税務相談

月刊不動産2016年9月号掲載

相続税法上の広大地の評価における「マンション適地」とは

山崎 信義  税理士(●税理士法人タクトコンサルティング 情報企画室室長)


Q

 相続税法上の広大地の評価における「マンション適地」について教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

     「広大地」とは、その地域における標準的な宅地の地積に比べて著しく地積が広大な宅地をいい、通常、その相続税法上の評価額は広大地に該当しない宅地に比べて小さくなります。ただし、その宅地が指定容積率300%以上の地域内にある等の場合には、マンションの敷地用地として利用する方が最有効使用となると認められる宅地(マンション適地)とされ、他の要件を満たす場合であっても広大地には該当しないこととされるので、注意を要します。

  • 1.広大地の意義

    (1)広大地の範囲

     「広大地」とは、その地域における標準的な宅地の地積に比べて著しく地積が広大(例えば、三大都市圏の市街化区域内の宅地の場合、地積が500㎡以上)な宅地で、都市計画法第4条第12項に規定する開発行為を行うとした場合に道路・公園等の公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものをいいます。

     ただし、大規模工場用地に該当するもの及び「中高層の集合住宅等の敷地用地として使用するのが最有効使用と認められる宅地」(以下「マンション適地」)に該当するものは、道路・公園等の公共公益的施設用地の負担が生じないので除外されます(財産評価基本通達24-4)。

     

    (2) 広大地に該当する宅地の相続税法上の評価

     広大地については、その面する路線の路線価に、一定の算式により求めた広大地補正率を掛けて計算した価額に、その広大地の地積を掛けて計算した金額が相続税法上の評価額となります。

  • 2.マンション適地に

     該当するかどうかの判断 広大地の評価は、これから戸建て住宅分譲用地として開発され、その開発の際に、道路等の公共公益的施設用地が生じる宅地が対象となるものです。相続税法上の評価をしようとする宅地(以下「評価対象地」)がマンション適地に該当する場合には、前述1.(2)の広大地の評価は適用されません。

     評価対象地がマンション適地に該当するかどうかの判断においては、国税庁の広大地に係る質疑応答事例の中の『広大地の評価における「中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの」 の判断』(以下「質疑事例」)において、判断をする際の考え方が示されており、実務の参考になります。「質疑事例」で示された考え方は、おおむね次の通りです。

     

    (1)評価対象地がマンション適地に該当するかどうかの判断は、その宅地の存する地域の標準的使用の状況を参考として行われます。

     

    (2)評価対象地が戸建住宅とマンションが混在する地域にあり、かつ、その地域の都市計画により指定された容積率(指定容積率)が200%以下の地域である場合には、最有効使用の判定が困難な場合もありえます。このような場合には、例えば、次のようにマンション適地に該当すると判断できる場合を除き、マンション適地には該当しないこととしても差支えありません。

    ① その地域における用途地域・建ぺい率・容積率や地方公共団体の開発規制等が厳しくなく、交通、教育、医療等の公的施設や商業地への接近性(社会的・経済的・行政的見地)から判断して、マンション適地と認められる場合

    ② その地域に現にマンションが建てられており、また、現在も建築工事中のものが多数ある場合、つまり、マンションの敷地としての利用に地域が移行しつつある状態で、しかもその移行の程度が相当進んでいる場合

     

    (3)評価対象地が指定容積率300%以上の地域内にある場合には、戸建住宅の敷地用地として利用するよりも、マンションの敷地用地として利用する方が最有効使用と判断される場合が多いことから、原則としてマンション適地に該当することになります。

     なお、地域によっては、指定容積率が300%以上でありながら戸建住宅が多く存在する地域もあります。このような地域では指定容積率を十分に活用しておらず、①将来的にその戸建住宅を取り壊したとすれば、マンションが建築されるものと認められる地域か、あるいは、②例えば道路の幅員(参考)などの何らかの事情により、指定容積率を活用することができない地域であると考えられます。

     評価対象地が指定容積率300%以上の地域内にある場合は、②のような例外的なケースは除き、その宅地はマンション適地と判断されます。

  • (参考)

     建築基準法では、指定容積率のほか、前面道路(前面道路が2以上あるときは、その幅員の最大のもの)の幅員が12m未満である建築物の容積率は、当該前面道路の幅員のメートルの数値に一定の数値を乗じたもの(基準容積率)以下でなければならないとされています(同法第52条第2項)。つまり、指定容積率が300%であっても、基準容積率が180%になると採用される容積率は基準容積率の180%となり、その場合は②に該当することになります。

  • Point

    • 広大地の相続税法上の評価は、広大地の面する路線の路線価に、通常の奥行価格補正率に代えて、一定の算式により求めた広大地補正率を乗じて計算します。通常、(広大地に該当しない)宅地に比べ、広大地の相続税法上の評価額は小さくなることから、評価対象地が広大地に該当するかどうかの判断は極めて重要となります。
    • 広大地は、戸建て住宅分譲用地として開発するのが最有効使用と認められる宅地が対象とされ、マンションの敷地用地として使用するのが最有効使用と認められる宅地(マンション適地)は、広大地に該当しません。
    • 評価対象地がマンション適地に該当するか否かの判定は、国税庁の質疑事例によれば、基本的に、その宅地の存する地域の標準的な使用状況を見て判断することになります。この場合、評価対象地が戸建住宅と中高層の集合住宅等が混在する地域(主に指定容積率が200%以下の地域と想定されています。)に所在するときには、その地域において現にマンションがあり、現在も多くのマンションがその地域で建設されているなどマンション敷地としての利用にその地域が移行しつつあるような場合で、マンション適地と判断されるときを除き、原則としてマンション適地に該当せず、広大地に該当することになります。
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