法律相談
月刊不動産2004年9月号掲載
新築マンション販売における説明義務
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
都心のマンションを建築中に購入し、完成後に引渡しを受けて入居していますが、リビングルームの目の前に変圧器の付いた電柱と太い電線があり、気になって仕方がありません。慰謝料を求められないでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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売買契約前に、変圧器付き電柱や電線の存在、これらとマンションの位置関係について、説明を受けていないのであれば、売主と販売業者に対して、慰謝料を請求することができます。
マンション販売と電柱・電線との関係について考えてみると、都市型マンションにあっては、周囲に電柱・電線が配置されていることは、容易に想像することができます。また竣工済みのマンションであれば、マンション購入者は現地の見分を行って購入するのが通常ですから、購入予定のマンションの近くに電柱・電線があり、マンションと電柱・電線との位置関係を確認してから購入することが可能です。よって、マンションの売買契約において、売主や販売業者に、常に電柱・電線の存在などを説明する義務があるということはできません。
しかし一般に、青田売りといわれる完成前のマンション販売では、購入希望者は売買契約時に現物を見ることができませんから、売買契約にあたり、売主や販売業者は、購入希望者に対し、売買予定物の状況について、実物を見聞できたのと同程度にまで説明をする義務があるとされています(大阪高裁平成11年9月17日判決)。
また完成前の売買契約においては、一般の購入者には、建物に関する専門的な知識や経験がなく、建築工事中には工事現場はシートに覆われていることも多いため、現場をみても住戸の状況はよく分かりません。購入希望者が、売買契約時に、完成後の購入住戸と電柱や電線の位置関係を把握することは、困難です。
他方で売主や販売業者は、マンションの専門家ですから、購入予定者と異なり、電柱・電線の存在と住戸との位置関係を知り得る立場にあります。
このようなことから、マンションを建築前若しくは建築中に販売するケースにおいて、リビングルームの目の前に電柱・電線が存在することになる場合には、売主や販売業者には購入者に対し、電柱・電線の存在、住戸との位置関係をあらかじめ説明する信義則上の義務があるということができます。
裁判例でも、完成前に3,500万円で販売された新築マンション4階の一室について、開口部から4.3メートル、バルコニー先端から3メートルの位置に変圧器付き電柱、建物の目前に変圧器あり(変圧器は、判決前に移設されている)、電柱の上部部分に3本の太い電線が接続器具を介して接続されていた場合に、電柱が建物の前面に近接した位置で存在して圧迫感、嫌悪感を与えること、変圧器が移設された後もなお太い電線が本件建物付近で集中して接続され、これがリビングルームの開口部の視界を大きく遮っていることから、売主と販売業者の信義則上の説明義務違反を肯定し、慰謝料50万円が認められています(東京地裁平成14年2月22日判決)。
またこの裁判例では、電柱や電線の状況が減価要因を構成するものとされ、減価要因を考慮せずに決定した建物の売買価格が適正価格に比して高額であることを理由とする損害賠償請求も認められています。ただ、「変圧器はその後移設され、現在は電柱のみの状態であるところ、本件のマンションは都心部に位置しており、その立地条件からして、景観の良さは問題とされていないこと、都心部にあっては、一定の地域を除き電柱は不可避であり、受忍すべき面があること、一般に電柱は、変圧器とは異なり、これが建物近くに存在しても、人によって受ける印象はさまざまであり、必ずしもすべての者が嫌悪感を抱くとは限らないこと等に照らすと、現在はその減価要因は相当程度に低いものといわざるを得ない。」と判示され、損害賠償の額については30万円とされました。
このほかに新築マンションの販売における信義則上の説明義務違反により損害賠償が認められた裁判例として、日照・通風等に関する正確な情報を提供する義務を怠ったことにより損害を被ったとして債務不履行に基づく損害賠償請求が認められた裁判例(東京高裁平成11年9月8日判決)があります。