不動産会社の離職を防ぐにはどうしたらいい?効果的な対策を7つ紹介


2023年12月19日

退職届
社員の離職は、会社にとってとても大きな損失です。1人分の利益が丸ごとなくなるわけですから、会社全体の経営にも影響があるかもしれません。その社員が担当していた業務を他の人が代行するにしても、残っている社員一人ひとりにかかる負担は増加してしまいます。不動産業界では、相次ぐ離職による慢性的な人手不足が課題となっている会社も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、不動産会社の社員の離職を防ぐ対策法を7つ紹介します。社員が離職する理由も解説しているので、原因を根本から理解したうえで離職を防ぐ対応ができると思います。社員の離職が課題の不動産会社さんは、ぜひ参考にしてみてください。

そもそも、不動産業界の離職率はどのくらい?

不動産業界の離職率
厚生労働省が発表した『令和4年雇用動向調査結果の概況』によると、令和4年の不動産業・物品賃貸業の離職率は13.8%でした。10人中1~2人は離職しているということです。全産業の平均離職率は15.0%ですから、不動産業の離職率は平均よりも低いことが分かります。離職率が高い業界トップ3は、以下のような結果でした。

1.宿泊業・飲食サービス業(26.8%)
2.サービス業(19.4%)
3.生活関連サービス業・娯楽業(18.7%)

不動産業の離職率と近い業種は、卸売業・小売業(14.6%)や、運輸業・郵便業(12.3%)などです。調査対象となった全16業種のうち、不動産業の離職率の高さは7位にランクインしています。不動産業の離職率は高すぎず低すぎず、ほぼ中間に位置していることが伺えます。

不動産会社で社員の離職を放置していると起こること

不動産会社で社員の離職を放置していると起こること
不動産会社で社員の離職を放置していると、人手不足によるオーバーワークが発生する可能性があります。オーバーワークとは、夜遅くまでの残業や休日出勤といった長時間労働が常態化している状況のことです。オーバーワークが発生すると社員の疲労が溜まり、仕事の質が落ち、顧客離れや売上の低下につながる恐れもあるので注意が必要です。

また、適度な休息を取れなかった社員が心身の支障をきたし、さらに離職者が増加するという悪循環に陥ることも十分あり得ます。社内の雰囲気の悪化にもつながるため、早め早めの離職防止対策を施すことが大切です。

不動産会社の社員が離職する理由・原因

社員が離職する理由・原因
不動産会社の社員が離職するときは、それなりの理由があるはずです。キャリアアップを目指して転職するために今働いている会社を辞める人もいますし、今の労働環境に不満があって離職を決断する人もいます。不動産会社の社員が離職する理由・原因として考えられるのは、以下の6つです。

  • 1.仕事が忙しすぎる
  • 2.決まった休みを取るのが難しい
  • 3.ノルマを達成するのが大変
  • 4.IT化されておらず業務に余計な手間が掛かっている
  • 5.他の業界と比べると給料が低い
  • 6.同業他社に転職しやすい環境が整っている

社員が離職する理由・原因を把握することは、課題を根本から解決することにもつながります。それでは、離職にかかわる詳しい状況や社員の考えを解説します。

1.仕事が忙しすぎる

業務内容にもよりますが、特に営業職は多忙になりやすい傾向にあります。お客様とのやり取り、物件内覧の案内、契約書類の作成、新規顧客を獲得するための広告など、業務内容は多岐に渡ります。就業時間内にすべての業務を終わらせるのが難しく、残業や休日出勤をしたり、仕事を家に持ち帰ったりする人も少なくありません。

入社当初はなんとか仕事ができていても、少しずつ心身ともに疲労が溜まり、健康面・精神面に支障をきたす場合もあるようです。こうして、「これ以上仕事をすると体調を崩してしまう」と判断し、離職に踏み切る人もいます。

2.決まった休みを取るのが難しい

不動産会社では、「お客様ファースト」で仕事をする場面が多くあります。内覧や契約内容の説明はお客様が来店しやすい休日に行う機会が多く、特に営業職だとお客様の都合が最優先になるため、休日返上で働くケースもよく見られます。

もちろん不動産会社によっては振替休日を設けているので、まったく休めないわけではありません。しかしながら仕事中心のライフスタイルになるため、家族や友人と交流しにくくなり、ワークライフバランスの不安定さに不満を抱く社員がいるのも事実です。社員が離職するときは、「仕事だけをこなす生活は避けたい」と感じたことがきっかけになっているかもしれません。

3.ノルマを達成するのが大変

不動産業界では、仕事の成績や実力に基づいて社員を評価する「成果主義」の考え方が今もなお根強く残っています。会社によっては、契約数や対応数のノルマを設けているところもあります。一定の成果を求めるプレッシャーは社員の精神面に大きな負担をかけ、離職する理由になるケースもあるのです。

しかし目標がないと社員の士気が高まらず、売上が伸びにくいのも事実。ノルマをコンスタントに達成している社員の働き方を会社全体で共有するなどして、社員全員がノルマを達成できる環境が整っているか確認してみましょう。

4.IT化されておらず業務に余計な手間が掛かっている

IT化されておらず、業務に余計な手間が掛かっているのも社員が離職する原因のひとつです。不動産会社の中には、物件や顧客の情報管理を自動化していなかったり、膨大な量の書類をFAXでやり取りしたりしているところもあります。

情報の手入力や書類の整理などで時間を要すると、そのぶん労働時間が長くなり残業も増えやすくなります。こうした場合、仕事の進め方に課題を感じた社員が、離職を決める可能性は十分にあるでしょう。

5.他の業界と比べると給料が低い

国税庁が公表している『令和4年分民間給与実態統計調査結果について』によると、不動産業の平均給与は456万9,000円でした。全業種の平均は457万6,000円ですから、不動産業では一般的な収入を得られることが分かります。平均給与が高い業種と、不動産業と離職率が近かった卸売業・小売業、運輸業・郵便業の結果は以下の通りです。

  • 電気・ガス・熱供給・水道業:747万2,000円
  • 金融業・保険業:655万7,000円
  • 情報通信業:632万4,000円
  • 卸売業・小売業:384万円
  • 運輸業・郵便業:477万1,000円

不動産会社のなかには、固定給を低めに設定する代わりに、歩合制を取り入れているところもあります。労働時間の長さに対して給料が低いことや、成果を上げられず思ったほど収入を得られないことが、離職につながるケースもあるはずです。

6.同業他社に転職しやすい環境が整っている

国土交通省が発表した『令和4年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果について』によると、令和4年度末時点の宅地建物取引業者数は12万9,604 社ほどあります。求人情報サイトを覗いてみると、不動産会社の求人もたくさん掲載されています。

同じ業界内なら業務内容が大きく変わらない分、前の職場での経験を活かしやすいため、転職するハードルも比較的低いと言えるでしょう。給与・賞与・福利厚生などの条件が良く、より働きやすい環境の会社が見つかると、離職を決める社員が現れる可能性は十分考えられます。

不動産会社の社員の離職を防止するために有効な対策

不動産会社の社員の離職を防止するために有効な対策
社員が離職する理由・原因として、労働環境や私生活とのバランスの悪さなどが挙げられます。離職を防ぐためには、これらの原因をカバーできる対策を練ることが大切です。主な対策は、以下の7つです。

  • 1.理念採用を取り入れる
  • 2.計画的に人材を採用する
  • 3.新人の指導法を見直す
  • 4.労働環境を改善する
  • 5.ITツール・AIを導入して業務を効率化させる
  • 6.離職防止に役立つツールを利用する
  • 7.給与体系を見直す

どれも離職の原因を根本から解決できる方法なので、できるものから取り組んでみましょう。

1.理念採用を取り入れる

理念採用とは、企業の理念や経営方針に共感している人材を採用する方法です。知識・スキル・経験だけでなく、入社希望者と会社の意識が同じ方向を向いているかを重視します。

会社の雰囲気に馴染める人を採用できるのに加え、同じ目標を抱いているぶん高いモチベーションも期待できるのがメリットです。自社で長期的に働き続けてくれる可能性も十分にあるでしょう。会社の経営方針と社員の考え方の不一致による離職を防ぎたいときに有効な対策です。

2.計画的に人材を採用する

「人手が足りないから」と人員補充する意識が先行し、無計画に採用してしまうと、採用後に企業と社員の考え方の違いやスキル面のミスマッチなどが判明するケースもあります。社内トラブルや早期退職、通常業務の支障になる可能性があるため、計画的に人材を採用しましょう。

営業スタッフが必要なら営業経験が豊富な人を募集する、長期的に働ける人が必要なら理念採用を取り入れるなど、今の会社に不足しているものを把握し、的を絞った採用が大切です。

3.新人の指導法を見直す

未経験者や新卒を採用している場合は、新人の指導法を見直すのもひとつの方法です。マニュアルを用意・改善したり、新人と近い立場の人を教育係にしたりしてみましょう。「いつまでたっても仕事をうまく進められない」といった理由での離職を防ぐのに効果が期待できます。

新人を育成・指導する人手が不足している場合は、外部のセミナーを受講させるのも一案です。その上で、会社が必要としている人材と、新しく採用した人の現状を照らし合わせ、適切な指導を行いましょう。

4.労働環境を改善する

社員の休日があまり取れなかったり、一人ひとりの業務の負担が重かったりする場合は、労働環境の改善をおすすめします。具体的な対策としては、振替休日制度を設ける、客単価を上げて業務の量を減らす、新しいスタッフを雇って業務を分散させるなどが挙げられます。

ただ単に休日を増やしたり業務の量を減らしたりするだけだと会社の業務に影響を及ぼしかねないので、適切なバランスを探ることが大切です。

5.ITツール・AIを導入して業務を効率化させる

不動産会社では物件やお客様の情報の管理、お問い合わせ対応、書類の作成などさまざまな業務があります。業務の多忙さによる離職を防ぐときは、ITツールやAIを導入して業務を効率化するのもひとつの方法です。

お客様からの電話対応のリソースを減らしたいときはIVR(電話自動音声応答システム)、顧客情報の管理や営業活動の効率化を狙うときはCRM(顧客管理システム)を導入してみましょう。

2022年11月に公開されたChatGPTでは、文章作成も代行させられます。うまく使いこなすと人手不足の解消だけでなく、業績アップも期待できるでしょう。

6.離職防止に役立つツールを利用する

社員の離職を防ぐには、組織の状況を可視化するための調査(組織サーベイ)を定期的に行うことが大切です。組織や社員一人ひとりの現状を客観的に分析することで、根本的な課題を見つけられるようになります。組織の悪い点や社員が抱いている不安を解消することで、離職の防止につなげられるのです。

上司との面談や紙面のアンケートを集計する方法もありますが、組織サーベイをサポートするツールとして利用するのもひとつの方法です。回答するだけで自動的にデータをグラフにまとめたり、蓄積されたデータをもとに課題の原因を追及したりする機能を備えているものもあります。

ツールを開発している会社によっては運用サポートを実施しているところもあるため、初めて導入する会社でもしっかりと活用できるでしょう。

7.給与体系を見直す

不動産業界では、固定給が低い代わりに歩合制で給与を決める会社がよくあります。歩合制は社員のモチベーションを保つために効果的ですが、あまりにも低固定給・高歩合率だと離職の原因になりかねません。固定給を上げて歩合率を下げたり、資格やスキルに応じて手当を出したり、柔軟に対応したいところです。社員が安定した生活を送れるような給与を支払うことで、離職も防ぐことができるはずです。

不動産会社の社員の離職対策について相談できる場所

不動産会社の社員の離職対策について相談できる場所
社内での話し合いだけで有効な対策を実施するのが難しい場合は、外部へ相談するのもひとつの方法です。外部の人からの客観的な意見をもらうことで、解決策を考案できるかもしれません。不動産会社の社員の離職対策について相談できる場所としては、以下のようなところが挙げられます。

・全日本不動産協会
・コンサルティング会社
・働き方改革推進支援センター
・ツールの販売会社

全日本不動産協会では、実務に関する相談を受け付けています。業務の効率化を図りたいときは頼れる存在でしょう。

コンサルティング会社でも、依頼内容に応じて導入するITツールの種類や労働環境の改善などに関するアドバイスを受けられます。

働き方改革推進支援センターでは、無料で専門家に相談することが可能です。特に労働環境の改善や給与体系の見直しなどを検討している中小企業・小規模事業者を対象としています。

またツールの販売会社によっては、自社ツールを導入した企業に対するサポートを実施しているところもあります。離職防止対策に行き詰まったときは、外部の人に声を掛けることも検討してみましょう。

工夫次第で不動産会社の社員の離職は防げる|できることから行動を

工夫次第で不動産会社の社員の離職は防げる
仕事の忙しさやワークライフバランスの悪さなど、不動産会社の社員が離職する原因はさまざまです。精神面・体力面の限界を感じたり、今の自分と会社の方向性の違いに気付いたりしたとき、社員は離職を検討し始めると考えられます。

今回紹介した離職の理由・原因は、工夫次第で防げそうなものばかりです。必要に応じて外部へ相談し、適切な対策を取っていきましょう。

全日本不動産協会では不動産に関する相談を受け付けています

「全日本不動産協会」は、中小規模の不動産会社で構成されている公益社団法人です。法人のマークにウサギが描かれていることから、「ウサギ」「ウサギマーク」の愛称で親しまれています。

「全日本不動産協会」では、不動産会社を経営している方・不動産業に携わっている方に向けた相談窓口を設けております。不動産実務をはじめ、不動産業に関わることなら何でも相談可能です。

地方本部でも、会員の方からの相談に定期または不定期にて応じております。不動産会社の経営に関する相談は「全日本不動産協会」にお声がけください。


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