法律相談
月刊不動産2014年4月号掲載
宅建業者が仲介行為を行う場合の広告の料金
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
建物の所有者から、賃貸仲介の依頼を受けました。できるだけ早く客付けをしてほしいので、月額賃料1か月分の仲介報酬とは別に、広告の料金として、月額賃料1か月分相当額を支払うといわれています。通常の募集活動のほかに、特別の広告を行う予定はありません。所有者から広告の料金を受け取っていいでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1. 回答
広告の料金を受け取ることは許されません。宅建業法違反です。広告の料金を受領すれば、宅建業法上の処分を受けることにもなります。
2. 報酬告示の原則
さて宅建業法は、「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる」と規定しています(同法46条1項)。これを受け、国土交通大臣が、「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」(昭和45 年建設省告示第1552 号)(報酬規程)を定めて告示を行い(同条3項)、宅建業者が宅地建物の売買・交換・貸借の代理・媒介を行って受けることができる報酬の上限額が定められています。宅建業者は、定められた額をこえて報酬を受けてはなりません(同条2項)。
3. 受領が許される広告の料金
ところで報酬規程第6には、報酬の上限額の定めに続けて、「依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額及び当該代理又は媒介に係る消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額については、この限りでない。」とも定められています。この条項を拠り所にして、仲介会社が、依頼者に対し、所定の報酬以外に広告料の支払を請求することがあります。
しかし仲介会社が、報酬とは別に依頼者に請求できる広告の料金については、『一般に宅建業者が土地建物の売買の媒介にあたって通常必要とされる程度の広告宣伝費用は、営業経費として報酬の範囲に含まれているものと解されるから、本件告示第6が特に容認する広告の料金とは、大手新聞への広告掲載料等報酬の範囲内で賄うことが相当でない多額の費用を要する特別の広告の料金を意味するものと解すべきであり、
また、本件告示第6が依頼者の依頼によって行う場合にだけ広告の料金に相当する額の金員の受領を許したのは、宅建業者が依頼者の依頼を受けないのに一方的に多額の費用を要する広告宣伝を行い、その費用の負担を依頼者に強要することを防止しようとしたものと解されるから、特に依頼者から広告を行うことの依頼があり、その費用の負担につき事前に依頼者の承諾があった場合又はこれと同視することのできるような事後において依頼者が広告を行ったこと及びその費用の負担につき全く異議なくこれを承諾した場合に限り、広告の料金に相当する額の金員を受領することができるものと解すべきである』(東京高裁昭和57年9月28 日判決、判時1058 号70 頁)とされています。すなわち、所定の報酬とは別に広告の料金を請求ができるのは、この判決例に示された限定された要件を満たす場合に限られるわけです。
4. 裁判例
最近、広告の料金に関する新しい裁判例が公表されました(東京地裁平成25 年6月26 日判決、ウエストロー・ジャパン)。賃借人が賃貸人に礼金を支払う合意がなされ(礼金支払合意)、かつ、賃貸人と仲介会社との間で、賃借人から支払われた礼金を仲介会社が広告料名目で取得する旨の合意(礼金取得合意)がなされていた事案です。まず、賃貸人と仲介会社の礼金取得合意について、
『賃借人から礼金名目の下に賃料の1か月又は2か月分相当額の金員を出えんさせることを前提として、これを仲介会社において広告料の名目により取得することを認めるものであるが、このような合意は、宅建業法の定めに違反し、無効であるというよりほかはない』とした上、賃借人が賃貸人に礼金を支払うとの礼金支払合意についても、『強行規定を潜脱する目的で、仲介会社が広告料名目の金員を取得するために定めたものであるから、賃借人と賃貸人との間の礼金支払合意も、礼金取得合意と同様に、宅建業法の規定に反し、無効である』とされています。5. まとめ
宅建業者の多くが、広告料金のルールを誤解して、依頼者の了解されあれば、仲介報酬の他に、広告料金を受領してもよいと考えているようです。その結果、ルール違反の広告料金授受が横行し、目に余る状況となっています。宅建業者も、これを監督する行政官庁も、不動産取引における遵法性を確保するために、広告料金に関する宅建業法のルールを、いまいちど確認し、堂々と違法行為が行われるようなことがないようにしていただきたいと思います。