原状回復|提案力で差をつける実践ノウハウ


2026年01月23日

賃貸借契約における原状回復は、次の募集活動に大きな影響を与える重要なプロセスです。

不動産営業が他社と差をつけるには、コスト削減と物件価値向上を見据えた提案力が欠かせません。

本記事でポイントと実践ノウハウを解説しましょう。

「原状回復」とは

原状回復とは、賃貸物件で入居者が退去する際、入居前の状態に戻すために行う工事や修繕です。

※以下、「入居者」は契約上の賃借人を含む意味で記載しています。

国土交通省の定めたガイドラインでは下記のように定めています。

「原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」

出典:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

現状回復ガイドライン

原状回復|「損耗」の区分

原状回復においては、通常損耗と入居者の故意・過失による損傷とを正しく区別することが重要です。区分を解説しましょう。

経年変化

経年変化とは、通常の使用の範囲内で、時間の経過に伴い建物や設備が自然に劣化・変化することを指します。

基本的には入居者の責任とはならず、原則として貸主が修繕費用を負担します。

  • 壁紙の日焼け
  • 床のすり減り
  • 金属部分のサビ 等

通常損耗

通常損耗とは、入居者が普通に生活する中で自然に生じる損傷や劣化です。

入居者の責任とはならず、原則として貸主が修繕費用を負担します。

  • 家具の設置による床のへこみ
  • 日焼けによるクロスの変色 等

過失による損耗

入居者の故意・過失、善管注意義務違反、または通常の使用を超える使い方による損耗は、入居者の負担です。

  • 飲み物をこぼしたことによるシミ
  • 故意に開けた壁の穴 等

原状回復|貸主・入居者の負担箇所

原状回復費を負担する人は、部位や損傷の度合い・理由等によって異なります。主な部位は下記をご参照ください。

部位 貸主が負担する場合 入居者が負担する場合
床・天井
  • テレビ・冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ
  • 壁に貼っていたポスターや絵画の跡
  • クロスの変色(自然現象によるもののみ)
  • 壁等の画鋲・ピンの穴
  • タバコ等のヤニ・臭い
  • 壁等のくぎ穴・ネジ穴
  • 天井に直接つけた照明器具の跡
  • 落書き等の故意による毀損
建具
(襖・柱など)
  • 網戸の張替え
  • 地震で破損したガラス
  • 飼育していたペットによるキズ・臭い
  • 落書き等の故意による毀損
その他
  • 全体のハウスクリーニング
  • エアコンの内部洗浄
  • 水回りの消毒
  • 浴槽・風呂釜等の取替え
  • 鍵の取替え(破損・紛失のない場合)
  • 設備機器の故障(経年劣化・寿命によるもの)
  • 日頃の不適切な手入れ・用法違反による毀損
  • 鍵の紛失・破損による取替え
  • 庭に生い茂った雑草(戸建賃貸住宅の場合)

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)|国土交通省

賃貸借契約時の物件状況確認書(入居時チェックリスト)

現状回復確認リスト

賃貸物件の入居時は、物件状況確認書(入居時チェックリスト)の記入が必須です。

貸主(もしくは代理人としての不動産営業)・借主(入居者)双方で壁や床の傷、設備の不具合などを細かくチェックし、写真などで証拠を残しておくことで、退去時の原状回復トラブルを未然に防ぎます。

退去時に入居者の負担範囲を適正に判断できるよう、貸主と入居者双方が署名・押印の上、保管してください。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)のダウンロード|国土交通省

原状回復|費用について

原状回復費を算出する基本の流れは、以下のとおりです。

  1. 現地調査
  2. 見積もりの依頼・作成
  3. ガイドラインの確認

見積書は契約終了後、1か月以内の送付が望ましいでしょう。

入居者からの交渉で金額が変わるケースもあるため、スケジュールに余裕を持って対応してください。

定額法

設備などの経過年数と賃借人負担割合

原状回復費用は一般的に、建物や設備の経過年数に応じて、入居者が負担する範囲を合理的に減額する「定額法」が適用されます。

たとえばクロス(壁紙)であれば耐用年数を6年と設定し、6年を超えていれば入居者負担をゼロとします。

入居者が経年劣化分まで過剰に負担することを防ぎ、公平な費用負担を図りましょう。

原状回復|洗浄・工事の種類

原状回復費用に悩む

ハウスクリーニング

通常の生活で生じた汚れは、入居者が清掃するのが一般的です。

しかし換気扇の油汚れや浴室のカビ、トイレの汚れなどは、専門業者によるクリーニングが欠かせません。

水回りやキッチンは、清掃の質によって物件の印象が大きく左右されるため、プロの手で徹底的に仕上げることが重要だからです。

信頼できる業者の確保は、長期的な管理コストの削減につながります。

地域で評判の良い業者と提携し、安定した品質のクリーニングを提供できる体制を整えましょう。

エアコンクリーニング

エアコンの内部清掃は、通常の使用による汚れであれば貸主が負担するのが原則とされています。

これは、エアコンが設備として備え付けられている場合、その維持管理は貸主の責任とされているためです。

経年劣化や自然な汚れによるメンテナンスは、建物や設備の維持管理義務に含まれます。

特にエアコン内部のカビやホコリの蓄積は、放置すると性能低下や健康被害の原因にもなります。

ただし、入居者の故意・過失による著しい汚損(例:長期間にわたりフィルター清掃をまったく行わなかった場合等)が認められる場合には、例外的に入居者負担となる可能性もあります。

タバコ・アロマキャンドル等の消臭

タバコやアロマキャンドルによる強い臭いが残った場合、通常の使用範囲を超える損耗とみなされるケースもあります。

契約時には臭いに関する負担区分も明記しておきましょう。

具体的なクリーニング費用や消臭作業の負担条件について、事前に詳細を取り決めておくことが重要です。

建物の構造上の理由による破損・汚損の回復

建物の構造上の問題に起因する破損や汚損は、入居者に原状回復義務はありません。

具体的には老朽化によるひび割れや雨漏り、給排水設備の不具合による汚損などが該当します。

これらは建物自体の瑕疵に起因するため、通常の使用とは無関係であり、入居者側の責任を問うことはできません。

原状回復の対象外となるため、負担範囲を明確にしておくことが重要です。

原状回復トラブルを防ぐ|不動産営業がおさえたいポイント

不動産管理会社へ相談

契約書の任意的記載事項に明記

賃貸借契約における原状回復に関する取り決めは「任意的記載事項」とするのが一般的です。

国土交通省のガイドラインでも、契約書で事前に具体的な取り決めを行うことが望ましいとされています。

通常損耗や経年変化に対する入居者負担の範囲、修繕方法、負担割合などを具体的に記載することで退去時のトラブル防止につながります。

記載が不十分な場合、貸主(もしくは代理人としての不動産営業)・入居者双方が負担の範囲を主張し、紛争となるリスクが高まります。
契約時に明確な合意形成をとってください。

入居前の丁寧な状態確認

壁紙や床の傷、設備の不具合、汚れなどを入退去時の物件状況及び原状回復確認リストなどのチェックリストに沿って細かく確認し、写真も併用して記録します。

作業は貸主・入居者の双方立ち合いのもとで実施し、記録内容に署名・押印の上、保管を促しましょう。

善管注意義務の説明

原状回復では、通常の生活で発生する汚れや傷については入居者の責任とはならず、費用を請求されることはありません。

入居者には善良な管理者として物件を使用する義務(善良注意義務)があり、汚損や損傷の程度が一定の基準を超えると、原状回復費を請求される場合があります。

入居者には日々の清掃を心がけ、設備を丁寧に使用するよう伝えましょう。

改装は貸主へ相談

賃貸物件は貸主の所有物です。改装を希望する場合は、作業に着手する前に貸主へ相談し、許可を得ることが欠かせません。

また、改装後の原状回復対応は、状況や貸主の判断によって大きく異なります。

改装内容が良好なものであれば費用請求が発生しない、あるいは、貸主が改装部分を評価して買い取る場合もあります。

こうした取り扱いを明確にするためにも、改装内容や費用負担については事前に明文化すべきです。

トラブル防止のため、細かな点まで貸主と丁寧にすり合わせを行いましょう。

退去時は公平な立ち合いを心掛ける

退去時の立ち合いでは、物件の状態を公平な目線で確認することが重要です。

貸主側・入居者のいずれかに偏った判断を避け、事実に基づいたチェックが求められるのです。

工事費用を過剰に請求したり、雑な確認によって新たな汚損箇所を見落としたりすることは、後々のトラブルや信頼関係の悪化につながりかねません。

必要に応じて、複数の業者から見積もりを取ったり、専門家に第三者的な立場で確認を依頼したりするのも有効です。

円満な契約終了のためにも、丁寧かつ透明性の高い立ち合いを心掛けましょう。

地域の業者とコネクションを持つ

質の良いサービスを提供する工事業者やクリーニング業者とのコネクションも必須です。

信頼できる業者に依頼すれば、仕上がりの品質が高く、物件の魅力アップが期待できるでしょう。

費用や工期の相談もしやすく、短納期対応も柔軟に動いてもらえるメリットも。

地域の不動産業者ネットワークを活かし、高品質なサービスに定評のある業者とつながりを持ちましょう。

ご入会メリット|全日本不動産協会

原状回復でトラブルになったとき

費用負担や修繕範囲をめぐり貸主・入居者間でトラブルに発展することもあります。

万が一トラブルになってしまった場合の対処方法を紹介しましょう。

少額訴訟

請求額が60万円以下の場合は、簡易裁判所で迅速に解決を図る少額訴訟が有効です。
通常の訴訟に比べて費用や手間を抑えられ、双方の主張をもとに1回の審理で判決が下されます。

行政へ相談

行政機関への相談も有効な手段です。

各自治体の消費生活センターや国民生活センターでは、賃貸契約に関する相談を受け付けており、原状回復費用の適正範囲やトラブル解決のアドバイスを無料で受けることができます。

第三者の立場から冷静な判断を示してもらえるため、貸主・入居者間で話し合いが難航した際には早めに活用しましょう。

裁判外紛争処理

裁判を起こさずに第三者機関を介して話し合いによる解決を目指す、裁判外紛争処理(ADR)を利用する方法もご検討ください。

法的トラブル解決には、「ADR(裁判外紛争解決手続)」|政府広報オンライン

【参考】「賃貸不動産経営管理士」受験で原状回復を体系的に学ぼう

落ち着いた雰囲気のベッドルーム

実践的な原状回復の知識を身につけたい方は「賃貸不動産経営管理士」資格を取得してはいかがでしょう。

原状回復ガイドラインの理解はもちろん、通常損耗と入居者負担の適切な判断、トラブル防止の実務対応まで体系的に学べます。

貸主・入居者双方に公平な提案ができる力が養われ、管理業務の信頼性向上にも直結します。

実務にすぐ活かせるので、ぜひ積極的にご検討ください。

賃貸不動産経営管理士|一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会

原状回復の知識を“提案力”として営業に活かそう

2020年4月施行の改正民法では、賃借人の原状回復義務について明確なルールが定められました。

(賃借人の原状回復義務)
第六百二十一条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

民法六百二十一条|e-GOV法令検索より

この改正により「原状回復=入居時の状態に完全に戻すことではない」という考え方が法律上も明確になり、退去時の費用負担をめぐるトラブルの判断基準が整理されています。

原状回復に関する正確な知識は、営業現場で大きな提案力となります。

リフォーム提案による賃料アップや競争力向上につながる提案を行えば、オーナーの収益最大化にも貢献でき、他社との差別化にも効果的です。

工事を「単なる修繕」ではなく「物件価値向上のチャンス」と捉えられるかどうかが、営業担当者としての力量を大きく左右するでしょう。

日々の実務の中で知識を磨き、付加価値の高い提案営業を目指してください。

※法律で決まっているとはいえ、契約書に「クリーニング特約」(例:退去時に清掃代として〇〇円支払う)として予定費用の明細等が記載されている場合は、その内容が優先されることが一般的です。

ただし、その特約があまりに高額すぎたり、内容が不透明である場合は、この民法第621条を根拠に交渉できる可能性があります。

不動産業開業は「全日本不動産協会」

「全日本不動産協会」は、1952年に設立した公益社団法人です。中小規模の不動産会社で構成されており、2025年12月末の正会員数は38,101社に上ります。

活動内容は多岐にわたり、不動産に関する調査研究、不動産情報流通システム「ラビーネット」運営、会員を対象とした研修の実施や広報など、さまざまな事業を展開しています。

全国に47の都道府県本部を設置し、相談事業をはじめとした会員サポートも行っています。

原状回復に関するご質問・ご相談も、ぜひ「全日本不動産協会」までお寄せください。

ご入会メリット|全日本不動産協会



閉じる