃貸借の媒介に関して依頼者の一方から受けることのできる報酬の額:賃料一か月の額(税抜)✖0.55

依頼者の一方から受け取れる報酬額は、物件価格に一定の料率を掛けて算出した金額の合計額以内と定められています。

国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」によれば、代理の場合は宅建業法で定められた報酬の2倍以内とされています。特に「当該売買又は交換の相手方から報酬を受ける場合」とは、代理行為と媒介的行為が同時に行われる際に、代理の依頼者以外からも報酬を受ける場合を指しています。

【参考】代理の場合は、宅建業法で定められた報酬の2倍以内と定められています。
「当該売買又は交換の相手方から報酬を受ける場合」とは、代理行為とあわせて媒介的行為が行われる場合に代理の依頼者のほか売買又は交換の相手方からも報酬を受ける場合を指すものであり、その場合においては、代理の依頼者から受ける報酬の額と売買又は交換の相手方から受ける報酬の額の合計額が①の「第二の計算方法により算出した金額の2倍」を超えてはならない
引用:宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方|国土交通省(PDF)

2024年7月1日の「不動産業による空き家対策推進プログラム」に基づく報酬に関する告示の改正により、次のような変更が実施されました。

  2024年7月1日以降 2024年6月30日以前
対象となる空き家等の価格 800万円以下 400万円以下
媒介報酬額の上限 30万円の1.1倍
※媒介に要する費用を勘案すること
18万円の1.1倍

※代理の場合と、「媒介に要する費用を勘案すること」については、下記をご参照ください。

◆参考情報:

宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方|国土交通省(PDF)

賃貸市場にも朗報!空き家・空き室等の「媒介報酬」改正のポイント


これまで、賃貸物件の媒介において不動産会社が受け取れる報酬額には、一定の上限が設けられていました。

具体的には、貸主と借主の双方から受け取れる報酬の合計額は、家賃の1.1ヶ月分以内とされ、さらに居住用物件の場合は、一方からの報酬は0.55ヶ月分以内という制限も課されていたのです。
このように報酬に明確な枠がある中で、2024年7月1日にスタートした「不動産業による空き家対策推進プログラム」により、空き家活用を後押しするための特例措置が新たに導入されました。

【参考】賃貸借取引に係る報酬額

長期の空家等(現に長期間使用されておらず、又は将来にわたり使用の見込みがない宅地建物)については、当該媒介に要する費用を勘案して、貸主である依頼者から、原則による上限を超えて報酬を受領できる(1ヶ月分の2.2倍が上限)。

引用:空き家等に係る媒介報酬規制の見直し|国土交通省(PDF)

空き家物件の媒介には、現状確認や清掃・リフォームの提案、地域性に合わせた募集条件の調整など、通常よりも手間やコストがかかるケースが多いのが実情です。

こうした背景を踏まえ、媒介報酬の上限を緩和することで、不動産会社が空き家活用に前向きに取り組めるよう支援する施策といえるでしょう。

詳細は下記資料をご確認ください。

<計算例>見直し後の媒介報酬で500万円の空き家を売買した場合


500万円の空き家の媒介報酬額上限は下記となります。

2024年7月1日以降 33万円
2024年6月30日以前 23.1万円(500万円×3%+6万円)+消費税=21万円+消費税

※不動産売買価格が400万円超の場合の上限額の算出方法:
(売買価格×3%+6万円)+消費税

物件価格が800万円以下であれば、媒介報酬額の上限は物件価格を問わず33万円になります。

<計算例>見直し後の媒介報酬で家賃月5万円の空き室を賃貸する場合


家賃月5万円の空き室を賃貸する場合の、媒介報酬の上限額の計算例を紹介します。

2024年7月1日以降 5万円×2.2=11万円
2024年6月30日以前 5万円×1.1=5万5,000円

長期の空き家などについては、貸主である依頼者から受け取れる媒介報酬の上限額は2倍になります。

空き家の媒介報酬と34条書面(媒介契約書)


「不動産業による空き家対策推進プログラム」の特例を適用する際には、事前にお客様への説明と合意が必須です。

宅建業者の報酬は媒介契約書(34条書面)の必須記載事項となっています。特例適用の条件(物件価格や空き家の状態など)を満たしていることを契約書に明記することを忘れないようにしましょう。

国土交通省の「宅地建物取引業者の違反行為に対する監督処分の基準」を参照し、適切な手続きを踏むことが重要です。コンプライアンス違反は厳しい処分の対象となる可能性がありますので、注意が必要です。

◆参考情報:

宅地建物取引業者の違反行為に対する監督処分の基準|国土交通省(PDF)

空き家対策推進プログラムにおける定義


「長期の空家等」「低廉な空家等」など、特例適用のとなる定義を正確に把握することで、ビジネスチャンスを逃さず、トラブルも防ぎます。

「長期の空家等」とは

空き家・空き室等を賃貸する場合の媒介報酬特例の対象となる「長期の空家等」は、国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」で次のように定義されています。

「現に長期間にわたって居住・事業等の用途に供されていない」

少なくとも1年を超えるような期間にわたり居住者が不在となっている戸建の空き家や分譲マンションの空き室

「将来にわたり居住・事業等の用途に供される見込みがない」

相続等により利用されなくなった直後の戸建の空き家や分譲マンションの空き室であって、今後も所有者等による利用が見込まれないもの

参考資料:「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(通達)の改正|国土交通省(PDF)

「低廉な空家等」とは

2024年6月21日以降、「低廉な空き家」の定義も変更されました。

国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」によると、売買・交換特例に係る「低廉な空き家等」は、価格800万円以下の宅地・建物とされています。

参考資料:「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(通達)の改正|国土交通省(PDF)

「媒介報酬以外の報酬」でビジネスチャンスを拡大

「不動産業による空き家対策推進プログラム」では、媒介報酬以外にも収益機会が明示されています。

媒介契約と明確に区分された書面等による契約に基づき受ける報酬は、宅建業法における報酬規制の対象外となります。つまり、媒介報酬とは別に追加の報酬を受領できるのです。

国土交通省が例示している業務には以下のようなものがあります:

①所有者等に対する助言、総合調整等の業務

  • 利活用に向けた課題整理
  • 相続の相談、手続支援
  • 境界確定や権利者間協議の支援
  • 専門職種の紹介
  • 活用方針の提案、収支推計
  • 賃貸時の空室対策
  • リフォーム提案
  • 税金に係る情報提供 など

②所有者等から受託して行う空き家等の管理業務

  • 除草・通風・通水・清掃
  • 定期的な点検
  • 修繕等の提案
  • 家財の片付け
  • 郵便物の保管・転送 など

これらのサービスを提供することで、単なる物件仲介にとどまらない総合的な不動産コンサルティングが可能になります。公益財団法人不動産流通推進センター認定の「公認 不動産コンサルティングマスター」資格の取得も、専門性を高める有効な手段でしょう。

◆参考資料:

宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方|国土交通省(PDF)

◆関連情報:

公認 不動産コンサルティングマスター|公益財団法人 不動産流通推進センター認定資格

未来を見据えた戦略!空き家対策と「不動産DX」の融合


空き家対策の効果を最大化するには、最新テクノロジーの活用も欠かせません。不動産テック(不動産×テクノロジー)の導入により、業務効率化と顧客体験の向上を同時に実現できます。

  • AIによる空き家の適正価格査定で、オーナーと買主の双方が納得する価格設定が可能に
  • VR技術を駆使した遠隔地物件の内覧で、移動時間のロスなく効率的な物件紹介を実現
  • ドローンを活用した定期的な空き家点検により、管理業務の質と効率を飛躍的に向上
  • Instagram等のSNSを使った空き家情報の拡散で、従来とは異なる層への訴求も可能に
  • クラウド型空き家データベースを構築し、物件探索の手間を大幅に削減

これらの技術はオンラインでの重要事項説明(IT重説)と組み合わせることで、より迅速・透明・効率的な空き家取引を実現します。テクノロジーの力を借りて、空き家問題解決の最前線に立ちましょう。

◆参考情報:

空き家バンク登録物件を探す|ラビーネット不動産

◆関連記事:

不動産会社のインスタ活用方法を徹底解説!注意点や成功事例についても紹介|全日ラビー不動産コラム

社会貢献にもつながる!空き家対策と「住宅セーフティネット法」の活用


政府は2030年までに、利用される見込みが低い「その他空き家」の数をおおむね400万戸程度に抑制する目標を掲げています。不動産会社には売買・賃貸を通じて放置された空き家を減らし、地域の安全と美観を守る役割が期待されているのです。

一方で、高齢者、障害者、低所得者など住宅確保要配慮者を支援する「住宅セーフティネット法」に基づく取り組みも注目されています。空き家をセーフティネット住宅として活用することで、社会課題の解決と事業機会の創出を両立することが可能です。

◆参考情報:

安心して居住できる環境を整備するため、住宅セーフティネット法等を改正|国土交通省

空き家の媒介報酬見直しで実現する「地域貢献」と「収益向上」


「不動産業による空き家対策推進プログラム」による媒介報酬の引き上げにより、不動産会社にとって空き家取引への取り組みやすさが格段に向上しました。

営業担当者にとっては報酬増加が直接的なモチベーションとなり、これまで敬遠しがちだった空き家物件への取り組み意欲が高まるでしょう。また、空き家問題解消への積極的参画は社会的評価を高め、結果として宅建業者の信頼構築とブランド価値向上につながります。

地方自治体や他の不動産業者との連携を強化し、より効果的な空き家対策を推進していくことが、持続可能な地域社会の実現と不動産ビジネスの発展の両立につながるのです。

ラビーネット不動産の「空き家バンク登録物件」も活用し、全国の空き家流通促進に貢献していきましょう。

◆参考情報:

空き家バンク登録物件を探す|ラビーネット不動産

【補足】空き家媒介報酬改正に関するよくある質問

Q1: 「不動産業による空き家対策推進プログラム」はいつ策定されましたか?

2024年6月21日に策定され、2024年7月1日から報酬に関する告示の改正が施行されています。

Q2: 媒介報酬の上限引き上げの対象となる物件価格はいくらですか?

800万円以下の空き家等が対象となります。

従来は400万円以下の物件が対象でしたが、範囲が拡大されました。

Q3: 賃貸の空き室でも報酬増額は適用されますか?

適用されます。

「長期の空家等」に該当する場合、貸主から受け取れる報酬の上限が従来の1.1倍から2.2倍に引き上げられました。

Q4: 「長期の空家等」の定義を教えてください

少なくとも1年を超える期間にわたり居住者が不在となっている物件、または相続等により今後も所有者による利用が見込まれない物件が該当します。

Q5: 特例を適用する際の注意点はありますか?

媒介契約書(34条書面)に特例適用の条件を満たしていることを記載する必要があります。
また、事前にお客様への説明と合意を得ることが必須です。

Q6: 媒介報酬以外にも収益機会はありますか?

あります。

所有者等への助言・総合調整業務や空き家等の管理業務は、媒介報酬とは別に報酬を受け取ることができます。

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「全日本不動産協会」は、1952年10月に創立された公益社団法人です。中小規模の不動産会社で構成されており、2025年10月末の正会員数は37,923社で年々増加しています。

不動産に関するさまざまな事業を展開し、調査研究や政策の提言、会員を対象とした研修などを行っています。47都道府県に本部を設置し、会員や消費者からの相談も受け付けています。

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◆関連情報:

ご入会メリット|全日本不動産協会
入会資料請求|全日本不動産協会



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