賃貸相談

月刊不動産2024年3月号掲載

賃借人の債務不履行と承諾した転借人への明渡請求

弁護士 江口 正夫(江口・海谷・池田法律事務所)


Q

 当社所有の貸ビルの一室をA社に賃貸しました。その後、A社から貸室の一部を区画してB社に転貸をすることの承諾依頼があり、当社はB社への転貸を承諾しました。
 この度、A社の経営状態が悪化したようで、A社は4カ月分の賃料を滞納する事態となったため、相当期間を定めて催告し、賃料が支払われなかったのでA社との賃貸借契約を解除しました。そして転借人のB社に明渡しを求めたのですが、B社は、「転貸を承諾したのだから、賃料の督促をする以上は転借人であるわが社にも催告すべきで、無催告でした解除は無効である」と言って、明渡しに応じません。
 賃借人の債務不履行で契約を解除した場合、転借人に明渡しを求めることはできないのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     一般に、賃貸人の承諾を得てなされた転貸借であっても、転貸借の基となる賃貸人と賃借人との間の賃貸借契約に債務不履行があった場合、賃貸人による相当期間を定めた催告は、契約の当事者である賃借人に対して行えば足り、承諾した転借人に対する催告は契約解除の要件ではないと解されています。
     したがって、賃貸人は、賃借人に対する相当期間を定めた催告をし、解除の意思表示をすれば、転借人に明渡請求をした時点で、転貸借は終了し、明渡しを求めることができます。以下で最高裁の判例を用いて解説します。

  • 建物の転貸借の特徴

     賃貸借においては、賃借人が、賃借した目的物を第三者に転貸するケースも見られます。賃借人は、自分の権利の基となる賃貸人と賃借人との間の賃貸借契約に基づいて転貸するのですから、元となる賃貸借が賃借人の債務不履行を理由に終了すれば、それを基礎として成立していた転貸借も終了するのが原則です。いわば「親亀こけたら子亀もこける」という状態になります。最高裁は、「賃貸借が賃借人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了する」との判断を示しています(最判平成9年2月25日)。

  • 承諾ある転貸への影響

     もっとも、賃貸借が賃借人の債務不履行により解除されて終了すれば、転借人に大きな影響を与えることになります。このため、賃貸人は、債務不履行を理由として賃貸借を解除しようとする場合には、賃借人に対して相当期間を定めた催告をすることのほかに、債務の履行を賃借人だけではなく、自ら承諾を与えた転借人に対しても催告を行い、転借人が賃借人の債務を代位弁済する機会を与える必要はないのか、転借人に何ら通知もすることなく解除を認めてよいのか、という点は問題になるところです。2020年4月1日施行の改正民法の制定過程において、法制審議会で、賃借人の債務不履行を理由として賃貸借を解除する場合、賃貸人の承諾を得た転借人に対して相当期間を定めた催告を要するかということが検討されましたが、結果としては改正民法には盛り込まれることはありませんでした。

  • 転借人に対する催告の要否

     それでは、賃貸人が自ら承諾をした転借人がいる場合に、賃貸人が、賃借人の債務不履行を理由として賃貸借契約を解除しようとする場合、契約当事者である賃借人に対してのみ相当期間を定めた催告をし、催告期間内に賃借人から債務の履行がなければ、それで賃貸借を解除し、転借人に明渡しを求めることができると考えて
    よいのでしょうか。仮に転借人は、賃借人兼転貸人に転借料をきちんと支払っていたとすると、何らの債務不履行もしていないのに、建物からの明渡しを余儀なくされることになります。
     この点について、最高裁は、土地賃貸借の事案ですが「土地の賃貸借契約において、適法な転貸借関係が存在する場合に、賃貸人が賃借人の賃料の不払いを理由に契約を解除する場合において、特段の事情のない限り、転借人に通知等をして賃料の代払いの機会を与える必要はない」との判断を示しています(最判平成6年7月18日)。

今回のポイント

●転貸借は、賃貸借を基礎として賃借人が設定するものであるから、賃貸借が賃借人の債務不履行により解除される場合は転貸借も終了するのが原則である。
●賃貸借が、賃借人の債務不履行を理由として解除される場合に、転貸借が終了する時期は、賃貸人から転借人に対し明渡しを請求された時期である。
●賃貸人が、賃借人の債務不履行を理由として賃貸借契約を解除する場合には、特段の事情のない限り、転借人に通知をして賃料の代払いの機会を与える必要はない。

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