法律相談

月刊不動産2024年3月号掲載

賃貸アパートに暴力団が居住していた場合の売主の責任

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

 賃貸アパートを購入しましたが、アパートの一室に暴力団組長が居住していることが判明しました。売主に対して、損害賠償を請求することができるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     売主に対して、損害賠償を請求することができます。アパートに暴力団の組長が居住していることにより、その居室のみならず、その他の居室を含めて、アパートの居室を賃借し、または賃借しようとする者において、使用の際に心理的に十全な使用を妨げられ、賃貸アパート全体の価値を下落させるからです。

  • 売主の担保責任

     暴力団は暴力と犯罪を常習的に行う集団であり、暴力団員は、その構成員です。暴力団員の住居やその周辺では発砲事件が起こることもあります。建物に暴力団員、特に暴力団が居住している状態は、一時的ではなく、近隣住民の穏やかな生活を乱すものであって、通常、売買の目的物として欠陥があるとみなされます。
     債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は損害の賠償を請求することができます(民法415条1項本文)。引き渡された売買の目的物に欠陥があれば、債務の本旨に従った履行がなされなかったものとして、売主は、買主に対して、損害を賠償しなければなりません。
     以下、暴力団組長が居住していたことから、賃貸アパートの売主の瑕疵担保責任が認められた裁判例を紹介します。このケースは2020(令和2)年4月改正前の旧民法のもとでの事例のため瑕疵担保責任が問題にされていますが、同改正後の現行民法では、目的物の欠陥に関する売主の責任は、瑕疵担保責任ではなく、債務不履行責任となります。

  • (CASE)東京地判令和4.5.30-2022WLJPCA05308013

    ① 事案の概要
    (1)買主Xと売主Yは、平成29年6月27日、売買代金6,600万円で、賃貸アパートの売買契約を締結した(本件売買契約)。
     本件売買契約には、「買主は、本物件に隠れた瑕疵があり、この契約を締結した目的が達せられない場合は契約の解除を、その他の場合は損害賠償の請求を、売主に対してすることができる」との定めが設けられていた(本件売買契約20条)。
    (2)しかるに、このアパートの一室には、自身の名前を冠した「l組」という暴力団の組長Jが居住していることが判明した。
    (3)Xは、弁護士に依頼して、Jに対し、占有移転禁止仮処分の申立てを行い、同年8月に建物明渡請求訴訟を提起した。これらの裁判手続きがなされたために、Jはアパートから任意に退去した。
    (4)Xは、Yに対して、暴力団の構成員が居住していたことが隠れた瑕疵にあたるとして、損害賠償を求め、訴えを提起した。
    (5)判決では、XのYに対する損賠賠償請求が認められた。損害のうち、不動産の価値下落分は、購入価額の1割である660万円とされた。

    ② 裁判所の判断 
     『本件売買契約20条における「瑕疵」とは、客観的に目的物が通常有するべき設備を有しない等の物理的欠陥が存在する場合のみならず、目的物の通常の用途に照らしてその使用の際に心理的に十全な使用を妨げられるという心理的欠陥も含むものと解されるところ、Jは自身の名前を冠したl組の組長という立場にある者であったこと、l組の上位組織であるF会は本件建物の所在する群馬県に本家を置く指定暴力団であることなどからすれば、そのような暴力団組織に所属する者が居住している事実が存在することにより、当該居室のみならず、本件建物のその他の居室を賃借し、又は賃借しようとする者において、使用の際に心理的に十全な使用を妨げられることになるものと認められる。
     また、上記に加えて、本件売買契約の目的物がオーナーチェンジが予定されている収益物件であること及び現代における暴力団排除の意識の高まりに鑑みれば、本件建物の売却に当たっても相応の価値下落が生じるものと考えられる。
     したがって、本件建物1号室に暴力団関係者であるJが居住していたことは、本件売買契約20条に規定する「隠れた瑕疵」に当たるものと認められる』。
     『本件において、収益物件である本件建物について、群馬県に本家を置く指定暴力団傘下の組織の組長であった者がかつて居住していたことがあるという事実が瑕疵に当たると認められることからすれば、今後本件土地建物をオーナーチェンジのために売却するに当たってはそのことが一定の減額要素となり得るものと考えられるから、購入価額の1割である660万円を上記の瑕疵と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である』。

  • まとめ

     2007(平成19)年には政府から暴力団を不動産取引から排除するため指針が示され、また、都道府県では暴力団廃除条例が制定されています。契約書を作成する際に、当事者が暴力団でないことを確約させ、確約に違反することがあれば契約の解除を認める条項を設けることも一般的です。不動産業者は、暴力団を巡る不動産取引のトラブルをできる限り回避するよう、万端の準備を整えておく必要があります。

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