法律相談
月刊不動産2005年5月号掲載
競売手続終了前の売買契約
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
競売でマンションを買い受け、リフォームした上で顧客に販売をしようと考えています。競売での買受手続が終わる前に、リフォーム後の競売物件の売買契約を締結したり、あるいは広告によって購入者を募集してもかまわないでしょうか
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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競売による物件の買受け前には、競売物件について売買契約を締結したり、あるいは広告をすることはできません。競売手続で買受人として定められ、代金を支払って所有権を取得した後に、広告をして営業活動を行い、顧客との売買契約を締結しなければなりません。
さて競売による不動産の買受けには、保証金提供などの手続が必要とされ、手間と費用がかかります。また売主の協力を得られず、占有取得のために引渡命令が必要なケースもあります。さらに管理保存の状態が良好ではなかったり、あるいは権利関係が複雑な物件も少なくありません。このようなデメリットのために売却価格が、一般の取引に比べて安くなるのが普通です。
そこで業者がいったん不動産を競売で取得し、リフォームや権利関係の整理を行い、その経費と利益を取得価格に上乗せして顧客に販売するという事業が行われる場合があります。競売手続の適正化・活発化が社会的な要請となっている一方、競売不動産には一般消費者が直接に購入しづらい物件も多いことから、法令を遵守し、顧客の利益に合致する限り、業者が競売において買受人となることは、社会的な意義のあることです。
ただし宅地建物を競売で買い受けてこれを販売することを業として行うときにも、宅建業法が適用されるのは当然です。このような業務を行うときにも宅建業法に従わなければなりません。民法では他人の物を売買の目的物とすることも可能ですが、宅建業法は、原則として、業者に自己の所有に属しない宅地建物の販売を禁止しています(宅建業法33条の2)。これは他人の宅地建物の売買の場合、売主がもしその物を取得できなかったときは、買主が被る不測の損害が大きくなってしまうために、業者が他人物売買に関与することによる事故を防いで消費者を保護し、また業者の信用を確保しようという趣旨です。ただ他人の土地建物であっても、確実に取得できる場合には、買主に不測の損害を被らせる心配はありません。そこで宅建業者が宅地建物を取得する契約を締結しているときなど、宅地建物を取得できることが明らかな場合には、例外として他人の宅地建物を売却することも認められています。
翻って競売物件の所有権の帰属をみると、裁判所から買受人と認められ、その後代金を支払って初めて所有権が買受人に移転します(民事執行法79条)。代金を支払うまでは所有権は移転せず、入札に参加するなど買受けのための準備をしていたとしても、あくまでも物件は他人の物にすぎません。したがって競売によって買い受ける予定の物件について業者が売主として売買契約を締結することは許されないわけです。競売手続において買受人となれるかどうかは確実ではありませんから、例外として他人物売買が認められることもありません。業者は代金を支払い、物件の所有権を取得して初めてこれを顧客に販売することができるようになります。
また宅建業法では著しく事実に相違する表示をすることが禁止されています(宅建業法32条)。そして取引の対象となり得ない物件を広告することは著しく事実に相違する表示にあたるものであり、処分委託を受けていない他人所有物件の表示は取引の対象となり得ないものと考えられています。
競売では買受けの前に所有者から処分の委託を受けることは想定できませんので、やはり広告についても、代金を支払い、所有権を取得して初めて広告が可能になるものであると解することができます。
ところで従来不動産競売には最低売却価額が決められ、これを下回る価格で買い受けることはできませんでしたが、最低売却価額には競売手続の柔軟性を失わせ、競売の円滑化を妨げるという批判もありました。そのため平成16年11月に民事執行法が改正され、従来手続の中心であった最低売却価額の制度が廃止され、平成17年4月から施行されています。
なお最近、最高裁から、競売によって宅地建物を買い受ける行為は宅建業法による宅地建物の売買にあたるという裁判例が公表されたことも注目されます(最高裁平成16年12月10日判決、最高裁ホームページ)。