第58回 全国不動産会議 山口県大会 開催レポート


長州から始まる 山口令和維新の新しい暮らし方

 

10月20日(木)、KDDI維新ホール(山口県山口市)で開催された「第58回全国不動産会議 山口県大会」。同会議は、住宅・不動産関連の諸問題に対する会員の相互研鑽の場として1967年から始まり、山口県大会で58回目を数えます。メインテーマに「長州から始まる 山口令和維新の新しい暮らし方」を掲げ、幕末から明治維新にかけて数多くの偉人を輩出した歴史ある山口県での開催を意義とし、コロナ禍で3年ぶりの開催にも関わらず、1,100人超の協会関係者が参加しました。シンポジウムでは「UJIターン者の定住の促進と空き家の活用」をテーマに県、そして4市1町の担当者が課題と取組等を紹介。記念講演では東京大学史料編纂所 教授の本郷和人氏が「幕末・維新の志士たちの言葉」をテーマに登壇しました。交流会では、山口市内の子どもたちで構成される和太鼓チーム「ふしの岩戸太鼓」の歓待を受け、交流会中はJazz演奏、士居神楽舞などが披露され、和やかな雰囲気の中、会員は交流を深めました。

 

開会式13:30~14:00

 第58回全国不動産会議山口県大会は、矢口則義全日・教育研修委員長の「幕末から明治維新にかけて数多くの偉人を輩出した歴史ある山口県で挙行でき、各関係者のご尽力に感謝を申し上げる」との開会挨拶で幕を開けました。歓迎挨拶では柴田行夫山口県本部長が「3年ぶりの大会もコロナ禍での開催となったが山口県本部が一団となって準備に励み、開催が実現した」ことに感謝の意を述べ、続いて登壇した秋山始理事長は「全国不動産会議は、相互の研鑽の場であり、本日を学びの1日としたい。山口県が輩出した維新の志士が時代の変化を恐れず新時代を切り拓き、近代国家の築きに貢献したように、国民の不安を払しょくして豊かな日本をつくる基幹団体として責務を果たしていきたい」と挨拶とともに今後の展望に対して強い意志を表しました。
 また、来賓には斉藤鉄夫国土交通大臣の代理で、建設経済局不動産業課長の三浦逸広氏、山口県知事・村岡嗣政氏、山口県議会議長・柳居俊学氏、山口市長・伊藤和貴氏、衆議院議員・井上信治氏が出席。岸田文雄内閣総理大臣のビデオメッセージも放映され「地域に密着した不動産の流通のプロである皆様には、人口減少などの急速な変化に対応しつつ、地域の価値向上に取り組んでいただいている。政府としても、都会から地方への人の流れを生み出すべく、引き続き皆様と連携しつつ、空き家等の遊休資産の活用などに向けた取り組みを積極的に進めていく」と述べられました。

 

大会旗引継ぎ

 第56回栃木県大会、第57回佐賀県大会の2大会がコロナの影響で続けて中止となったため、栃木、佐賀の両本部長が登壇。本来引き継がれるはずの順番で大会旗は継承され、最後に秋山始理事長の手から次回開催地の稲川知法栃木県本部長の手に渡りました。

 

シンポジウム14:10~15:10

テーマ「UJIターン者の定住の促進と空き家の活用」

「UJIターン者の定住の促進と空き家の活用」をテーマにしたシンポジウムでは、山口県、下関市、宇部市、山口市、美祢市、周防大島町の行政担当者が登壇。それぞれが抱える課題と対する取組、加えて観光地の見どころをプレゼンテーションしました。ここでは、各々の“課題と取組”について概要をレポートします。

 

山口県のUJIターンの促進に向けた取組について

山口県総合企画部 中山間地域づくり推進課 課長 渡壁 敏氏

 冒頭に「1985年から県の人口は減少の一途をたどり、人口減少・少子高齢化の問題は県の重要課題」と述べた渡壁氏。特に若い世代の転出が続き、対策として2015年に『住んでみぃね!ぶちええ山口』県民会議を設立し、「山口県への移住促進や若い世代の定住・定着に向けた施策を継続している」といいます。移住者の住宅確保には全日本不動産協会山口県本部と提携し、UJIターン者の定住促進に尽力しています。近年はコロナ禍でテレワークが普及した事に目を付け、「地方創生テレワーク」と「ワーケーション」の一体的取組も実施。県民会議発足前と比較して「2021年には移住に関する相談が約3倍の10,667件にまで増えた」と成果を示しました。

 

官民連携による空き家バンクの充実について

下関市総合政策部 広報戦略課 都市ブランド化推進室 室長 永富敬吾氏

 下関市の課題も「人口減少」と述べながら登壇した永富氏は、同市の空き家状況に懸念を示しました。空き家率は18.5%を記録し(2018年)、約5軒に1軒が空き家であることに驚いたといいます。解決策に「空き家バンク制度」を2020年よりスタートさせますが、開始したことで見えてきた課題が「所有者不明の空き家が多く、流通できない物件が多くある」ことだったと話します。
 空き家バンク制度を開設したことを、説明会や相談会、YouTube動画などを駆使して多くの市民に発信しながら、地域の家屋整理業者の力を借りて、空き家の処分に迷っている人に声掛けするなど、官民が力を合わせて、課題解決に勤しんでいると話します。

 

彫刻のまちで、ひとつうべの生活を。

宇部市総合政策部 移住定住促進課 副課長 近藤孝男氏

 近藤氏は市が運営する移住関連事業を紹介し、そのひとつ「宇部移住計画」というポータルサイト内で実施する「住宅情報バンク」の取組を説明しました。その後に地域が主体となって行っている空き家活用の事例(小野地区と厚東地区)を紹介。共に少子高齢化が進行する地区で、小野地区はこの状況が続けば小学校が廃校になることを示唆し、それを防ぐために同地区の人々は「おのっこ未来応援隊」を発足させ、子育て世代のための空き家見学を実施しているといいます。また、厚東地区では移住促進に向けて、地区全世帯に空き家の情報提供を促す文書を配布するなど、地元住民が率先して空き家確保に尽力する姿に感謝していると話します。

 

優れた地域資源“空き家”を活用した取組

山口市農林水産部 定住促進課 課長 藤山正直氏

 「全国的に問題視されている空き家を我々は“優れた資源”と位置づけている」と述べたのが山口市の藤山氏です。同氏は移住者が移住前に検討する大きな不安要素として「住まい」「コミュニティ」「仕事」の3つがあると推定し、住まいや仕事に関しては空き家改修の補助や家財処分の補助、空き家を活用したビジネスの創出等に補助していることを話し、「コミュニティ」に関しては「移住者の不安を払拭するために、地域住民から定住サポーターを選出している」と話します。「山口市への移住が成立しているのも地域住民の協力があってこそ」と前置きし、これまで361件の登録に対し、成約数は213件、成功率は59%に上ると成果を述べます。

 

すんでみーね、美祢市。

美祢市総務企画部 地域振興課 IJU定住促進・結婚支援室 主査 村谷智子氏

 「読書を通じて子どもの学びを育て、県内トップクラスの手厚い支援で待機児童0、子育てしやすいまちを実現する」と語るのは美祢市の村谷氏です。そのほか同市が行う移住・定住支援は多岐にわたり、マイホーム取得者に最大300万円の補助金交付や、「お試し移住への支援」と題し、市内の登録宿泊施設に3泊以上した人を対象に1日3,000円、最大30日分の費用を補助、同制度を利用し定住を決めた人には奨励金があるなど、その“手厚さ”が際立っていました。また、空き家バンク制度でも同様に、補助は手厚く、リフォーム、家財の片づけ、登記費用の補助、空き家の登録を市内の郵便局でできるなど市内一体で取組んでいるといいます。

 

住宅の1/3が空家! 「瀬戸内のハワイ、すおう大島の可能性」

周防大島町総務部 空家定住対策課 主幹 西村一樹氏

 “瀬戸内のハワイ”と称される周防大島町の西村氏は、夏期の制服というアロハシャツを着用して登壇しました。町の住宅の1/3が空き家であることを最大の課題と挙げ、空き家活用事業として空き家バンクの実施のほか、町が空き家を10年借り受け、リフォーム後に貸し出す「空家活用住宅」、空き家を移住希望者に2~4週間貸し出す「お試し暮らし住宅」を事業化していると説明しました。一年を通して温暖な気候であること、自然を満喫できリゾート雰囲気を味わえることなど同町の特徴もアピールし、テレワークやワーケーションなど働き方の変化が、移住者の増加の追い風になればと述べました。

 

まとめ
山口県土木建築部 住宅課 課長 竹田述生氏

 最後に登壇した竹田氏は統括として、「山口県の空き家件数は1万6000戸と非常に多く、全国で9位」であることに触れながら「各市町および山口県はいずれも、空き家を地域資源と捉え、移住促進と空き家対策の担当部署が連携して一体的に活動している」ことを強調しました。また、「テレワーク、ワーケーションの普及によって、職を変える事なく、地方に住むことが可能になり、移住のハードルが下がっている」ことを示唆。「ただ、空き家の活用、空き家の流通、移住者が不安なく暮らし続けるためには、不動産事業者の介入が不可欠」と話したうえで、全日本不動産協会の会員事業者に全面的な協力を仰ぎ、シンポジウムを締めました。

 

記念講演15:20~16:50

「幕末・維新の志士たちの言葉」

~激動の時代に魂を燃やした人物たち~

 記念講演では、東京大学史料編纂所 教授 本郷和人氏が登壇しました。本郷氏は講演の一節で、「歴史研究者としてひとりでも多くの歴史好きを増やしていきたい。だから郷土を愛する気持ち、すなわち自分が生まれた地にどんな同郷人がいて、どのようにまちが作られてきたのかを知ることが必要で、語り継がれていくことが重要」と述べ、山口県にゆかりのある吉田松陰の生き様や彼が残した言葉等を引き合いに出し、「命を燃やし尽くしても世の中を変えたいといった気持ちが感じられ、軸がぶれない吉田先生の姿勢が伊藤博文や高杉晋作ら多くの志士たちの心をも突き動かしたのだろう」と見解を示しました。

 

閉会式16:50~17:05

 閉会式では、稲川知法栃木県本部長が登壇し、次回開催地となったことについて「3年前は栃木県大会を実施するにあたり、準備を重ねてきたもののコロナウイルス感染症の影響で開催が危ぶまれ、先が見えない状況が続き、気持ちが折れそうだった」と当時の心境を吐露しましたが、前回「栃木県大会では坂東武者の末裔である私たちの姿を見ていただきたい」と宣言したことを回顧し、再び開催県として名乗り出たことを明かしました。
 そして鎌倉幕府を取り仕切った北条氏が坂東武者であることに触れ、日本人古来の侍魂を持つ関八州の成長の一部を皆様に披露したいという想いからメインテーマを「次なる未来へ飛躍する下野国」であることを発表。また、2023年8月に開業する宇都宮ライトレールや大会会場となる駅直結のコンベンションホール等の話題に触れ「地方都市の魅力あるまちづくりをその目で見ていただきたい」と述べました。
 続いて堀田健二副理事長が壇上に上がり大会宣言(案)を発表。「私たちは国民の豊かな住生活を支えるという崇高なる業務に従事することを誇りとし、70年の歴史を有する団体の使命として、地域の街づくりの要となるべく知識の向上に努め、国民の安心安全な不動産取引の確保と、宅地建物取引業の健全な発展に一致団結して邁進することをここに宣言する」と前置きし、その内容を声高らかに宣言。大会宣言(案)は満場一致で採択されました。
 最後に福山修保証・教育研修委員長が、「3年ぶりの開催となった山口県大会が皆様の協力により、滞りなく無事に終了することができたこと心より感謝する」と述べ、「来年は栃木県宇都宮市で、皆様とお元気にお会いできることを祈念し、閉会の挨拶とさせていただく」と大会を締めくくりました。

 

交流会18:30~20:00

 交流会は湯田温泉にある「KAMEFUKU ON PLACE」に場所を移し、エントランス前で「ふしの岩戸太鼓」の迫力あるパフォーマンスが参加者を出迎えてくれました。会場では最初に久保逸記山口県本部実行委員長が開会挨拶をし、次いで秋山始理事長が「本日は皆様の協力のおかげで素晴らしい大会を開くことができた。今後も全日本不動産協会のために力添えをよろしくお願いします」と挨拶。来賓として出席した村岡嗣政山口県知事、柳居俊学山口県議会議長代理・吉田充宏山口県議会議員が交流会ならではの場を和ませる挨拶をし、伊折一夫中国地区協議会副会長の乾杯の音頭によって交流会が始まりました。会員同士が交流を深める中、アトラクションが始まり、「マスカレード」のJazz演奏によって会場はより和やかなムードに包まれ、伝統芸能として受け継がれている「士居神楽舞」が披露されると、ダイナミックな舞を真剣に見入る参加者も多く見受けられました。最後に柴田行夫山口県本部長が一本締めを行い、第58回全国不動産会議山口県大会は最高の盛り上がりを見せ、幕を閉じました。

山口県を拠点に活動している「マスカレード」。演奏ジャンルは、スタンダードJazzや映画音楽、ラテンボサノバなど幅広く、古き良き音楽を得意とする。ライブや各種パーティー、イベント出演など、キャリアを積んだ演奏技術は会場を和ませ、演奏に聞き入る参加者の姿も見られた。

士居神楽舞の歴史は大正時代に始まり、現在は山口市の無形民俗文化財に指定されている。士居神楽は石見神楽に属し、日本神話を題材とした演劇要素を持ち、伝統芸能として受け継がれている。クライマックスを迎えた頃、談笑していた参加者もその迫力に固唾をのんで見守っていた。

一覧に戻る

閉じる