法律相談

月刊不動産2014年6月号掲載

自殺によるマンション価格の減価

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

全29室の賃貸用マンションの売買仲介を依頼されましたが、このマンションの一部屋で、約半年前に、自殺によって居住者が死亡する事故があったことが判明しました。物件の売買価格としては、どの程度の減額(減価)を見込めばよいのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 回答

    全29 室の賃貸用マンションであることを前提にすれば、減額(減価)の目安は、自殺のあった部屋について50%程度、階下の部屋について10%程度と考えられます。

    2. 瑕疵であること

    建物は人が継続的に生活する場です。したがって、嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥は、建物の売買契約における目的物の瑕疵です。室内で自殺があったことは心理的欠陥となり、建物の価値は減少する(減価が生ずる)ことになります。このことを知らずに建物を購入すれば損害賠償の問題が生じますし、心理的欠陥のために売買の目的を達成することができなければ、買主は契約を解除することができることになります(横浜地裁平成元年9月7日判決)。自殺による建物の減価について、最近新たな裁判例(東京地裁平成25年7月3日判決)が公表されたので、以下に紹介します。

    3. 裁判例

    (1)事案の概要

    売買対象は全29 室の賃貸用マンションです。平成22年10月15日に代金3億9,000万円で売買契約が締結されましたが、売買契約の約半年前の同年4月23日に、マンションの308号室で居住者が自殺していました。売買契約にあたって、自殺があったことの説明はなされず、買主は自殺があったことを知らずに、マンションを購入していました。買主が、売主と仲介会社の両方を相手方として、損害賠償請求の訴えを提起したところ、判決では、売主と仲介会社のいずれについても、売買契約の締結あるいは代金決済までに自殺の存在を知らず、かつ、知らなかったことが調査義務の懈けたい怠によるものでもないとして、調査説明義務違反を理由とする損害賠償請求を否定しつつ、売主については瑕疵担保責任による損害賠償義務を負うとして、損害額について、次のとおり判断しました(仲介会社に対する請求は否定されている)。

    (2)裁判所の判断(減価の範囲と損害額)

    まず建物全体と土地の価値に関しては、『本件自殺の発生した308号室は208号室が直下に存在するものの、他の居室とは近接していない構造にあること等の事実によれば、本件自殺による本件不動産の価値の減損が、本件土地に及ぶとは解されず、本件建物自体についても、その全体に及ぶとまでは解されない』として、損害を否定しました。

    次に、減価となる部屋の範囲につき、『本件不動産は、収益物件として取得されていることからすると、収益性の観点からの自殺減価の検討も必要である。この場合も、本件自殺が居室内で行われたものであり、これに関する報道や近隣における噂の広まりを認めるに足りないこと、本件不動産を売却するまで308号室の新規入居者が募集されていたが、売主らが本件自殺を認識するような事情はなかったこと、買主代表者は、本件売買契約締結後、本件自殺について問い合わせがあったとするが、明確に記憶に残っているのは不動産業者から1件、それ以外から2件に留まることからすると、本件自殺による賃料の減額を要するのは、308号室および208号室に留まるというべきである』として、自殺のあった部屋とその直下の2部屋であるとしました。

    その上で、この2部屋の減価に関して、『本件売買契約は本件自殺が発見された約6か月後に行われていることからすると、308号室の本件自殺による減価率は50%であるとするのが相当である。また、208号室が308号室の直下に存在することからすると、同居室についても、10%の減価を認めるのが相当である』と判断しています。

    (3)裁判所の判断(賃料減額期間)

    またこの判決では、自殺のあとの賃料減額期間について、『買主が平成22年11月に308号室の賃借人の募集を停止したように、自殺が発見された時点から1年間程度は、新規賃借人の募集が停止され、その間の賃料収入は100%喪失されるのが通常と解される。また、2年目以降においても、自殺の存在が告知事項となることから新規賃貸借契約の締結のためには賃料を減額せざるを得ず、その減額割合は50%と想定するのが相当である。

    なお、自殺が告知事項となるのは、自殺が発生した次の新規入居者に対してであり、当該入居者の次の入居者に対しては告知義務はなくなるものと考えられること、居住用物件の賃貸借契約の期間は2年あるいは3年とされることが多いが、賃借人が契約の更新を希望すれば契約は更新され、その際、減額していた賃料を増額することは容易ではないと推認されることからすると、上記減額割合による賃貸借契約は6年から8年程度継続するものと推認される』としています。

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