残置物の処理等に関するモデル契約条項とは?対象となる高齢者や適用契約、手続きの流れをわかりやすく解説


2025年12月26日

高齢者賃貸と残置物処理
近年、単身高齢者の増加に伴い、賃貸住宅の現場では「入居後の対応」に不安を感じるオーナーが増えています。

とくに、入居者が亡くなった際の契約解除や残置物の処理は、法的手続きや相続人対応が複雑になりがちです。

こうした課題に対応するため、国土交通省と法務省は「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定しました。

この記事では、制度の目的や対象、具体的な契約の流れから、不動産会社に求められる役割、契約後の対応までをわかりやすく解説します。

単身高齢者向けの賃貸に関わる方は、ぜひ参考にしてください。

残置物の処理等に関するモデル契約条項策定の背景

高齢者賃貸と残置物処理の制度背景
日本では、少子高齢化の進行や未婚率の上昇により、単身高齢者の数が年々増加しています。

不動産業界においても、こうした単身高齢者に対する賃貸住宅の需要は高まる一方ですが、現場では依然として単身高齢者の入居を敬遠する傾向が見受けられます。

たとえば、以下のような理由から、物件のオーナーが単身高齢者の入居を断るケースがあります。

  • 入居者が亡くなった後の賃貸借契約の解除が煩雑である
  • 相続人の特定や連絡に時間と手間がかかる
  • 残された家財(残置物)をオーナーが自由に処分できない
  • 手続きが完了するまで、次の入居者募集ができず家賃収入も滞る可能性がある

こうした課題を受け、国土交通省と法務省は、単身高齢者の賃貸住宅への入居促進と、貸主側の不安解消を目的として「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定しました。

このモデル契約条項は、法的な義務ではなく任意の制度ですが、合理的な契約締結を実現し、結果として高齢者の住まいの安定確保を図ることが期待されています。

残置物の処理等に関するモデル契約条項とは?制度の特徴を解説

残置物処理モデル契約条項の制度概要

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」は、2021年6月に国土交通省と法務省が共同で策定した制度です。

高齢化社会の進展により、単身高齢者が賃貸住宅を契約する際のトラブルや不安が増えている中、その解消を目的として導入されました。

従来、単身高齢者が賃貸住宅に入居し、万が一の事態が発生した際には、賃貸人側が残された家財の処分や契約の解除に苦慮するケースが多く報告されてきました。

相続人が特定できない、連絡が取れないといった事例では、物件を原状回復するまでに長期間を要し、家賃収入の停滞やトラブルに繋がることもありました。

このモデル契約条項は、そうした課題に対し、入居時点で第三者(受任者)をあらかじめ設定しておくことで、入居者の死亡後もスムーズに賃貸借契約の解除や残置物の処理が進められるようにする仕組みです。

この制度の導入により、入居者・賃貸人の双方が安心して契約を結ぶことが可能となり、特に単身高齢者の住宅確保の促進につながることが期待されています。

対象は60歳以上の単身高齢者

この契約条項は、入居時に60歳以上である単身高齢者が対象です。

60歳未満の入居希望者や、同居者・保証人候補が明確な場合には対象外となります。

居住支援法人や管理会社も受任者に指定可能

従来は推定相続人が契約解除・残置物処理の受任者として指定されていましたが、モデル契約条項では、居住支援法人や不動産管理会社も受任者として指定可能です。

これにより、相続人が不明・不在の場合でも、手続きがスムーズに進みやすくなり、オーナー側の負担を軽減できます。なお、オーナー自身は受任者になることができません。

契約解除後3カ月を目安に残置物を処分可能

契約解除から3カ月を目安に、未処分の家財(非指定残置物)をオーナー側で処分できる点も、この制度の大きな特徴です。

食品など衛生的な問題がある物は即時廃棄でき、高価な品は適切に換価または供託することが可能です。

残置物の処理等に関するモデル契約条項が適用される契約は3種類

残置物処理モデル契約条項が適用される契約種類
モデル契約条項は、単身高齢者の死亡後に発生する手続きを円滑に進めるために設けられたものですが、具体的にはどのような契約に適用されるのでしょうか。

制度の構造を正しく理解するためには、「誰が、何を、どの契約で」担うのかを明確にすることが重要です。

ここでは、残置物の処理等に関するモデル契約条項が適用される3つの契約タイプについて、それぞれの役割や連携のポイントを解説します。

解除関係事務委任契約

入居者が亡くなった後に、受任者が賃貸借契約の解除手続きを代行できる契約。

推定相続人のほか、第三者機関を受任者に指定することも可能です。

残置物関係事務委託契約

賃貸借契約終了後に、受任者が残置物を整理・処分・送付できる契約。

こちらも管理会社や居住支援法人などを指定可能です。

賃貸借契約

上記2つの委任契約を前提に、「残置物の処理に関する条項」を盛り込んだ賃貸借契約を締結します。

契約書式は国土交通省公式サイトからダウンロード可能です。

残置物の処理等に関するモデル契約条項で契約を結んだ後にすること

残置物処理モデル契約後の手続き
モデル契約条項を活用して契約を締結したあとも、安心して暮らすためには入居者・関係者が準備すべきことがあります。

「契約を結べば終わり」ではなく、いざという時にスムーズな対応ができるよう、具体的な段取りや資料の整備が欠かせません。

このセクションでは、契約後に行っておきたい実務的な取り組みについて整理していきます。

相続人や知人等に残してほしい物のリスト作成

入居者は、残しておきたい家財を明記したリストを作成します。

リストには、品名・保管場所・送付先などを具体的に記載。シール貼付による分類も可能です。

高齢者にとっては負担となることもあるため、引越しのタイミングなどでの声掛けや支援が望まれます。

賃貸借契約の解除や残置物処理のための費用に関する相談

契約解除や処分にかかる費用(人件費・清掃費・処分費など)について、入居者と受任者の間で事前に話し合い、明確にしておくことが大切です。

貴金属やブランド品などを処分資金に充てる方法も有効です。

残置物の処理等に関するモデル契約条項の活用法

残置物処理モデル契約条項の活用法
制度をただ知っているだけでは意味がありません。実際にどのような場面で、どのように活用できるのかを理解することで、モデル契約条項は初めて現場で“使える”制度になります。

ここでは、実務上ありがちな課題に対し、モデル契約条項がどのように機能し、どんな効果をもたらすのかを具体的に解説します。オーナーや管理会社、不動産会社の現場対応にも直結する活用視点です。

1. 賃貸借契約の解除手続きの負担を軽減

相続人の所在不明や意見不一致で契約解除が遅れることを防ぐため、受任者が手続きを代理できる体制を整えることが、オーナーの負担軽減につながります。

2. 残置物の迅速な処分

あらかじめリスト化された残置物は送付や処分が可能となり、現金や金券類については供託手続きなどを通じて法的に適切な対応がとられます。

これにより空室期間の短縮も期待できます。

残置物の処理等に関するモデル契約条項において不動産会社に期待されること

誠実な仕事に定評のある不動産会社社員
不動産会社は、物件の紹介や契約の仲介だけでなく、単身高齢者の住まい探しにおいて重要なサポート役となる存在です。

モデル契約条項の普及・運用を進めていく上でも、不動産会社の関与は非常に重要とされています。

このセクションでは、現場で不動産会社に求められる具体的な役割や、実務に活かせるアプローチについて整理します。

1. 制度の紹介

不動産会社は、賃貸借契約の仲介や入居審査だけでなく、単身高齢者の住まい探しを支援する重要な立場にあります。

モデル契約条項についての知識を持ち、物件オーナーに対して「この制度を導入すれば、入居後のトラブルリスクが軽減されます」と説明することで、高齢者入居への心理的なハードルを下げることが可能です。

また、内見時や相談の場面で入居希望者にも制度を紹介することで、「亡くなった後のことまで考えてくれている」という安心感を与えることができます。

とくに、「高齢者だから借りづらいのでは…」と不安を抱える層には、この制度を提示することで信頼を得やすくなり、成約率アップにもつながる可能性もあるでしょう。

2. 受任者候補の紹介

制度を活用するには、契約解除や残置物処理を行う「受任者」が必要です。

しかし、入居者が高齢で身寄りがない場合、自力で信頼できる受任者を探すのは難しいことも少なくありません。

そこで、不動産会社が地元の居住支援法人や行政と連携した福祉団体、あるいは信頼できる管理会社などを紹介することで、契約のハードルを下げることができます。
物件紹介の際に「もしよければ、こういった団体をご紹介できます」とひと言添えるだけで、入居者にとっては大きな安心材料となります。

さらに、受任者候補の一覧を自社で整備しておくことで、社内の営業メンバーの提案力も向上し、他社との差別化にもつながります。

3. 不動産会社自身が受任者となるケース

受任者が見つからない場合や、入居者と深い信頼関係があるケースでは、不動産会社や管理会社が受任者となることも選択肢のひとつです。

たとえば、「日頃から物件管理も任されている管理会社であれば、入居者の状況や生活環境も把握しやすい」というメリットがあります。

ただし注意点もあります。自社がオーナーとして物件を所有している場合は、利害関係が生じるため、原則として受任者にはなれません。

また、実際に受任者業務を行うには、廃棄物の取り扱いや相続対応など一定の実務知識や準備体制も必要になるため、軽い気持ちで引き受けるのではなく、社内体制を整えた上で慎重に判断すべきです。

一方で、受任者業務を通じて高齢者向けサービスの拡充や新たな収益モデルに発展させている事例もあるため、地域密着型の不動産会社にとっては新たなビジネスチャンスと捉えることもできます。

入居していた高齢者が亡くなった後の流れ

高齢者入居者が亡くなった後の手続き
実際に単身高齢者が亡くなった場合、残された契約や家財にどう対処するかは、現場にとって非常に重要な課題です。

モデル契約条項を適用していても、対応手順や関係者の役割が不明確なままだと、対応が滞るリスクもあります。

このセクションでは、入居者の死亡時における実際の流れを時系列で紹介し、制度の運用イメージを明確にします。

受任者・委任者死亡時委任先への通知

入居者死亡後の流れは以下の通りです。

  • オーナーが解除事務受任者へ死亡事実を通知
  • 受任者が代理権を基に賃貸借契約を解除
  • オーナーが残置物処理受任者へ賃貸借契約終了を通知
  • 委任者志望通知先への死亡事実を通知

残置物への対応

入居者が亡くなった後、室内に残された家財や個人所有物(=残置物)については、モデル契約条項に基づいて受任者が処理を行います。処理の流れは以下の通りです。

① 室内への立ち入りと現況確認

まず、オーナーの協力を得て物件の中に立ち入り、残置物の状況を目視・記録します。この際、貴重品や金銭、重要書類などが紛失しないように写真撮影や一覧メモの作成を行うのが一般的です。

② 指定物・非指定物の仕分けと対応

契約時に作成された「残してほしい物リスト」に基づいて、次のように対応します。

  • 指定残置物(送付対象):リスト記載の送付先へ発送
  • 非指定残置物(未記載品):原則、契約解除から3カ月を経過した時点で廃棄または換価処理(リサイクル・売却など)

たとえば、家具や衣類は廃棄対象に、金券や美術品などは売却で処理費用の補填に充てるケースもあります。

③ 処理費用の精算

残置物の処分にかかる費用(作業費・運搬費・処分費など)は、原則として相続人に請求されます。

相続人が不在・不明の場合や、金銭的な補償が困難な場合は、以下のような方法で対応します。

  • 敷金から相殺
  • 換価した物の売却益から充当
  • 供託による法的処理(相続人が現れた場合に備える)

トラブル回避のためにも、処理内容や費用の根拠は記録書類として残しておくことが推奨されます。

残置物の処理等に関するモデル契約条項で単身高齢者の入居のハードルを下げられる

単身高齢者の賃貸入居を支援する制度
従来、単身高齢の入居者が亡くなった後、賃貸借契約の解除や室内の残置物の処理が法的に難航するケースがありました。こうした事態は、賃貸人が高齢者の入居を躊躇する一因にもなっていました。

この問題を解消し、高齢者が安心して住まいを確保できるようにするため、国土交通省と法務省は2021年に「残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)」を策定しました。

このモデル契約条項では、賃貸借契約の締結時に受任者(代理人)をあらかじめ指定し、借主が死亡した場合に、受任者が賃貸借契約の解除や残置物の整理・処分を代行できる仕組みを整えています。

こうした取り決めを事前に行っておくことで、相続人が不明なケースでも対応が滞らず、オーナーの心理的・法的負担を軽減する効果が期待されます。

この仕組みを活用することにより、単身高齢者に対する入居拒否のハードルを下げ、より柔軟な住環境の提供が可能になります。

国もセミナーの開催や情報発信を通じて、本モデル条項の普及促進に努めており、今後さらに多くの現場で導入が進むことが見込まれます。

超高齢社会の進展を背景に、本制度は高齢者の住まいの安定確保に資する重要な取り組みのひとつとして注目されています。

【補足】よくある質問|残置物モデル契約条項の疑問を解消

残置物の処理等に関するモデル契約条項は、制度の仕組みや使い方がやや専門的なため、実務や契約現場で「これってどうなるの?」という疑問も多く聞かれます。
ここでは、実際に寄せられやすい代表的な質問を取り上げ、わかりやすく解説します。

Q1. モデル契約条項の利用は義務ですか?

義務ではありません。モデル契約条項はあくまで任意の契約補助ツールであり、導入するかどうかは貸主と借主の合意によります。

ただし、制度を活用することでトラブルの予防やスムーズな手続きが可能になるため、積極的な導入が推奨されています。

Q2. 入居者が希望すれば誰でも使えますか?

利用には条件があります。対象は「入居時点で60歳以上の単身高齢者」で、なおかつ身近な保証人がいないなど一定の事情が必要です。

対象外のケースで無理に適用しようとすると、消費者契約法違反などになる恐れがあるため、事前に確認が必要です。

Q3. 受任者は誰に頼めばいいですか?

一般的には、居住支援法人や信頼できる管理会社などが受任者として指定されます。

推定相続人がいない場合でも、専門機関を通じて受任者を設定することで、契約解除や残置物の処理がスムーズに進められます。不動産会社が受任者候補を紹介してくれることもあります。

Q4. 処分した残置物の中に高価な物があった場合、どうするの?

残置物の中に換金価値のあるもの(金銭、宝飾品、美術品など)があった場合は、原則として相続人に返還します。

ただし相続人が特定できない・連絡がつかない場合には、供託手続きを行うことで適切な保全処理が可能です。

Q5. モデル契約条項を導入するメリットは何ですか?

貸主側にとっては「空室期間の短縮」「残置物処理の簡便化」「心理的負担の軽減」などがあり、借主側にとっては「自身の意向を生前に反映できる」「安心して物件を借りられる」といったメリットがあります。

双方にとって、将来のトラブル予防策として機能します。

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