税務相談

月刊不動産2018年6月号掲載

高圧線の振れ幅の範囲内にあることの説明義務

渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所 弁護士)


Q

 戸建て住宅売却の依頼を受け、現地に赴いたところ、上空付近に高圧線がありました。調査の結果、売買対象の土地は、高圧線の真下ではありませんが、3mの振れ幅の範囲に入っていることがわかりました。売買契約締結の際、このことは説明事項となるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.宅建業者の説明義務あり

     売買対象の土地が高圧線の振れ幅の範囲内にあることは、土地の売買を仲介する宅建業者が説明をするべき事項となります。

     売主と仲介業者が高圧線の振れ幅の範囲内にあることの説明を怠ったために説明義務違反が問われ、責任が肯定されたのが東京地判平成27.12.25です。

  • 2.東京地判平成27.12.25

    (1)事案の概要

     事案の概要は次のとおりです。

     ①Xは、第2子誕生をきっかけに良い環境で子育てをしようと考え、Zの仲介により、Yから、代金3,320万円で戸建て住宅を購入した。

     売買対象となる土地(本件土地。住宅の敷地および一部は道路)の上空付近には、東京電力(東電)の所有する高圧送電線(本件送電線)が架設されており、送電線は強風等により3mの幅(振れ幅)で振れる可能性があるところ、本件土地は送電線の真下からはずれているが、振れ幅の下には入っている。本件土地のうち、敷地部分の7.97㎡および道路部分31.91㎡が振れ幅に掛かる状態であった。

     ②本件土地の法令上の制限としては、第1種低層住居専用地域・第1種高度地区にあり、建築物の高さは最高で10m、危険物の製造、取扱い、貯蔵を行う建物の建築は不可とされている。

     ③また、その所有者は、東電との間で、送電線路の最下垂時における電線から3.6m以内の範囲の建物建築禁止、危険物の製造・取扱い・貯蔵等の禁止などを内容とする架設送電線路に関する契約(本件東電契約)を締結せざるを得ず、本件不動産はこの点における利用上の制約(本件制限)を強いられるものであった(ただし、制約による補償は受けられる)。

     ④YおよびZは、本件売買契約締結当時、Xに対し、法令上の制限の説明をしたが、本件送電線の振れ幅が本件土地に掛かることおよび本件東電契約の存在については調査をせず、説明をしなかった。

     ⑤Xは、Yに対して、損害賠償を請求し、訴えを提起した。裁判所は、説明義務違反があったとして、損害賠償請求(慰謝料の請求)を肯定した(財産上の損害は否定された)。

     

    (2)裁判所の判断

     「ア 本件制限は本件不動産の『瑕疵』に当たるから、これに基づきXが損害を受けた場合にはYは、当該損害を賠償するべき義務を負うというべきである。

     Xは、損害として、まず、本件不動産の本来の評価額との差額(3割減額分)を主張する。しかし、本件不動産は、本件送電線の振れ幅が本件土地のわずか一部分に掛かるというにすぎず、その制限の程度も、行政法上の規制を超えるものとは認められない。かかる事実関係に照らすと、Xが主張するように、本件送電線の存在をもって、本件不動産の価格を3割も値引くのが相当であるとは認め難い。(中略)そうすると、本件不動産の評価の点からみると、Xは、既に減価された価格で本件不動産を取得しているといえるから、本件制限によってXが損害を受けたとは認めることができず、本件不動産の本来の評価額との差額はもちろん、Xがこれに関連して主張する仲介手数料等の差額が損害であるとも認めることができない。(中略)

     イ 次に、本件送電線に係る説明義務違反による損害賠償請求の当否についてみると、(中略)Xは、本件送電線が高圧送電線であることについての説明を受けないまま本件売買契約を締結させられることになったのであって、この点に関し、Yの説明義務違反は、Xが十分な情報の提供を受けた上で本件売買契約を締結するか否かを決定する機会を奪った不法行為に該当すると認めることができる。そして、これに対する慰謝料としては、本件の一切の事情も併せ鑑みると、100万円を認めるのが相当である」。

  • 3.高圧線付近の土地売買における説明義務

     人々の電気の利用を可能にするためには、発電所から家庭や工場などに電気を送らなければならず、そのために送電設備が設置されます。大きな電気を送るには、高圧の強電流の送電が可能な高圧線が使われますが、高圧線付近の土地(高圧線下地といわれる)には、①高圧鉄塔の近接による圧迫感、②強風時や降雨時の不快感、③テレビ・ラジオなどの電波障害の可能性があり、さらに、高圧線は強い電流の流れる極めて危険な設備であることから、④利用制限を受けることもあります。

     宅建業者は、高圧線下地の取引が行われようとする場合には、高圧線や鉄塔との関係や利用制限を調査し、これを説明しなければなりません。宅建業者の業務が土地の上方の情報収集にも及ぶことを、本稿を機会にご確認いただきたいと思います。

  • Point

    • 高圧線下地には土地の利用における制約がある。宅建業者は、高圧線付近の土地を取引の対象とするときには、電力会社にヒアリングをしたり、資料を収集するなどして、土地利用の制約の調査を行い、これを説明しなければならない。
    • 土地の利用が制約を受けるのは、土地が高圧線の直下にある場合だけではない。土地の一部が高圧線の振れ幅の範囲内にある場合にも土地の利用は制約を受けることになる。経産省の電気設備の技術基準の解釈によれば、水平距離で3m未満に施設される状態が第2次接近状態として、工作物の設置を規制している。
    • 高圧線付近の土地利用についての調査・説明を行った場合には、仮に買主に財産的な損害が生じなかったとしても、慰謝料の支払い義務が生じることがある。
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