税務相談
月刊不動産2013年7月号掲載
老人ホームへの入所により被相続人が自宅を空き家にした場合の相続税の小規模宅地特例の取扱い
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
老人ホームへの入所により被相続人が自宅を空き家にした場合の相続税の小規模宅地特例の適用について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.小規模宅地特例の概要
小規模宅地特例とは、被相続人である親の自宅敷地(居住用宅地)、店舗の敷地(事業用宅地)、貸アパートの敷地(貸付事業用宅地)などを相続人等が相続または遺贈により取得する場合、一定の要件の下で、これらの土地の相続税対象額を相続税の課税対象から減額できる制度をいいます。居住用宅地の場合、特例の適用対象となる土地の面積は上限240㎡(平成27 年以後の相続または遺贈により取得した土地については330㎡)、減額割合は評価額の80%とされています。
2.居住用に使用されていたかどうかの判定
小規模宅地特例の対象となる「被相続人の居住用に使用されていた宅地等」の判定は、被相続人が、その宅地等の上に存する建物に生活の拠点を置いていたかどうかにより行います。具体的には、被相続人の日常生活の状況、その建物への入居目的、その建物の構造や設備の状況、生活の拠点となる他の建物の有無その他の事実を総合的に考えて、居住用に使用されていたかどうかを判定します。
3.被相続人が老人ホームに入所したことにより自宅が空き家であった場合
(1)現行の取扱い
被相続人が居住していた建物を離れて老人ホームに入所し、一度も退所せずに死亡した場合において、被相続人が入所前まで居住していた建物が相続開始直前まで空き家であったときは、その建物の敷地について居住用の小規模宅地特例の適用を受けられるのでしょうか。
被相続人が居住していた建物を離れて老人ホームに入所したような場合は、一般的には被相続人の生活の拠点も移転したものと考えられます。しかし、被相続人の身体上または精神上の理由により介護を受ける必要があるため、自宅での生活を望んでいるものの、居住していた建物を離れて老人ホームに入所している場合もあります。このような場合は、病気治療のため病院に入院したときと同じ状況にあると考えられます。
そこで国税庁では、被相続人が老人ホームに入所したため相続開始の直前においても、それまで居住していた建物を離れていた場合において、次の①~④の状況が客観的に認められるときには、被相続人が居住していた建物の敷地は、相続開始の直前において被相続人の居住用として使用されていた宅地等に該当するとの見解を示していました。
①被相続人の身体または精神上の理由により介護を受ける必要があるため、老人ホームへ入所することとなったものと認められること。この場合、特別養護老人ホームの入所者については、その施設の性格から判断して介護を受ける必要がある者に該当します。
②入所後その建物を、新たに他の者の居住用その他の用に供していた事実がないこと。
③被相続人がいつでも生活できるように、その建物の維持管理が行われていたこと。
④その老人ホームは、被相続人が入所するために被相続人またはその親族によって所有権が取得され、あるいは終身利用権が取得されたものではないこと。
(2)平成25 年度税制改正による適用要件の見直し
平成25 年度税制改正では、近年の老人ホーム入居者の増加や終身利用権を取得する契約形態の増加を踏まえて、平成26 年以後の相続または遺贈により取得した土地について、前述(1) の要件が見直されました。
まず、①の「介護を受ける必要があるため、老人ホームへ入所することとなったものと認められること」の要件についても、次のように明確化されました。
イ. 介護保険法に規定する要介護認定または要支援認定を受けていた被相続人が、老人福祉法に規定する養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム等または介護保険法に規定する介護老人保健施設に入所等をしていたこと
ロ. 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に規定する障害支援区分の認定を受けていた被相続人が障害者支援施設等に入所等していたこと。
また、前述(1) の要件のうち③と④が廃止されました。今回の改正により、空き家の維持管理が不要となり、老人ホームの所有権や終身利用権の取得も認められることから、小規模宅地特例の適用対象者の拡大が見込まれます。