不動産会社に追い風?「空き家対策推進プログラム」の内容と活用法を解説【国交省発表】
2025年12月26日

2024年6月21日、国土交通省は「不動産業による空き家対策推進プログラム」を策定しました。
近年、日本では空き家の急増が深刻な社会課題となっており、国や自治体を中心に、さまざまな対策が講じられています。
このたび発表されたプログラムには、不動産会社にとって新たなビジネス機会となる方針も盛り込まれていました。
そこで本記事では、「不動産業による空き家対策推進プログラム」の具体的な内容や、不動産会社が活用できるポイントについて分かりやすく解説します。
空き家対策推進プログラムが策定された背景

本プログラムが策定された背景には、増加の一途をたどる空き家・空き室の問題と、働き方・住まい方に対する新しいニーズの高まりがあります。
少子高齢化の進行により、家や部屋を手放す人が増えている一方、地方では不動産会社そのものが減少しており、対策が難航するエリアも少なくありません。
その一方で、テレワークの普及や生活スタイルの変化により、都心にこだわらない暮らしを求めて郊外や地方への関心が高まっています。
こうした流れの中で、不動産業界がこれまで蓄積してきたノウハウを活かし、空き家や空き室を地域資源として再活用する環境を整えることが、喫緊の課題となっているのです。
こうした状況を受け、国土交通省は空き家の利活用を後押しし、不動産業界が中心となって取り組みを展開しやすくなるよう、「空き家対策推進プログラム」の策定に踏み切りました。
空き家対策推進プログラムのプロジェクトの内容

「空き家対策推進プログラム」は、「流通に適した空き家等を見つける」と「空き家流通のビジネス化を支援」という2本柱で構成されています。それぞれの取り組みが、不動産会社にとってどのような可能性を秘めているのかを、順を追って解説します。
流通に適した空き家等を見つける
この柱では、空き家を流通させるための基盤づくりを目的とした4つの施策が掲げられています。
単なる現状対応にとどまらず、将来を見据えた体制整備も視野に入れた構成となっています。
空き家等の所有者への相談体制を強化
所有者が空き家の利活用や売却を検討する際に、不安や疑問を抱かずに相談できる環境づくりが求められています。
例えば、不動産会社が窓口を設けることで、専門的な知識を持つスタッフが一元的に対応できるようになります。
また、遠方の所有者でもオンラインで気軽にアクセスできる体制を整えることで、放置空き家の発生リスクを抑える効果も期待されます。
加えて、相談体制の一環としてガイドブックを活用する事例も検討されています。
地域ごとの相談先や必要な手続きの概要をまとめたツールを所有者に配布することで、相談への心理的ハードルを下げる狙いがあります。
不動産業界における空き家対策の担い手の育成
担い手不足の解消に向けた取り組みとして、不動産業界では「空き家に強い人材」の育成が進められています。
たとえば、空き家活用の知識を持つ宅建士を増やすため、専門的な研修の実施や資格制度の拡充が検討されています。
また、空き家活用には資金調達スキームの理解も重要であるため、資金支援制度に関するセミナーの開催や、自治体・金融機関との連携も強化される予定です。
さらに、異業種とのコラボレーションを視野に入れた「利活用コミュニティ」の創設も構想されており、空き家再生の可能性が大きく広がる環境が整えられようとしています。
地方公共団体との連携
地方自治体と民間事業者の連携強化も、プログラムの大きな柱のひとつです。
たとえば、空き家の利活用を促進するためのモデル事業の実施や、地域ニーズの掘り起こしなどが挙げられます。
実際に活用事例を創出し、それを全国へ波及させていくことで、成功パターンの横展開を図る考えです。
また、「空家等管理活用支援法人」制度の活用も進められています。
不動産関連団体がこの法人として指定されることで、所有者や利活用希望者の相談に対応し、管理業務や所有者探索などの支援がしやすくなります。
官民一体となり情報発信を強化
空き家対策を進めるうえで欠かせないのが、正確かつ有益な情報の提供です。プログラムでは、国・自治体・不動産業界が一体となって、以下のような情報発信を行っていく方針が示されています。
- 所有者に向けた空き家早期活用の啓発活動
- 利用希望者とのマッチングを促す情報提供
- 手続きや利活用ノウハウのガイド化
これらの情報発信にあたっては、公式サイトへのリンク案内、セミナーや説明会の開催、マニュアルの作成・配布など、実務的かつ多様な手段が講じられる予定です。
信頼性の高い官公庁と、現場を知る不動産会社が協力することで、より実践的な知識の共有が進むことが期待されています。
空き家流通のビジネス化を支援
不動産業界にとって新たな収益機会となる「空き家ビジネス」の推進も、今回のプログラムの大きな柱です。
4つの方策を通じて、これまで採算性の低さから後回しにされがちだった空き家案件への取り組みを後押しします。
空き家等に関する媒介報酬規制の見直し
従来、空き家取引では報酬額の上限がネックとなり、積極的に手がける不動産会社は少ない傾向がありました。今回の特例では、以下のような条件に該当する空き家について、報酬上限の緩和が認められます。
| 取引内容 | 売買取引 | 賃貸借取引 |
|---|---|---|
| 原則 | 物件価格に応じて一定の料率をかけた金額の合計額以内 | 1ヵ月分の借賃に1.1をかけた金額以内 |
| 空き家対策推進プログラムによる特例 | 30万円の1.1倍を上限に、原則の上限を超えて報酬を受け取れる | 貸主である依頼者から、1ヵ月分の2.2倍を上限に、原則の上限を超えて報酬を受け取れる |
| 特例の適用条件 | 物件価格が800万円以下の低廉な空家等 | 長期間使われていない、もしくは将来的に使う見込みがない宅地建物 |
これにより、低価格の空き家案件でも一定の収益が見込めるようになり、取り扱う不動産会社の裾野が広がることが期待されています。
「空き家管理受託のガイドライン」の策定と普及
空き家管理サービスを提供する不動産会社や団体は数多く存在するものの、業務基準がバラバラという課題がありました。
これを是正するため、業務内容や報酬のあり方、契約の進め方などを明確に示した「ガイドライン」が策定されました。
このガイドラインにより、所有者との信頼関係を築きやすくなり、不動産会社のサービス品質も底上げされると期待されています。
コンサルティング業務の促進
空き家の利活用には、売買や賃貸といった単純な仲介業務だけでなく、調査・提案・助成金制度の案内など、多岐にわたる知見が求められます。
そこで、不動産会社が行うコンサルティング業務を独立したサービスとして明確化し、報酬請求の根拠を明示する取り組みが進んでいます。
また、検索ポータルや成功事例のデータベース構築、「全国不動産コンサルティングフォーラム」が開催されるなど、空き家コンサル市場の活性化が図られています。
不動産DXによる業務の効率化
業務のデジタル化も、空き家活用を支える重要な要素です。書類の電子化や顧客管理のクラウド化などにより、不動産会社の業務負担を軽減し、テレワーク環境でも柔軟な対応が可能になります。
将来的には、不動産取引の「ワンストップ化」や、オンライン取引支援サイトの設立なども視野に入れており、業界全体のデジタルシフトがさらに加速していく見通しです。
空き家対策推進プログラム策定により関心が高まる「不動産コンサルティングマスター」とは

空き家対策推進プログラムの策定により、不動産分野における専門性の高い資格「不動産コンサルティングマスター」への注目が一段と高まると見られています。
不動産コンサルティングマスターとは、不動産の利活用・取得・運用・投資といった多面的なニーズに対応し、依頼者に対して総合的な提案を行うことができる専門資格です。
この資格を持つ人材は、市場調査や物件の分析、ライフプランに基づいた選択肢の提示など、依頼者の意思決定をサポートする役割を担います。
空き家対策推進プログラムにおいても、こうしたコンサルティングスキルの重要性は高まっており、今後ますます需要が拡大していくと予測されています。
なお、認定を受けるには一定の条件があり、宅地建物取引士・不動産鑑定士・一級建築士のいずれかの資格取得に加え、実務経験と「不動産コンサルティング技能試験」の合格が必要です。
認定までには時間がかかるケースも少なくないため、興味のある方は早めに準備を始めることが望まれます。
空き家対策推進プログラムにおいて不動産業界に求められる役割

空き家対策推進プログラムでは、不動産会社がこれまでに培ってきた知見やノウハウを最大限に活かし、地域における空き家問題の解消に貢献することが期待されています。
ここでは、具体的にどのような役割が求められているのかを項目ごとに見ていきましょう。
空き家等の所有者が抱える悩みや課題の解決
空き家を売却・活用しようとする所有者の多くは、何から手をつけて良いか分からず戸惑ってしまう傾向があります。
登記や権利関係の整理、リフォームや用途変更の検討など、複雑な手続きを前に立ち止まってしまうケースも少なくありません。
こうした場面で不動産会社が果たすべき役割は大きく、所有者の悩みに寄り添ったサポートや、最適な対応策の提案が求められます。
たとえば、「今すぐ売るべきか」「貸し出しも可能なのか」といった相談に対して柔軟に対応することで、空き家流通の円滑化に貢献できます。
働き方・住まい方に関する新しいニーズへの対応
ライフスタイルの変化により、住まいに対する価値観も多様化しています。
テレワークを前提とした地方移住や、DIY志向の高まりなど、物件選びの条件も以前とは大きく異なる時代となりました。
中古物件であっても「リノベ前提で購入したい」と考える層が一定数存在する今、不動産会社にはこうしたニーズを読み取り、マッチする空き家物件を紹介する対応力が求められています。
事業モデルによっては、自社で空き家をリフォームし、魅力ある商品として再販する手法も有効です。
空き家対策に貢献できる人材・後継者の育成
空き家問題の根本解決には、持続的に対応できる人材の育成が欠かせません。
特に地方では不動産業者そのものが減少傾向にあり、後継者不足も深刻化しています。
プログラムでは担い手育成を明確に位置づけており、不動産会社も研修やセミナー参加の奨励、資格取得の支援などを通じて社内体制の強化を図ることが求められています。
空き家ビジネスに取り組むことで、従業員の経験値も自然と高まり、将来的なリーダー人材の育成にもつながるでしょう。
空き家対策推進プログラムを活用した不動産会社のビジネスチャンス

空き家対策推進プログラムには、媒介報酬の特例やコンサルティング報酬の明確化など、不動産会社にとってビジネスチャンスとなる要素が複数含まれています。
プログラムをうまく活用すれば、事業の幅を広げるだけでなく、売上アップにもつなげることが可能です。
ここでは、不動産会社にとって注目すべき2つのビジネスチャンスを紹介します。
1. 取引額が小さい空き家を扱いやすくなる
従来、物件価格が低い空き家については、受け取れる仲介手数料が少額であるため、あまり積極的に取り扱われていませんでした。
しかし、空き家対策推進プログラムにより、媒介報酬の上限が緩和され、報酬額の引き上げが可能となりました。
「800万円以下の低廉な空家等」や「長期間使われていない空き家」などが対象となっており、従来よりも収益性が見込めるようになりました。
大規模な取引には競合が集中しがちですが、空き家のような中小規模の案件であれば、競争が緩やかで、地域密着型の不動産会社にもチャンスが生まれます。
地域に根ざした戦略で着実に案件を獲得していくことで、安定した経営基盤の構築も目指せるでしょう。
2. 通常の媒介報酬にコンサルティング報酬を上乗せ
空き家対策推進プログラムでは、不動産会社が行うコンサルティング業務に対して、媒介報酬とは別に報酬を受け取れることが明確化されました。
たとえば、空き家に関する調査・アドバイス・利活用プランの提案といった業務に対して、媒介契約とは独立した「コンサルティング料」として請求することが可能です。
加えて、除草や巡回点検といった管理業務なども、媒介業務の枠外として報酬対象となります。
このように、空き家の流通から利活用まで一貫して関与することで、1件あたりの案件で得られる収益が大きくなりやすくなります。
サービスの幅を広げ、より高付加価値な提案ができる不動産会社ほど、プログラムの恩恵を大きく享受できるでしょう。
空き家対策推進プログラムを活用したビジネスをするときの注意点

空き家対策推進プログラムを活用したビジネスは、不動産会社にとって大きなメリットがあります。
しかしその一方で、顧客に対する「費用の説明責任」がこれまで以上に重要になる点にも注意が必要です。
たとえば、媒介報酬の上限が緩和された場合や、コンサルティング報酬を別途請求する場合など、従来の料金体系とは異なる請求が発生することになります。
こうした変更点について、あらかじめ丁寧に説明しておかないと、「知らない料金を請求された」といった誤解を生む可能性も否めません。
そのため、報酬の内訳や計算根拠を明確にし、納得感のある説明ができる準備を整えておくことが大切です。
必要であれば、書面やガイドブックを用意するなどして、顧客との信頼関係を損なわない工夫も求められるでしょう。
空き家対策推進プログラムをうまく活用すると新しいチャンスを掴める可能性も

「空き家対策推進プログラム」は、「流通に適した空き家等を見つける」と「空き家流通のビジネス化を支援」という2つの柱で構成されており、空き家問題の解決と不動産業界の発展を同時に目指す施策です。
不動産会社にとっては、媒介報酬の特例やコンサルティング業務の強化、不動産DXの推進など、実務に直結するさまざまなメリットがあります。
これらを的確に活用すれば、新たな顧客層の開拓やサービス領域の拡大といった、これまでになかったチャンスを掴むことができるかもしれません。
少子高齢化・空き家の増加という構造的な課題に対して、社会的意義のあるビジネスとして取り組める点も、大きな魅力の一つです。
今こそ空き家ビジネスに積極的に取り組み、地域社会と自社の成長を同時に実現するチャンスを手にしましょう。
【補足】空き家対策推進プログラムに関するよくある質問
空き家対策推進プログラムに関心を持つ方からは、制度の仕組みや実際の活用方法について、さまざまな疑問の声が寄せられています。
ここでは、よくある質問とその回答をまとめました。不動産会社はもちろん、空き家の所有者にとっても役立つ情報をチェックしてみましょう。
Q1. 空き家対策推進プログラムの特例報酬はすべての不動産会社が利用できますか?
原則として、不動産会社が一定の条件を満たした空き家の取引に関与した場合に特例が適用されます。
ただし、国が定めるガイドラインや要件に沿って業務を行っていることが前提です。
Q2. 「空家等管理活用支援法人」はどのような団体が指定されるのですか?
主に不動産業の関係団体やNPO法人、自治体と連携して空き家の管理・利活用に取り組む団体が指定対象です。
所有者と利用希望者の間に立ち、調整・管理・情報提供などを担うのが特徴です。
Q3. 空き家の所有者は何から始めれば良いですか?
まずは地域の不動産会社や自治体の空き家相談窓口に連絡を取り、現状把握や選択肢の洗い出しを行うのが第一歩です。
必要に応じて、ガイドブックの活用や専門家への相談も検討しましょう。
Q4. 空き家の活用にあたり補助金や支援制度はありますか?
はい。自治体によっては、空き家のリフォーム費用補助や活用促進に関する支援制度を設けている場合があります。
制度の内容は地域により異なるため、各自治体の公式サイトなどで確認することが重要です。
Q5. 空き家の利活用に必要な資格はありますか?
法的に必須の資格はありませんが、宅地建物取引士や不動産コンサルティングマスターなどの資格があると、より専門的なアドバイスやサポートが行えるため信頼性が高まります。
ビジネスとして取り組むなら取得を視野に入れても良いでしょう。
不動産業開業のご相談は「全日本不動産協会」
「全日本不動産協会」は、1952年10月に創立された公益社団法人です。中小規模の不動産会社で構成されており、2025年10月末の正会員数は37,923社で年々増加しています。
不動産に関するさまざまな事業を展開し、調査研究や政策の提言、会員を対象とした研修などを行っています。47都道府県に本部を設置し、会員や消費者からの相談も受け付けています。
地域のネットワーク構築に、ぜひ全日本不動産協会をご活用ください。
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