賃貸相談

月刊不動産2003年10月号掲載

遺留品の廃棄処分の考え方

弁護士 田中 紘三(田中紘三法律事務所)


Q

入居者が大量の遺留品を残して行方が分からなくなり困っています。こういう場合の遺留品の扱いについてお伺いします。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.学者でも弁護士でも、一般論として、アパート賃借人の遺留品をいきなり廃棄処分してよいとは言いません。違法な場合もあり、適法だといえばそれを拡大解釈されてしまうという心配があるからです。
     いちばん無難な回答は、裁判所で判決をもらい、強制執行の手続により処分し、又は廃棄することです。しかし、だれが見ても無価値な粗大ゴミとしか思われないようなものについてさえ判決を、というのは法律を使いこなした意見だと思えません。とは言っても、これは、ケースバイケースの慎重な現場判断を必要とします。ここでは、そういう悪用がないものとして考えてみることにします。

    2.まず最初に、二つの原則を心得ておきましょう。

    (1)他人の所有物を無断で処分してはならない。

    (2)所有者が所有権を放棄すると、だれでも自由に処分できるようになる。

     以上のことからも容易に分かるように、最も重要なことは、遺留品が上記の(2)のような判断をすることができる状態にあるといえるかです。もちろん、賃借人が置手紙で、遺留品は捨てて構わない、と書き残してあれば、処分をするに当たり、心配は無用です。心配なのは、そのような置き手紙がないときです。

    3.いくら長時間不在のように思われても、電気のメーターが動いているときには、行方をくらましたと即断するべきではありません。真夜中に帰宅しているかもしれません。郵便物や新聞がたまっているときには不在だということになりますが、数日ごとに立ち寄るという使い方をしているかもしれません。また、旅行先からひょっこり戻ってくることもあります(犯罪の予感がしたときには、警察官などの立合いを求めて内部を点検することは構いません)。言い換えると、居住継続中の様子がみられるときには、無断立入り自体が原則として違法になり、また、賃室内の物品の所有権が放棄されているとの推定が、働かなくなります。

    4.1ヶ月以上留守の場合又は賃料不払いの場合には賃室に立ち入り、生活用品をすべて廃棄処分してもよいという条項を賃貸借に盛り込んだとしても、それを根拠にして廃棄処分することにより得られる利益と廃棄処分したことにより生じるトラブルに起因する不利益(賠償請求への対応負担)と比較すると、不利益のほうがずっと大きくなり、後始末は高くつきます。規定そのものに無理があるからです。このような規定の有効性は、制限的にしか認められません。

    5.判断に迷ったときには、不払賃料を請求する訴訟を提起して判決をもとに強制執行で室内の物品を処分するほかありません。居住の外観があるときには明渡しを命じる判決も同時にとります。居住者が暴力団に関係していて後になって判癖をつけられるような予感がしたときには、とくにその必要があります。なお、明渡しの判決も同時にとったときには、強制執行に要する手続の費用はその分(数万円)だけ高くなります(もっとも、不払賃料がないときには、他に明渡請求の事由が見つからない限り、以上の方法はとれません。様子見をする必要があります)。

    6.なお、賃料不払いの賃借人の不在中に入口の鍵を替えて室内を封鎖してしまうのは、原則として許されない自力救済ということで損害賠償請求の理由とされますので、早まらないほうがいいと思われます。

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