税務相談
月刊不動産2012年12月号掲載
老人ホーム入所後に相続が発生した場合の自宅に係る小規模宅地特例の適用
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
老人ホーム入所後に相続が発生した場合の自宅に係る小規模宅地特例の適用について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.自宅の敷地に係る相続税の小規模宅地特例
(1)小規模宅地特例の概要
被相続人の事業用や居住用に使用されていた宅地を相続人等が相続した場合、その土地の相続税の課税対象額が減額される特例が設けられています。これを小規模宅地特例といい、自宅の敷地については面積240㎡を上限として評価額の80%が減額されます。
(2)老人ホームへの入居と小規模宅地特例
小規模宅地特例の適用対象となる自宅の敷地とは、原則、相続開始直前に被相続人等の居住の用に供されていたものであることが必要です。被相続人が自宅を空き家にして老人ホームに入所していた場合、その自宅の敷地が「相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていた」といえるかどうかは、判断に悩むところです。
この点について、国税庁は質疑応答事例において「被相続人が居住していた建物を離れて老人ホームに入所したような場合には、一般的には、それに伴い被相続人の生活の拠点も移転したものと考えられます。」としつつ、特例として、次に掲げる状況が客観的に認められるときには、被相続人が居住していた建物の敷地は、相続開始の直前においても被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当すると考えてよいとしています。
①被相続人の身体または精神上の理由により介護を受ける必要があるため、老人ホームへ入所することとなったものと認められること。この場合、特別養護老人ホームの入所者は、施設の性格を踏まえて介護を受ける必要がある者に該当すると考えられています。
②被相続人がいつでも生活できるよう、その建物の維持管理が行われていたこと。
③入所後あらたにその建物を他の者の居住の用その他の用に供していた事実がないこと。
④その老人ホームは、被相続人が入所するために被相続人またはその親族によって所有権が取得され、あるいは終身利用権が取得されたものでないこと。
2.平成22年6月11日裁決の内容
被相続人が相続発生時に老人ホームに入所していた場合、空き家となった自宅の敷地への小規模宅地特例の適用の可否について、国税不服審判所が判断を示した裁決事例(平成22 年6 月11 日裁決)を紹介します。
(1)争点
被相続人A は、生前、終身利用契約を締結し、妻とともに介護付有料老人ホームに入所していました。同ホームは、居室が面積32.10㎡の2 人部屋で、居室内にはベッド、エアコン、トイレ、洗面設備およびクローゼットが備え付けられていました。また、食堂、浴室、介護室等共用施設が利用でき、介護サービスの他、医師の往診等の健康管理サービスを受けることができました。Aは、その老人ホームが終身利用できるよう、費用が支払可能な預金残高を有しており、入所後は外泊したことはなく、自宅は空き家となっていました。
A の相続人は、A がこの自宅の敷地を居住の用に供していたと主張して小規模宅地特例を適用して申告しました。結果、国税不服審判所で争うこととなりました。
(2)審判所の判断
国税不服審判所は、居住用宅地について「相続人が住宅に居住していなかった理由、期間、その間の生活場所や状況、住宅の維持管理の状況など客観的な事情を総合的に勘案して、被相続人等が当該家屋(自宅)に居住していなかった状況が一時的なものであり、生活の拠点はなお当該家屋(自宅)におかれているといえる場合には、その敷地は居住の用に供されていた宅地に該当する。」との考え方を示しています。
その上で「被相続人A 夫婦は終身の介護を受けることを前提に老人ホームに入所し、入所からA の相続の開始までの間、継続して生活に必要な設備がそろっている老人ホームで生活をしていたといわざるを得ない。
A 夫婦が本件家屋(自宅)に居住していない状況が一時的なもので、生活の拠点はなお本件家屋(自宅)に置かれていたとは認められない。したがって本件宅地(自宅の敷地)は相続開始の直前において居住の用に供されていたとはいえない。」と判断、A の相続人の主張を退けています。(3)実務上の留意点
被相続人が居住可能な家屋を所有していたとしても、相続開始の直前において実際に居住していなければ、その家屋を居住の用に供しているものとは言えず、小規模宅地特例の適用も受けられないと考えるべきです。老人ホーム入所後に相続が発生した場合、自宅に係る小規模宅地特例の適用については、慎重な姿勢で対応したいところです。