労務相談
月刊不動産2024年10月号掲載
職場や外出先への移動時間は労働時間に該当するか
代表社員 野田 好伸(特定社会保険労務士)(社会保険労務士法人 大野事務所)
Q
平日の通常勤務終了後に出張先へ移動する社員がいるのですが、この移動時間は労働時間としなければならないでしょうか。また、休日に出張先へ移動する時間はどうでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
-
休日、平日時間外にかかわらず、出張における往復の移動時間は、原則として労働時間には当たりません。
-
労働時間とは
労働時間について判例では、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間 をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」としています(三菱重工業長崎造船所事件)。
つまり、「使用者の指揮命令下にあって労働に従事する時間」が労働時間となります。これには通常、出勤している時間が含まれますが、移動時間が労働時間に該当するかどうかは、その移動が「使用者の指揮命令下で行われているか」という点がポイントになります。
-
事業所間の移動時間の取扱い
業務を遂行するため、通常の職場から顧客先や現場へ移動するための時間を労働時間とすることについて、参考となる行政通達が出ていますので紹介します。こちらは訪問看護事業に関するものですが、他の業種にも応用できる考え方です。
訪問介護事業者の法定労働条件の確保について(基発第0827001号)
移動時間とは、事業場、集合場所、利用者宅の相互間を移動する時間をいい、この移動時間については、使用者が、業務に従事するために必要な移動を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当するものであること。具体的には、使用者の指揮監督の実態により判断するものであり、例えば、訪問介護の業務に従事するため、事業場から利用者宅への移動に要した時間や一の利用者宅から次の利用者宅への移動時間であって、その時間が通常の移動に要する時間程度である場合には労働時間に該当するものと考えられること。
-
通勤時間の取扱い
自宅から職場へ移動する行為を通勤といいますが、通勤経路は労働者の自由であり、通勤時間中に逸脱・中断することも可能であることから、使用者の指揮命令下で労務を提供する時間とは言い難く、労働時間には該当しないものと解されています。
これについて異論はないと思われますが、自宅から直接、通常とは異なる現場や顧客先に直行する場合、また顧客先などから直接自宅に直帰する場合の移動時間についてはどうでしょうか。直行直帰する場合も、基本的には自由利用が保障されていることから、労働時間には当たらないものとなります。
似たような事例で問題になるのは、自宅から会社までマイカー通勤をし、その後、会社で社有車に乗り換えて現場や顧客先に移動する場合です。先の訪問介護事業者に関する通達で考えると、会社から顧客先への移動時間については労働時間とする必要がありそうですが、会社に立ち寄る目的が、車を乗り替える、業務用具等を積み込む、他の社員と合流するといった軽微なものであり、会社で一定の作業・業務を伴っていない場合には、会社から現場・顧客先への移動時間についても通勤時間の延長とみなし、労働時間として扱わなくてよいと判断される場合があります。
-
出張時の移動時間の取扱い
休日や平日の勤務終了後に出張先へ移動することがありますが、行政通達では、「休日に出張のため移動した場合であっても、移動中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は、休日労働として取り扱わなくても差し支えない」としています。また、「出張における移動時間は労働拘束性の程度が低く、これが実労働時間に当たると解釈するのは困難である」「出張の際の往復に要する時間は、従業員が日常の出勤に費やす時間と同一の性質であると考えられることから、その所要時間は労働時間に参入されない」とした裁判例があることから、平日、休日にかかわらず、出張時の移動時間は原則として労働時間には当たりません。よって、平日の業務終了後に出張先へ移動する時間は労働時間にはなりません。なお、所定労働時間内の移動時間は、雇用契約上の観点から労働時間とする必要があります。
-
おわりに
移動時間が労働時間に含まれるかは、その移動が使用者の指示と直接的な関連を持つかどうかによります。使用者の指示に基づき、かつ業務遂行の一環として行われる移動は、労働時間に該当する可能性が高く、逆に個人の自由な判断に基づく移動や、業務指示と無関係な移動は労働時間には含まれないとされています。