大規模修繕の基礎知識とポイントを解説
2025年04月10日
大規模修繕とは、マンションの老朽化を防ぎ、資産価値を維持するために行われる計画的な工事です。修繕計画の立案・業者選定・資金調達には多くの人が関わり、専門的な知識が求められます。適切な準備と合意形成がスムーズに進むかどうかが、工事の成功を左右する重要なポイントとなります。
近年は修繕費の高騰や管理組合による意思決定の遅れが課題になっています。本記事で大規模修繕の基礎知識とポイントを解説します。
マンションに大規模修繕が重要な理由
安全性の確保
大規模修繕は、マンションの設備を適切に保全し、長期間にわたって安全かつ快適に使用するために必要です。給排水管や電気設備、エレベーターなどの設備は、経年劣化により故障やトラブルが発生しやすくなります。
特に配管の老朽化による漏水や、電気設備の不具合は生活に大きな影響を与えるため、定期的な点検と適切な修繕が不可欠です。
資産価値の維持
外壁や屋根の劣化が進むと、美観が損なわれるだけでなく、雨漏りや構造の損傷につながり、建物全体の評価が下がります。
また、給排水管や電気設備の老朽化は、居住環境の悪化を招き、売却時の価格にも影響を与えます。適切な修繕を行うことで、物件の魅力を維持し、将来的な資産価値の低下を防ぐことができます。
大規模修繕の基礎知識
大規模修繕は、一般的な修繕工事やリフォーム工事とは異なる点が多くあります。内容・流れ・工事期間の目安について解説します。
大規模修繕とは
大規模修繕とは、経年劣化によって傷んだり故障したりした箇所を修理し、建物の機能や性能を回復させるための工事です。修繕の対象となるのは、エレベーターやインターホンなどの共用部分や、日常の修繕では対応が難しい箇所などです。
具体的な工事内容としては、外壁の補修・防水工事・塗装工事・排水管の交換・モニター付きインターホンの導入などが挙げられます。大規模修繕では、単に傷んだ箇所を修理するだけでなく、入居者がより快適に過ごせるよう設備をアップグレードする場合もあります。
大規模修繕の流れ
大規模修繕は、事前に建物の劣化状況を調査し、予算を決めたうえで進められます。基本的な流れは、次の通りです。
- 1.大規模修繕委員会を発足
- 2.マンションの損傷や劣化の具合を調査
- 3.大規模修繕の方針や予算を決定
- 4.工事を依頼する施工会社の選定
- 5.大規模修繕の工事開始
- 6.竣工・引渡し
大規模修繕では、工事開始までに数年をかけてマンションの調査や工事方針の決定を行います。工事の完了時期から逆算してスケジュールを立て、適切なタイミングでの工事実施が重要です。
大規模修繕の工事期間の目安
大規模修繕の工事期間の目安は、マンションの大きさによって異なります。
これらの期間は、建物の構造や劣化状況、工事の範囲などによって変動する可能性があります。また、計画段階から工事完了までには、合意形成や準備期間も含めて2~3年程度を要することが一般的です。
途中で計画が見直され、スケジュールの調整や追加の検討が必要になるケースにもご留意ください。
大規模修繕を行う周期の目安
大規模修繕は、12~15年間隔で行うケースがよく見られます。国土交通省が発表した令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査によると、大規模修繕の回数ごとの平均的な修繕周期は次の通りです。
- 1回目:15.6年
- 2回目:14.0年
- 3回目:12.9年
- 4回目以上:13.1年
大規模修繕の回数が増えると、修繕の周期が短くなる傾向があります。
近年では、耐久性に優れた部材を選び、修繕周期を15年以上に延ばすマンションも増えています。修繕周期は、使用する製品の仕様や資金計画など、さまざまな要素を総合的に考慮して決定されます。
大規模修繕にかかる費用の目安
国土交通省が発表した令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査によると、大規模修繕工事の費用で最も多かったのは 4,000万〜6,000万円 、1戸あたりの工事費用は 100万〜125万円 というケースでした。
※なお、工事金額に共通仮設費は含みません
ただし、修繕の回数によって費用の目安は異なります。回数が増えるにつれて、工事費用も上昇します。一度に多額の費用がかかるため、綿密な計画が重要です。
大規模修繕をしている間の入居者の過ごし方
大規模修繕中は、工事音や塗料の匂いやベランダの使用制限などで入居者の生活に影響があります。
洗濯物は室内干しにする、騒音が気になる時間帯は外出を増やすなどの工夫を呼びかけましょう。
工事スケジュールを確認し、リモートワークの場所を調整するのも有効です。管理組合の通知をこまめにチェックし、必要に応じて相談することで、スムーズに対応できるでしょう。
大規模修繕の進め方
設計監理方式
設計監理方式は、大規模修繕の際に 計画の立案(設計)と工事の監理を専門のコンサルタントに依頼し、施工業者とは別にする方式 です。
第三者の立場で工事内容や見積もりを精査できるため、適正な価格と品質が確保しやすい というメリットがあります。また、管理組合は工事業者と直接契約を結ぶため、透明性が高まります。
一方で、コンサルタント費用が発生するため、トータルコストや修繕計画が適正かを慎重に判断することが重要です。
責任施工方式
責任施工方式 とは、大規模修繕の設計・施工・管理をすべて同じ業者(不動産管理会社など)に一任する方式 です。設計監理方式に比べ、発注や調整の手間が少なく、スムーズに進めやすい というメリットがあります。
業者が設計や見積を担当するため、コストや工事内容の適正性を十分に確認する必要があります。
大規模修繕のトレンド
選択肢の増加
近年の大規模修繕は、技術の向上により工事の選択肢が広がっており、オーナーや管理組合の方針に応じた工事が実現しやすくなっています。
不動産管理会社が大規模修繕に関する相談を受ける際は、各オーナーや管理組合の要望や条件に応じた柔軟な対応が求められます。工事内容や費用に関する説明ができるよう、事前に準備しておきましょう。
主流は「設計監理方式」
近年は、計画の立案と実際の工事を別の会社に依頼する「設計監理方式」が主流です。マンションにとって本当に必要な工事を過不足なく実施できるよう、談合を禁止する誓約を求める管理組合も増えています。
修繕費用の適切な運用に注意
これまで、大規模修繕の費用は 現預金を積み立てながら支出を抑える 方法が一般的とされてきました。しかし、近年の人件費や材料費の高騰により、現預金の価値が相対的に低下しつつあります。
さらに工事開始までに 1〜2年の待機期間 が発生するケースもあり、その間に 資金の実質価値が目減りする可能性 も考慮する必要があります。
現在では、現預金の価値低下への対策として、積立金の運用方法に注目する人が増えつつあります。これまでの主な投資先は 元本割れリスクの低い国債 などが中心でしたが、近年ではそれ以外の金融商品への投資を検討する動きも見られます。
管理計画認定制度
管理計画認定制度は、マンションの適切な管理を促進するため、2022年 に創設されました。地方自治体が、管理規約の整備、長期修繕計画の有無、修繕積立金の状況など を審査し、一定の基準を満たしたマンションを認定します。
中古マンションの需要が高まる中、適正な管理の重要性が増しており、今後マンション運営において重要な指標の一つ となっています。
マンション管理適正評価制度
マンション管理適正評価制度 は、マンションの管理状況を 客観的な指標で評価し、5段階で格付けします。国土交通省の指針に基づき、管理規約の整備、修繕積立金の状況、長期修繕計画の有無など を総合的に評価します。
購入希望者にとっても、適切に管理されたマンションかどうかを判断しやすくなるため、今後の不動産市場において重要な指標の一つです。
不動産管理会社として大規模修繕の相談を受けたときのポイント
マンション管理組合が「責任施工方式」を選ぶと、不動産管理会社が相談を受けます。工事費の見積もりや業者選定では、複数の提案を比較し、適正価格での契約をサポートすることが求められます。
住民説明会の開催や合意形成の支援も大切です。円滑な進行のため、専門家の意見を活用しながら計画的に進めることが成功の鍵となります。
大規模修繕に関する情報を発信している一般社団法人などが頻繁にセミナーを開催しています。自らセミナーに参加すると同時に、管理組合にも参加を促しましょう。
下記のような資格を取得するのもおすすめです。積極的に資格の取得を検討してください。
管理業務主任者資格
管理業務主任者は、マンション管理会社が適正な管理を行うために必要な国家資格で、管理組合との契約や重要事項の説明、長期修繕計画の作成支援などを担います。
この資格を持つことで、管理組合に対して管理業務の適正化や改善を提案し、円滑な運営をサポートできます。試験の合格率は約20%で、合格後は国土交通大臣への登録が必要です。
◆関連情報:
管理業務主任者資格とは|一般社団法人マンション管理業協会
マンション管理士資格
マンション管理士は、マンション管理組合の運営や建物の維持管理に関する専門知識を持ち、適切なアドバイスを行うための国家資格です。マンションの老朽化や管理組合の高齢化が進む中、適正な管理の重要性が高まっており、マンション管理士の役割も拡大しています。
知識の習得に、全日本不動産協会の47都道府県にある地方本部が開催するセミナーをご活用ください。
◆関連情報:
マンション管理士試験|公益財団法人マンション管理センター
法改正等の情報収集に、全日本不動産協会が刊行する「月刊不動産」もおすすめです。
◆おすすめ情報:
月刊不動産|全日本不動産協会
不動産業開業のご相談は「全日本不動産協会」
「全日本不動産協会」は、1952年10月に創立された公益社団法人です。中小規模の不動産会社で構成されており、2025年2月末の正会員数は37,054社で年々増加しています。
不動産に関するさまざまな事業を展開し、調査研究や政策の提言、会員を対象とした研修などを行っています。47都道府県に本部を設置し、会員や消費者からの相談も受け付けています。
地域のネットワーク構築に、ぜひ全日本不動産協会をご活用ください。
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