賃貸相談
月刊不動産2022年9月号掲載
建物内の人の死亡の事実等の告知義務
弁護士 江口 正夫(海谷・江口・池田法律事務所)
Q
賃貸住宅の入居者募集の依頼を受けたのですが、当該賃貸住宅では1年前に入居者が老衰で死亡しておりました。当社が仲介して重要事項説明をする際に、前入居者が老衰で死亡したとの事実を告知しなければならないのでしょうか。老衰での死亡ですから、自殺や殺人事件があったわけではないので、説明する必要はないようにも思いますが、後になって、説明義務違反であるとのクレームが出されて紛争になるのも避けたいと思っています。賃貸住宅の場合、自然死やそれ以外の自殺等の人の死については、どの程度の説明が必要なのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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回答
国土交通省では「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が公表されています。同ガイドラインでは、①自然死の場合には、原則として告知の必要はないこと、②自然死であっても長期間放置され、いわゆる特殊清掃が実施された場合は原則として告知すること、③他殺、自死、事故死その他原因が明らかでない死亡が発生した場合は、原則として、これを告知すること、④原因が明らかでない死(自然死か事故死か不明等)の場合は原則としてこれを告知すること、⑤調査の方法として売主・貸主に対して「告知書(物件状況等報告書)」等に過去に生じた事案についての記載を求める事により、媒介活動に伴う通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとすること等々が示されました。よって、今回の自然死の場合は説明しなくとも宅地建物取引業法違反にはならないものと解されます。
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1.「 人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」の公表
不動産取引にあたって、取引の対象不動産において過去に生じた人の死に関する事案について、宅地建物取引業者による適切な調査や告知に係る判断基準がなかったことから、円滑な流通や、安心できる取引が阻害されているとの指摘がありました。そこで、国土交通省では、宅地建物取引業者が宅地建物取引業法上負うべき義務の解釈について、令和2年2月より「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」において検討を進め、令和3年5月から6月に実施したパブリックコメントを踏まえ、令和3年10月、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(以下「本ガイドライン」)をとりまとめ公表しました。
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2.本ガイドラインの概要
(1)本ガイドラインの対象
居住用不動産とオフィス等を比較した場合、居住用不動産は、人の生活の本拠として用いられるもので、買主・借主は居住の快適性・住み心地の良さ等を期待して、購入または賃借し入居することが多いため、居住用不動産については、人の死に関する事案はその取引の判断に影響を及ぼす度合いが高いことから、本ガイドラインでは、居住用不動産を対象としています。
本ガイドラインは、戸建て建物や賃貸アパートだけではなく、分譲集合住宅についても対象とし、専有部分だけではなく、日常生活において買主・借主の住み心地の良さに影響を与えると考えられる部分(ベランダ等の専用使用が可能な部分、共用の玄関・エレベーター等)をも対象とされています。(2)老衰、病気等による自然死が発生していた場合
取引の対象不動産で発生した自然死や、日常生活の中での不慮の死(例えば転倒事故や高齢者等による誤嚥などによる死亡)については、原則として告げなくてもよいこととされました。(3)事故死、自殺、他殺等、原因が不明の死の場合
原因が明らかでない死ということは、自然死かもしれないが自殺や他殺の可能性も否定できないものということですので、原則として、告知が必要とされています。(4)人の死についての宅建業者の調査方法
宅地建物取引業者が媒介を行う場合、過去に生じた人の死についての調査方法は、売主・貸主に対し、物件状況等報告書等の告知書面等に記載を求めることで、通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとされます。また、告知書等に記載されなかった事案の存在が後日に判明した場合であっても、宅地建物取引業者に重大な過失がない限り、事案についての調査は適正になされたものとされることになりました。