税務相談

月刊不動産2005年2月号掲載

法人と個人に対するみなし譲渡

代表社員 税理士 玉越 賢治(税理士法人 タクトコンサルティング)


Q

個人における所得の金額の計算上、「収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、その年において収入すべき金額」と定められていますが、個人が法人に贈与又は低額譲渡した場合や、相続において限定承認した場合には、時価により譲渡があったものとみなす規定があると聞きました。詳しく教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  「譲渡所得」とは資産の譲渡による所得のことです。譲渡所得の対象となる「資産」とは原則として経済的価値のあるものすべてをいいますが、棚卸資産、準棚卸資産、少額減価償却資産、山林、営利目的で継続的に譲渡される資産、金銭債権は「譲渡所得の対象となる資産」には含まれません。
     「譲渡」とは財産、権利、法律上の地位等をその同一性を保持させつつ他人に移転することをいい、有償、無償を問いません。したがって、売買、交換、競売、公売、現物出資、贈与、遺贈などの無償譲渡(相続税、贈与税の対象となるものを除く。)も原則として譲渡に含まれます。
     個人が譲渡所得の基因となる資産を、①法人に対して贈与又は遺贈した場合、②法人に対して時価2分の1未満の価額で譲渡(以下、「低額譲渡」という。)した場合、③相続人又は包括遺贈された受遺者が限定承認した場合には、時価で譲渡があったものとみなされます。個人間の贈与・低額譲渡についてはみなし譲渡課税は行われませんが、離婚等による財産分与として資産の移転があった場合には、財産分与者は、分与時に時価による資産を譲渡したものとみなされます。

    1.法人に対する贈与、遺贈又は低額譲渡の場合

     個人が法人に対して資産を贈与又は遺贈した場合、若しくは低額譲渡した場合には、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得の計算をすることになります。なお、同族会社に対して時価の2分の1以上の対価で資産を譲渡した場合であっても、その行為が、「同族会社の行為計算の否認」規定の対象となるときは、時価によって譲渡があったものとして課税されることがあります。
     また、個人から資産の贈与、遺贈又は低額譲渡を受けた法人は、時価と譲受価額との差額について受贈益として法人税が課されます。
     更に、会社に対して無償で財産の提供があったことや時価より著しい価額の対価で財産の譲渡があったことにより同族会社の株式価額が増加した場合には、株主等は株式価額のうち増加部分の金額を、会社に対して財産の無償提供した者又は会社に対して財産を譲渡した者から贈与により取得したものとして取り扱われます。ただし、同族会社が資力喪失状態である場合において、取締役等から財産の無償提供又は財産の譲渡を受けたときは、会社が受けた利益額のうち会社の債務超過額相当額については贈与によって取得したものとは取り扱われません。

    2.相続人又は包括遺贈された受遺者が限定承認した場合

     所得税法は法人税法と異なり、経済的成果を伴わない無償の行為による所得は課税対象としません。したがって、原則として個人間の贈与・低額譲渡についてはみなし譲渡課税は行われません。
     限定承認とは、相続人が相続によって取得した財産の範囲内で被相続人の債務及び遺贈の義務を負担するという相続の承認方法で、原則として相続人であることを知った日から3ヶ月以内に相続人全員が家庭裁判所に申し出なければなりません。限定承認により資産が移転した場合には、被相続人が資産を時価で譲渡したものとみなして譲渡所得額が課されます。
     限定承認した場合には、このみなし譲渡所得に係る所得税は被相続人の債務となり、相続税の計算上、債務控除の対象となります。したがって、相続税の課税価格は、「相続財産評価額-債務(みなし譲渡に係る所得税)」となります。
     限定承認により相続した財産を譲渡した場合、相続人はその資産を相続時にそのときの時価で取得したものとみなして譲渡所得税計算を行います。

    3.離婚等による財産分与の場合

     離婚等に伴う財産分与による資産の移転については、その分与が譲渡所得の基因となる資産の移転である場合は、その分与者は分与時においてその時の時価により資産を有償譲渡したことになり譲渡所得として課税されます。これは、財産分与による資産の移転は、財産分与義務の消滅という経済的利益を対価とする譲渡とされ、贈与とはされません。

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