賃貸相談

月刊不動産2013年2月号掲載

転貸を承諾した転借人とオーナーの法律関係

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

当社はテナントA社がB社に貸室を転貸することを承諾しました。当社はB社に対して直接賃料を請求することはできますか。また、B社が設置した造作は当社に買取義務が発生するのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.転貸によって生じる法律関係

     転貸借とは、賃借人が、賃貸人との賃貸借契約関係は維持した上で、賃借人の有する賃借権の範囲内で転借人との間で更に賃貸借契約を締結することをいいます。

    (1) 転貸後の賃貸人と賃借人 (転貸人) との関係まず基本的なルールとして、転貸借が成立したからといって、賃貸人と賃借人との間の賃貸借契約の内容には何らの変更がないということを理解しておく必要があります。

     ① 例えば、転貸借が成立すると、貸室を使用収益するのは実際には転借人であり、賃借人は貸室を直接には占有しなくなりますが、賃借人は相変わらず賃貸借契約の終了時には貸室の明渡義務を負っています。

     ② 賃借人は賃貸借契約に基づき賃借物についての保管義務・善管注意義務を負っていますので、転借人が故意・過失で貸室を損傷させた場合であっても、賃借人は賃貸人に対して損害賠償義務を負担することになります。判例では、「転貸借について賃貸人の同意があったにしても、賃借物が転借人の過失によって滅失毀損したときは、賃借人は責むべき事情の有無にかかわらず、賃貸人に対し損害賠償の責任を免れることはできない。」(大審院昭和4 年6 月19 日判決) とされています。

     ③ 賃借人は直接には貸室を使用してはいませんが、賃貸人に対して賃料支払義務を負っています。

     このように、転貸借が成立したとしても、賃貸人と賃借人 (転貸人) との間の法律関係には何も変更がないというのが基本原則です。

    (2) 賃貸人と転借人との関係

     転貸借契約は、賃借人 (転貸人) と転借人との間で締結される契約ですから、賃貸人と転借人との間には何の契約関係もありません。したがって、賃貸人と転借人との間に契約上の権利・義務は発生する余地がありません。

     しかし、このことは、賃貸人と転借人との間に何らの権利・義務が発生しないことを意味するわけではありません。両者間には「契約上の権利・義務」は発生しないのですが、民法等に定める法律上の責任(契約上の責任ではなく、法律が定める「法定責任」)は発生するのです。

     民法613 条1 項は、「賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。」と定めています。この条文の「転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。」という意味は、転借人が転貸人に対して支払うべき賃料は、賃貸人の請求があれば、転借人は直接賃貸人に支払う義務があるということです。ただし、賃貸人が転借人に請求できる賃料額は、賃借料より転借料のほうが高くとも、賃借料の範囲でしか請求することはできません。賃貸人には賃借料しか請求する権利がないからです。

     反対に、いわゆる「逆ざや」の場合、すなわち賃借料のほうが転借料よりも高い場合でも、賃貸人は転借料の範囲でしか請求できません。転借人は転借料の範囲でしか支払義務を負っていないからです。

     したがって、賃貸人が、テナントのA 社がB 社に貸室を転貸することを承諾した後、賃借人であるA 社の経営が悪化し、A 社の賃料が滞った場合などでも、賃貸人は、直接には何の契約関係にないB 社に対して、直接にB 社が支払うべき賃料を賃貸人に支払うよう請求することが可能です。

    2.転借人の造作買取請求権の有無

     借地借家法33 条1 項は、「建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。」と定めています。

     それでは、賃貸借が期間満了または解約によって終了するときに、転借人が賃貸人の同意を得て設置した造作について、転借人は賃貸人に時価で買い取ることを請求できるのでしょうか。借地借家法33 条2 項は、賃借人の造作買取請求権を定める借地借家法33 条1 項の規定は「建物の転借人と賃貸人との間について準用する。」と定めています。したがって、転借人は賃貸人に対して直接、造作買取請求権を有することになりますが、注意する点があります。借地借家法33 条2 項は平成4 年8月1 日施行の借地借家法で新設された規定ですので、借地借家法施行前の賃貸借には適用されないこととされています(借地借家法附則13 条)。

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