居住サポート住宅制度とは|特徴・認定基準・補助金をわかりやすく解説
2025年05月13日
今後の日本では、高齢者や低所得者といった住宅確保要配慮者を対象とした賃貸住宅の需要が高まると予想されています。状況を鑑みた政府は、令和6年5月30日に「住宅セーフティネット法」の改正案を衆議院で可決・成立させました。
改正法の施行は令和7年10月1日で、以降は「居住サポート住宅」という新しい区分の住宅が提供されます。本記事では不動産業界で働く方に向け、居住サポート住宅に関する特徴、認定基準、補助金などの情報をわかりやすく紹介します。
居住サポート住宅制度|背景と目的
居住サポート住宅の目的は二つあります。一つ目は障がい者や高齢者、シングル世帯など住宅確保要配慮者の自立支援、二つ目は賃貸物件の利活用促進です。
時を同じくして家賃滞納や孤独死といった大家さんのリスク軽減を目的とする「居住サポート住宅」の認定制度も創設されました。
これらの組み合わせで従来の「セーフティネット住宅」より一歩進んだ支援と賃貸住宅の需給改善が期待できます。
「住宅確保要配慮者」とは
住宅確保要配慮者とは、賃貸住宅など適切な住まいを確保することが困難な状況にある人々です。
- 高齢者(特に一人暮らしや要介護者)
- 障害を持つ方
- 子育て中の低所得世帯
- DV被害者
- 難民や外国人居住者
- 生活困窮者 等
「居住サポート住宅」は3種類
住宅確保要配慮者のニーズに応じ、居住サポート住宅には3つの提供形態が設けられています。
◆関連情報:
住宅セーフティネット制度|国土交通省
「居住サポート住宅」の特徴
居住サポート住宅は、入居者の生活を支えるために独自のサービスを提供します。
入居者の安否確認・見守りサポート
居住サポート住宅では、高齢者や障がい者が安心して暮らせる環境が整えられます。
ICT機器による見守り方法
人感センサーや電気ポットの使用状況を把握できるICT機器などの設置や、その他の方法により、1日1回以上の頻度で実施
その他の見守り方法
支援スタッフ・地域ボランティアなどが原則月1回以上の頻度で訪問し、入居者の心身や生活の状況を把握
福祉サービスとの連携
入居者の状況に応じ、福祉サービスや医療機関等と連携します。
生活保護者の住宅扶助費の代理納付
自治体や居住支援法人などの福祉事務所が、生活保護受給者の住宅費を直接家主に支払います。大家さんは家賃滞納リスクが回避でき、生活保護者には生活の安定が実現します。
受給者の同意のもと、福祉事務所の判断で実施されますが、自治体によって手続きや条件が異なります。詳細は地域のケースワーカーに確認してください。
◆関連情報:
住宅確保要配慮者居住支援法人について|国土交通省
居住サポート住宅のメリット
居住サポート住宅には、大家さん・物件オーナーと入居者の両方にメリットがあります。具体例を挙げ解説しましょう。
大家さん・物件オーナーの場合
- 家賃未払いの不安の軽減
- 高齢者の孤独死対策となる
- 入居者が亡くなった後の残置物処理負荷が軽減
- 修繕に補助金を利用できる
住宅扶助の代理納付で、収入が不安定な入居者による家賃滞納リスクを回避できます。独身の入居者が亡くなった際の手続きをスムーズに進められる残置物処理の契約も、画期的な変化です。
さらに、居住サポート住宅として認証を受けると、改修や修繕に補助金が活用できる点も大きなメリットです。「駅から少し遠い」「築年数が古く空室が目立つ」といった物件を居住サポート住宅に転用することで、物件価値の向上と安定した収益が見込めます。
そういった物件の空室に悩む大家さんへ、認証取得を提案してはいかがでしょう。
入居者の場合
- 住環境を確保できる
- 身寄りがなくても入居できる
- 見守りサービスを受けられる
- 生活の支援を受けられる
居住サポート住宅の入居対象者(住宅確保要配慮者)は、収入が不安定・身寄りがないといった属性のため、賃貸住宅への入居が難しい現状があります。
要配慮者が利用しやすい家賃債務保証業者(認定保証業者)制度の創設で、安心して居住を確保する仕組みが整備されます。
安定した生活基盤を築ける上、定期的な見守りサポートといった生活支援で、社会的孤立やトラブルの抑止効果も期待できます。
居住サポート住宅のデメリット
居住サポート住宅は、大家さん・物件オーナーと入居者の双方にとって魅力的な制度ですが、いくつかのデメリットも存在します。
事務手続きの煩雑さ
認定を受けるための申請や書類の準備が必要であり、手続きを煩わしく感じることがあるでしょう。
改装工事費用が高額になる場合も
居住サポート住宅の基準を満たすために、一部を改装する必要が生じることがあります。工事費用が想定以上に高額な場合は、後述の補助金を活用しても足りない部分があるかもしれません。
これらのデメリットにより、一定の負担が生じる場合がある点にご留意ください。
「居住サポート住宅」と「セーフティネット住宅」の違い
「居住サポート住宅」と「セーフティネット住宅」の違いは入居後の生活支援を含むか否かです。
居住サポート住宅は福祉サービスと連携しますが、セーフティネット住宅は住居の確保そのものが目的となっています。
◆関連情報:
住宅セーフティネット制度|国土交通省
居住サポート住宅の認定基準
居住サポート住宅の認定基準は、改正住宅セーフティネット法の第41条に定められています。
要件を紹介しましょう。
一 居住安定援助賃貸住宅の各戸の床面積が、国土交通省令・厚生労働省令で定める規模以上であること。
二 居住安定援助賃貸住宅の構造及び設備が、住宅確保要配慮者の入居に支障を及ぼすおそれがないものとして国土交通省令・厚生労働省令で定める基準に適合するものであること。
三 前条第二項第六号に掲げる範囲が定められている場合にあっては、その範囲が、住宅確保要配慮者の入居を不当に制限しないものとして国土交通省令・厚生労働省令で定める基準に適合するものであること。
四 専用戸数が、国土交通省令・厚生労働省令で定める数以上であること。
五 居住安定援助賃貸住宅の家賃その他賃貸の条件が、国土交通省令・厚生労働省令で定める基準に従い適正に定められているものであること。
六 入居者に提供する居住安定援助の内容が、住宅確保要配慮者の生活の安定を図るために必要なものとして国土交通省令・厚生労働省令で定める基準に適合するものであること。
七 居住安定援助の提供の対価その他居住安定援助の提供の条件が、国土交通省令・厚生労働省令で定める基準に従い適正に定められているものであること。
八 その他基本方針(居住安定援助賃貸住宅が市町村賃貸住宅供給促進計画が作成されている市町村の区域内にある場合にあっては基本方針及び市町村賃貸住宅供給促進計画、居住安定援助賃貸住宅が都道府県賃貸住宅供給促進計画が作成されている都道府県の区域(当該市町村の区域を除く。)内にある場合にあっては基本方針及び都道府県賃貸住宅供給促進計画)に照らして適切なものであること。
引用元:
国土交通省-住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部を改正する法律(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部改正)
床面積や専用個数などの具体的な認定基準は、令和7年夏までを目途に定められます。どのような物件が居住サポート住宅として認められるのか、続報に注目しましょう。
居住サポート住宅の建設に関する補助金
居住サポート住宅の運用において、条件を満たせば補助金を受給できます。
ここでは主な補助金を4種類ご紹介します。ただし、補助制度は今後段階的に拡充される予定であり、この記事の情報は執筆時点のものであることにご留意ください。
改修費に関する補助
物件を居住サポート住宅にリフォームする場合、改修費に関する補助を受けられます。
子育て支援施設の併設に係る工事をする場合、補助金の限度額が1施設につき1,000万円に引き上げられます。
家賃の低廉化に関する補助
物件を居住サポート住宅にするために家賃を安くする場合、家賃の低廉化に関する補助が受けられます。
支援期間は管理開始から原則10年以内ですが、一定の条件を満たす世帯はさらに期間を延長できます。
家賃債務保証料等の低廉化に関する補助
家賃債務保証料等の負担を軽減するときに活用できる補助金も用意されています。
ただし限度額については家賃の低廉化に関する補助と合算することになっており、国費総額は1戸につき240万円です。
セーフティネット住宅への住み替えに関する補助
セーフティネット住宅への住替えがされるときも、補助金を利用できます。
補助対象世帯が限られているため、入居時によく確認しましょう。
◆関連資料:
居住支援法人が活用できる補助金等の一例|国土交通省
改正住宅セーフティネット法は令和7年10月1日施行予定|居住サポート住宅への理解を深めておこう
居住サポート住宅は、住宅確保要配慮者の入居や生活を支援するための住宅です。大家や物件オーナー向けの制度整備も進められているため、今後さらなる需要の拡大が見込まれています。
令和7年10月1日の施工に向け「居住サポート住宅」の理解を深め、大家さんや入居希望者に対応する準備をはじめてみてはいかがでしょう。
法改正のキャッチアップには、全日本不動産協会の「月刊不動産」が便利です。ぜひ最新の情報を入手し、提案などにご活用ください。
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