賃貸管理ビジネス

月刊不動産2024年2月号掲載

管理受託のセールスファネルと顧客関係管理(CRM)の真の価値〈前編〉

今井 基次(みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役)


Q

 当社は創業5年で、賃貸仲介業を中心に事業を展開してきました。おかげさまで順調に売上げを伸ばし、従業員も7名になりました。これまでは管理業はまったく行ってこなかったのですが、最近少しずつ、オーナー様から、管理をしてほしいというご依頼をいただけるようになりました。まだまだ人員が少ないため、今の状態で管理をすると中途半端な状態になってしまうのではないかと懸念しているのですが、いずれにしても管理業を行うのであれば、人員を強化して参入しようと思っています。
 そこで、どのような方法が効率的にオーナーを集客できるのか、よいアドバイスや戦略を教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     すでに賃貸仲介業という強みがあれば、賃貸管理業に参入するハードルは比較的低いと思われます。ただし、仲介業と違い、賃貸管理業は人的コストがかかる割に生産性を上げにくい業種です。また業務工数も非常に多いですが、ある程度の戸数を超えると、ストック収入として安定した売上げをつくることができます。最初の1,000室くらいまでは先行投資が必要となるため、経営者は腰を据えて経営を行わなければなりません。ゼロからの創業期は、集客から顧客獲得に至るためのリードタイムを、どのように顧客と関係構築をしていけるのかがカギとなります。そのためにはセールスファネルを意識して、顧客との関係を構築していくようにしましょう。
    仕組みを作ったあとは、継続的に収入が得られるタイプの収益

  • オーナーが優先するものは何かを意識する

     事業ポートフォリオを拡大するために、賃貸仲介業から管理業への参入に関する相談を受けることがあります。ストック収入は景気に左右されず、安定的に収益を上げることができるため、賃貸仲介業のように繁閑の差が大きい事業を展開する会社でも、閑散期に人材を振り分けることができ、経営的には、管理業への参入をすることで人材を獲得しやすくなります。ただし、仲介業のように急激に生産性が高まることがないため、管理戸数を拡大するには、まずは顧客(オーナー)にとって、優先されるものが何であるかをしっかりと意識しなければなりません。それがなければ効果的な管理受託ができず、1~2年したところで「割に合わない」と、早々に撤退してしまうことになるのです。

  • オーナーは、アピール力を見ている

     「顧客が求めるもの」と「自社の強み」が重なりあうとき、顧客からのニーズが増え、事業拡大につながります。管理の4大業務は「客づけ」「出納」「入居者対応」「メンテナンス」であり、いずれの業務もおろそかにはできません。その中でも、客づけ力がなければ受託を求められる可能性は極端に減ってしまいます。「客づけ力」とは、営業力も重要ですが、もう一つは「マーケティング活動の重要性」を認識することです。多くの入居希望者の目に触れるということは、たくさんのオーナーの目に留まることでもあるため、この会社に任せれば入居者をつけてくれるとオーナーに思ってもらえます。つまり管理を拡大するには、ポータルサイトへの掲載だけでなく、さまざまなマーケティング活動が欠かせないのです。管理会社が自社をアピールする力がなければ、到底オーナーの物件のアピールなどできないでしょう。

  • マーケティング活動は、その目的を明確にすること

     マーケティング活動には広告掲載、コマーシャル、イベントやキャンペーンなどさまざまな方法があります。しかし、ただ広告をすればよいのではなく、何を目的として行っているのかを明確にする必要があります。セールスファネル(図表)の一番上には、集客のためのマーケティングを目的とした「集客A」というものが置かれています。これは自社を知ってもらうための活動であり、目的は「聞いたことがある存在」にすることです。オーナーの心理からすれば、何かしら圧倒的な問題や原因がない限り、いきなり知らない会社に管理を任せようと思わないはずです。まずは、「聞いたことがない会社」から「聞いたことがある会社」にするのが「集客A」の目的なのです。
     顧客の認知が進んだところで、次は実際に管理を受託するための活動が重要になります。これを「集客B」といいます。「集客B」は、具体的に管理の相談や商談に持ち込むためのマーケティング活動であり、より顧客との時間や接点を設けることを前提としています。たとえば、オーナーセミナーや、新築やリノベーションの完成見学会なども、オーナーと話ができる接点が増えるためよいでしょう。また、実際の空室物件に対しての「簡易コンサルティング」や、それらの顧客課題に対しての自社での解決策を「受託営業ツール」にまとめておくなども、差別化が図りやすいはずです。

  • 集客用商品を作って、小さなハードルを越えさせる

     もう一歩進んだ形で信頼関係を築くのであれば、募集のみの実施や小修繕など「集客用商品」を作ることをおすすめします。
     集客用商品はあくまで管理受託のために存在するもので、売上げや利益を稼ぐというよりも「信頼関係を稼ぐ」ことが目的です。そのため、金額のハードルをできる限り低く設定したほうが、ユーザー数は増えるはずです。金額設定を低く設定すればするほど、オーナー側にメリットが生じるため、オーナーはそのメリットを余すところなく享受しようとします。反面、管理会社側は情報をたくさん取得することができ、それこそが管理獲得に向けた大きな収穫になります。これらをこなして管理受託というファネル(漏斗)の一番下に顧客が流れていくことになるのです。[後編に続く]

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