賃貸相談
月刊不動産2019年12月号掲載
所在不明の借家人とその連帯保証人に対する明渡し請求の可否
弁護士 江口 正夫(海谷・江口・池田法律事務所)
Q
アパートの一室を自営業者に賃貸し、その父親に連帯保証をしてもらっています。ところが、3カ月前から賃料が入金されないため、現地を確認すると、入居者は部屋には住んでおらず、連帯保証人である父親に確認しても所在はわからないとのことでした。窓から室内を確認すると、室内には家財道具等はかなり残っている状態です。賃貸借契約を解除したいのですが、行方不明の賃借人に対しては、どのようにすればよいのでしょうか。また、連帯保証人である父親に対し、貸室の明渡しを請求することはできるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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回答
賃借人が建物賃料を3カ月分以上滞納した場合は、原則として、信頼関係を破壊するに足りる債務不履行があったことを理由に配達証明付内容証明郵便により賃貸借契約を解除することができますが、契約解除の意思表示が賃借人に到達することが必要です。賃借人が行方不明の場合は、この方法によることができませんが、現在の民事訴訟法では、賃借人に対する建物の明渡しを求める訴状に、契約を解除する意思表示を記載し、その訴状を公示送達に付することにより、行方不明の賃借人に対しても有効に解除の意思表示を行うことができます。ただし、契約が解除されても、法的には、連帯保証人に対して建物の明渡しを請求することは認められていません。明渡しの判決を得て、強制執行手続きにより、建物の明渡しを実現することができます。
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1. 賃料を滞納した賃借人に対する契約解除
賃借人が1カ月でも賃料を滞納することは賃借人の債務不履行に該当します。しかし、だからといって、直ちに賃貸借契約を解除することは原則として認められていません。賃貸借は、継続的な契約関係ですから、判例は、信頼関係破壊理論を採用しており、賃借人の債務不履行が賃貸借契約の当事者間の信頼関係を破壊するに足りる債務不履行の場合でなければ、契約を解除することができないとの判断を示しているからです。一般には、賃料の3カ月分の滞納があれば信頼関係の破壊を認め、賃貸借契約の解除を認めるのが判例の傾向です。ご質問のケースでは、賃料が3カ月間入金がないということですから、相当期間を定めて催告をし、賃貸借契約を解除することが認められるケースです。
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2. 行方不明の賃借人に対する契約解除の手続き
契約解除などの意思表示は相手方に到達して初めて効力が発生します(民法97条1項)。ご質問のケースのように相手方が行方不明の場合には、民法は「公示の方法」によって意思表示をすることができると定めています(民法98条1項)。この方法は、簡易裁判所の滞納賃料の催告と契約解除の意思表示を記載した書面を2週間公示してもらうというものです。また、現在では、民事訴訟法の改正に伴い、訴状に契約解除の意思表示が記載されているときは、訴状を公示送達することにより契約解除の意思表示を相手方に通知することも認められるようになっています(民事訴訟法113条)。訴状の公示送達の場合も、被告の所在が不明であることが要件ですので、賃借人が現在所在不明であることを立証する必要があります。
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3. 連帯保証人に対する建物明渡し請求の可否
賃借人が行方不明であっても、連帯保証人の所在が明らかである場合に、連帯保証人に建物明渡しの請求ができれば賃貸人としては便利です。しかし、判例では、建物明渡し義務は、賃借人の一身専属的な義務であって保証人が代わって実現することはできず、建物明渡しについての連帯保証人の債務は、明渡しの不履行により、明渡し義務が損害賠償義務に変ずることを停止条件として金銭賠償義務として効力を生じるとの見解を示しています(大阪地判昭和51年3月12日)。
したがって、法的には連帯保証人に対して明渡し請求をすることは認められておりません。 -
4. 残置物放棄条項の有効性