税務相談
月刊不動産2009年5月号掲載
平成21 年に個人が土地等を先行取得した場合の特例
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
平成21 年に個人事業者が土地等の先行取得をした場合の譲渡所得の特例について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.創設の趣旨
土地需要を喚起し、土地の流動化と有効活用を促進する観点から、平成21年度税制改正で、平成21年と及び22年に取得する土地等について課税の特例が設けられました。
2. 内容
(1) 制度の概要
①譲渡所得の特例
個人事業者が平成21年1月1日から平成22年12月31日までの期間内に、国内にある土地等の取得をし、その取得年の確定申告書の提出期限までに、本特例の適用を受ける旨の届出書を提出している場合において、その取得年の翌年以後10年以内に、その個人事業者の所有する他の事業用土地等の譲渡をしたときは、当該他の事業用土地等の譲渡所得の計算上、その譲渡益の80%相当額(平成22年中に土地等の先行取得をした場合については、60%相当額)を控除することができます。
②先行取得土地等の取得価額
先行取得土地等の取得価額は、①の譲渡所得の計算上控除した額を減額した残額とされます。
(2) 具体的な計算方法
例えば、個人事業者が平成21年に取得価額5億円で土地を取得し、その取得した年の翌年に帳簿価額2億円の土地を6億円で譲渡したとします。
通常は、譲渡益4億円に対して20%の税率により所得税と住民税が課税されます。この特例の適用を受ける場合は、譲渡益の80%相当額3億2,000万円が控除され、課税対象額は8,000万円となります。
なお、平成21年に取得した土地の帳簿価額は、取得価額5億円から、譲渡土地等について控除された3億2,000万円を減額した1億8,000万円となります。
(3) 手続
この特例は、土地等の譲渡をした年分の所得税の確定申告書に適用を受ける旨の記載があり、かつ事業用土地等の譲渡による譲渡所得の金額その他一定の書類の添付がある場合に限り、適用されます。
3.活用のポイント
この特例を活用する場合のポイントを挙げると、以下のとおりになります。
(1) 個人の対象者
個人の場合は、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務を行う者のみが、この特例の適用対象者となります。
(2) 特別の関係のある者から土地等を取得した場合の適用除外
この特例は、譲渡者が配偶者その他の特別の関係のある者から土地等を取得し、又は相続、遺贈、贈与を受けた場合については、適用されません。親族から土地等を取得した場合については、この特例の適用対象外となるので、注意が必要です。
なお、土地等の譲渡に係る相手先については、特に制限は設けられていません。
(3) 棚卸資産である土地等の適用除外
取得する土地等が棚卸資産である場合には、この特例の対象とはなりません。
(4) 譲渡する土地等
譲渡する土地等は事業用のものに限られます。
(5) 他の特例との関係
収用等に係る特例、固定資産の交換特例及び平成21年及び平成22年中に取得した土地等の長期譲渡所得の1,000万円特別控除等の適用を受ける場合には、この特例の適用を受けることができません。
(6) 事業用資産の買換え特例との相違点
この特例は従来の事業用資産の買換え特例と類似した課税の繰り延べ特例ですが、譲渡益から控除される額の計算方法が異なります。
事業用資産の買換え特例では、譲渡資産の譲渡価額と買換資産の取得価額を比較し、どちらか少ない額の80%相当額を譲渡益から控除します。
これに対して、この特例では、譲渡資産の譲渡価額と買換資産の取得価額にかかわらず、譲渡益からその80%又は60%相当額を控除できます。