外国人との不動産売買|ポイントと注意点を解説
2025年03月13日
訪日外国人の増加により、日本の不動産市場にも新たな動きが見られています。不動産業界で働く方々も、日本の不動産を買いたいという外国人の増加を感じていることでしょう。
本記事では、外国人と不動産売買を行う際に重要なポイントと注意点を詳しく解説します。スムーズな取引実現のため、よくあるトラブルとその対処法についても紹介するので、ぜひご一読ください。
外国人による国内の不動産売買が増加
令和5年10月13日の出入国在留管理庁の発表によると、令和5年6月末の在留外国人数は322万3,858人で過去最高を更新しています。
◆参考データ:
令和5年6月末現在における在留外国人数について|出入国管理庁
それに伴って日本の不動産を購入する外国人も増えており、特に都市部のマンションやリゾート地の別荘が人気です。
具体的には、中国・香港・シンガポールなどの富裕層が東京、大阪、京都、北海道のリゾート地などに関心を示しており、別荘に加え民泊用物件の需要も高まっています。
外国人の土地購入を禁止する国も少なくない中、日本では外国人の不動産購入に制限が少ない点も背景の一つでしょう。
外国人の不動産売買も基本は「宅建業法」
日本国内で不動産を売買する際、日本人と外国人の間で基本的な手続きは同じで、どちらも宅建業法に基づいた取引が求められます。
しかし日本人同士では通じる「常識」や「暗黙の了解」が、外国人には伝わりにくいことがあります。そのような文化的な違いに留意し、明確なコミュニケーションを心がけてください。
外国人を買主とする不動産取引のポイント【5点】
外国人との不動産売買に携わるときのポイントを5つ紹介します。
1.国土交通省「不動産事業者のための国際対応実務マニュアル」を確認
取引に際し、はじめに下記資料を通読してください。
◆関連情報:
不動産事業者のための国際対応実務マニュアル|国土交通省
契約書の正本は日本語とし、重要事項説明も日本語で行うことが基本と明記されています。
- 売買取引業務
- 外国人所有不動産の管理
- 外国人による入居
- 外国人との取引に役立つ資料集
- 不動産用語・表現の参考英訳集
などの詳細も把握できます。
取引に際してのトラブルに備え、契約上の専属的合意管轄裁判所を日本の裁判所とすることが望ましいと考えられます。その場合、日本における裁判は全て日本語に準拠しますので、媒介契約書のほか、重要事項説明書、売買契約書等の書面については、日本語を正本とすることを顧客と合意すべきです。
また、これらを外国語訳できる場合には、参考訳として交付すると顧客の理解を得ることに役立ちます。
引用元:不動産事業者のための国際対応実務マニュアル|国土交通省
2.相手方の文化や商慣習をざっくり把握
昨今は英語対応の不動産会社やコンサルタントが増加しており、言語面や文化の違いに対応したサポート体制が強化されています。多くの場合、取引の相手方はそうした代理人となるでしょう。
とはいえ売主側としても、相手側の文化の理解は重要です。買主側の不動産市場の法律・規制や関連する政策などをざっくり理解しておきましょう。
◆関連情報:
日本貿易振興機構JETRO
海外建設・不動産市場データベース|国土交通省
支払いは「日本円」
「日本円」の使用は、為替レートの変動による損失を防止します。日本国内の取引であるため、日本円での決済が法的にも会計上も適切です。
税金の支払いなど、関連する手続きが円滑に進むという実務的なメリットもあります。
為替レートは下記から確認してください。
◆参考サイト:
基準外国為替相場及び裁定外国為替相場一覧|日本銀行
通訳は買主側が用意
買主側が通訳を用意する理由は3つあります。
- 法的責任の明確化
- トラブル防止
- 取引の円滑化
宅地建物取引業法では、外国語での重要事項説明を義務付けていません。売主側が通訳を提供した場合、説明内容の誤訳や誤解に対する責任を負う可能性があります。
トラブル防止のため、担当した通訳にも、重要事項説明書と契約書への署名を求めましょう。
購入前の内覧を推奨
本人が内覧をせず、「ノールック」で物件購入を希望するケースもあります。
購入後にはじめて物件を見て「思っていたのと違う」とトラブルに発展しがちなので、本人による内覧を強く推奨してください。
外国人との不動産取引における注意点【3点】
外国人との不動産取引では、「認識のズレ」が生じることがあります。
注意点を具体的に解説しましょう。
1.やりとりの記録を残す
言語や文化の違いから異なる解釈をされる可能性があるため、やり取りの履歴を記録しましょう。Webミーティングなどのやりとりを録画し、データとして保管すれば、いざというときに双方の認識を明確にでき、便利です。
また、税務申告や法的な手続きが必要になった際の証拠としても役立ち、取引の透明性や信頼性が高まります。
2.代理人・納税管理人を立てさせる
取引は
- 法令順守
- 取引の円滑化
リスク管理を目的とし、代理人・納税管理人を立てさせましょう。
結果として、取引の安全性と効率性が向上します。それぞれの役割は以下の通りです。
3.厳密な身元確認
取引後のトラブルや税務手続きが円滑に進むよう、購入者の居住地や国籍などの正確な情報を把握してください。
厳密な身元確認は、取引の透明性が向上する効果に加え、マネーロンダリング、なりすまし防止、テロ資金供与など違法行為の抑止にもつながります。
本人確認をするには顔写真付きの書類が必要とされており、日本国内の居住者には在留カードや特別永住者カードが必要です。
本人に加え代理人などの身元確認も重要です。
◆関連情報:
犯罪収益移転防止法の概要について|国土交通省
国際的詐欺事件について(注意喚起)|JETRO
外国人との不動産売買で起きやすいトラブルと対処法【4点】
外国人が日本で不動産売買をするときによくあるトラブルを4点紹介します。
1.住宅ローンの審査に通らない
外国人富裕層向けに融資を行う銀行もありますが、「長期間日本に住むかどうかが不確かであること」や「日本での信用情報が少ないこと」を理由に、住宅ローンの審査に通らない場合があります。
永住権がない場合や、日本での在住期間や勤続年数が短い場合は、帰国による貸倒れリスクが評価されます。
日本の信用情報機関に十分なデータがなく保証会社の保証が得られないケースや、高い頭金要求なども審査通過を困難にする要因となります。2.取引プロセスの完了に時間がかかる
外国人との不動産売買は
- 在留資格の確認
- 本人確認書類の準備
- 住宅ローン審査
- ビザの確認
- 契約書の翻訳
- 海外送金の手続
などを理由とし、取引の期間が長引く傾向があります。
3.値下げ交渉がしつこい
日本の文化や習慣の違いもあり、値下げ交渉が取引の一部としてみなされる国もあるため、積極的な値引きを求められる傾向があります。
値下げの限度や物件の価値を明確に説明し、双方が納得できるポイントで合意を取ってください。
4.一度譲歩したらさらに要求が加わった
外国人との取引においては、初期の条件は交渉の出発点と捉えられ、更なる譲歩の余地があると解釈される傾向があります。
日本特有のコミュニケーションスタイルが、外国人にとって不明瞭に映り、追加要求の原因となる可能性もあるでしょう。
日本での商慣習に不慣れであるため、取引条件の理解に齟齬が生じやすく、それが新たな要求につながることもあります。
譲れる部分と譲れない部分をはっきり伝えておきましょう。
【まとめ】外国人との不動産取引で重要な2つのポイント
外国人との不動産売買は、細心の注意が必要です。
1.基本は日本語対応
基本は日本語対応で、通訳の手配などは買主側です。
国土交通省は「不動産事業者のための国際対応実務マニュアル」で
- 媒介契約書
- 重要事項説明書
- 売買契約書等
について、日本語を正本とすることを顧客と合意すべきと明記しています。
無理な要求には応じず、日本語での取引を了承する確認書や注意喚起文書を作成しておきましょう。
取引に際してのトラブルに備え、契約上の専属的合意管轄裁判所を日本の裁判所とすることが望ましいと考えられます。その場合、日本における裁判は全て日本語に準拠しますので、媒介契約書のほか、重要事項説明書、売買契約書等の書面については、日本語を正本とすることを顧客と合意すべきです。また、これらを外国語訳できる場合には、参考訳として交付すると顧客の理解を得ることに役立ちます。
2.外国語が堪能なプロフェッショナル(代理人・コンサルタント・通訳)とつながる
外国人との不動産取引では、言語の壁を超えた正確なコミュニケーションが要求されます。
通訳は買主側が用意するとはいえ、仲介業者としても英語などの語学能力が高い代理人、コンサルタント、通訳とのコネクションを持っておくといいでしょう。
信頼できるプロフェッショナルとの連携は、外国人との不動産取引の成功率を高め、双方にとって満足のいく結果をもたらします。
外国語理解の助けに、ChatGPTなどの生成AI活用もおすすめです。
◆関連記事:
不動産業界でも注目が集まるChatGPT|役立つ活用法や注意点を解説|全日ラビー不動産コラム
増加する外国人との不動産売買に備えるには
外国人との不動産取引は増加傾向にあり、市場の多様化をもたらしています。
しかし言語や文化の違い、法的手続きの複雑さなど、いくつかの課題も存在します。
増加する外国人との不動産売買に備えるには、まず言語・文化の理解を深め、外国人対応に強い通訳士や司法書士などのネットワークを築くことが重要です。
外国人向けの取引マニュアルを整備し、よくある質問や手続きの流れを明確にしておくとスムーズです。
・「外国人との不動産取引経験がある」
・「外国人に住宅を販売した」
という同業者とつながりたい、話を聞きたいというときは、業界団体のネットワークを活用してみませんか。
地域の宅建業者やプロフェッショナルとの関係作りは、ぜひ全国47都道府県に本部がある全日本不動産協会へお問い合わせください。
不動産売買・開業のご相談は「全日本不動産協会」へ
「全日本不動産協会」は、1952年に設立した公益社団法人です。中小規模の不動産会社によって構成されており、2025年1月末時点の正会員数は3万7,102社です。
主な事業内容は、不動産に関する政策の提言、不動産情報流通システム「ラビーネット」の運営、法令改正や税制問題に関する情報提供など多岐に渡ります。
全国47都道府県に本部を展開し、不動産実務に関する相談も受付中です。
ぜひお気軽に、「全日本不動産協会」にお問い合わせください。
◆関連情報:
全日本不動産協会ホームページ
開業を目指す方へ|全日本不動産協会
入会資料請求|全日本不動産協会
カテゴリー
人気記事
-
省エネ基準適合が住宅ローン減税の利用条件に!令和6年以降の【変更点】を解説
2024年02月19日
-
不動産業の開業に必要な資格とおすすめ資格8選!資格要らずの事業も紹介
2024年05月02日
-
【必読】不動産業の開業前に読んでおきたい!一人起業のトリセツ
2023年06月01日
-
2023年05月02日
-
2023年05月02日