法律相談

月刊不動産2022年11月号掲載

別荘地の売買契約についての錯誤

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

 山梨県内に所有する別荘地の一画を売却しましたが、買主が、購入後、その土地で太陽光発電所の設置を始めてしまいました。別荘地としてふさわしくないので、売買を解消したいと考えています。契約を取り消すことはできるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     別荘地として利用してもらうつもりで売却したのに、買主が太陽光発電事業を行うために購入していたのであれば、錯誤を理由に、売買契約を取り消すことができます。

  • 1.錯誤

     意思表示において、表示に対応する意思を欠くことを錯誤といいます。意思表示は、その重要な部分に錯誤がある場合には、取り消すことができます(民法95条1項1号)。また、表示に対応する意思を欠いていなくても、表意者が法律行為の基礎とした事情について、その認識が真実に反する錯誤があり(動機の錯誤)、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときには、やはり取消しが可能です(同法95条1項2号・2項)(図表)。


     売買契約では、多くの場合、買主が購入後にどのような方法で目的物を使用するのかは、契約の重要な部分ではありません。しかし、買主の購入後の目的物の使用方法が売買契約における重要な部分となっている場合には、錯誤が問題となります。
     東京高判令和3.10.14- 2021WLJPCA10146001は、売主が、売却後に別荘地として使われると考えて土地の売買契約を締結したのに、実際には太陽光発電所の設置場所として利用するために買主が土地を購入していたことから、錯誤無効が認められました(令和3年4月施行の現行民法施行前の旧民法のもとでの売買契約なので、錯誤無効とされましたが、改正後の現行法のもとであれば、錯誤取消しとなります)。

  • 2.東京高判令和3.10.14

    <事案の概要>
     (1)売主Xと買主Yは、平成31年4月13日、山梨県北杜市に所在する土地(本件土地)について、代金1,130万円として、宅建業者Zの仲介によって、売買契約(本件契約)を締結した。契約書には、Yが売買によって取得した後の本件土地の利用方法につき、太陽光発電所の設置場所としては使用しない旨の条項は設けられていなかったが、売買契約は、居住用の不動産購入を目的とするものとして締結されていた。
     (2)Yとその子Aは、平成26年2月7日に設立された、太陽光等による発電およびその電力の販売等を目的とするB社の代表社員および業務執行社員に就任していた。本件契約に先立つ平成28年2月ころには、Aが土地の購入を希望して売買交渉が開始されたが、購入目的が太陽光発電事業を行う目的であることをXが知って、売却を断ったという経緯があった。
     (3)本件契約の決済がなされ、本件土地の引渡しを受けた後の令和元年8月、B社は、近隣に太陽光発電所を設置する計画がある旨の文書を送付し、太陽光発電所を設置する工事を開始した。
     Xは、これを知り、本件契約はYが別荘地として使うための土地売買と考えて契約を締結したものであり、Yが太陽光発電所を設置するために土地を購入していたのであれば、錯誤により無効であるとして、土地の明渡しおよび所有権移転登記の抹消登記手続を求めて、訴えを提起した。
     (4)裁判所は、Xの主張を認め、本件契約は錯誤により無効であったとして、Xの訴えを認容した。

    <裁判所の判断>
     判決では、『本件では、Aが平成28年2月に本件土地の購入を持ちかけて、売買交渉が開始されたが、Xが太陽光発電目的であることを知り、申出を断った事実がある。したがって、Yが太陽光発電設備の設置場所として本件土地を使用する目的であることをXが知れば、本件契約が締結されなかったことは明らかであり、そのようなXの意向は、Xのための媒介業者であるZにも伝えられていた。YおよびAは、ともにB社の代表社員であり、AはYの息子であり、太陽光発電のための土地の選定についてはAが立案し、資金の調達にはYが必ず関与していた』。『そうすると、このような状況下で、YがB社の代表社員であることを、Zに明かさずに、購入目的を「別荘」とし、取引目的を「居住用」と表明したことは、本件土地において太陽光発電事業を行わないことを表明したものにほかならないというべきである。したがって、本件契約書に太陽光発電設備の設置場所としては使用しない旨の約定が明記されていなかったとしても、本件契約に際し、Yは、本件土地において太陽光発電事業を行う目的がないことを表明しており、そのことがXの錯誤を招いたのであるから、本件契約は錯誤により無効である』とした。

今回のポイント

●意思表示の重要な部分に錯誤がある場合には、契約を取り消すことができる。また、表意者が法律行為の基礎とした事情についての錯誤(動機の錯誤)がある場合にも、その事情(動機)が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときには、契約の取消しが認められる。
●令和3年4月に民法が改正される前の旧民法では、錯誤の効果は、取消しではなく、無効であった。
●買主の目的物の使用方法が売買契約における重要な部分となっており、買主の目的物の使用方法について売主に動機の錯誤があれば、旧民法のもとでは売買契約は無効となり、現行民法のもとでは売主は契約を取り消すことができるものになる。

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