法律相談

月刊不動産2009年2月号掲載

売買後に規制された物質による土壌汚染

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

当社が12年前に売却した土地に含まれる物質が、今般法規制を受けることとなりました。買主から瑕疵担保責任を問われる可能性があるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  12年前に売却した土地であっても、土中の物質が汚染物質として法規制を受けるに至った場合には、瑕疵担保責任を問われる可能性があります。

     さて、売買契約の目的物に瑕疵(欠陥)があり、買主がその瑕疵を知らないときには、売主は買主の損害を賠償しなければなりません。瑕疵のために契約の目的を達することができなければ、契約の解除をすることもできます(民法570条、566条1項)。この責任が瑕疵担保責任です。

     法律上、瑕疵のある物を買った場合であっても売買代金は支払わなくてはいけないのであり、そのため、売主と買主の衡平を図るべく、瑕疵による損害を売主負担とし、また瑕疵がなければ契約をしなかったであろうケースでは、売買契約の解除ができるものとされているわけです。売買の目的物について、その物が通常有するべき性質、性能を備えていない場合に、瑕疵があることになります。

     土地の売買においては、特段の事情がない限り、土地に人の生命、身体、健康を損なう危険のある有害物質が含まれていないことは、土地が通常備えるべき品質、性能です。有害物質で土壌が汚染されていることは土地の瑕疵です。

     ところで、売買契約の後に土中の物質が有害であるとして法規制を受けるようになった場合にも、瑕疵があったといえるのか否かが問題となります。

     平成3年に、23億円で購入した東京都内の土地3,600㎡について、平成15年2月に都条例でフッ素が有害物質として規制されたことから、買主が調査を行ったところ、最高で基準値の1,200倍のフッ素が検出されたために、買主から売主に対し、瑕疵担保責任としての損害賠償請求がなされたという事案があります(東京高裁平成20年9月25日判決)。

     この事案において、売主は「瑕疵の有無は、売買時の知見や法令を基に判断すべきだ」と主張し、また、原審の東京地裁も、「売買契約後に法規制で生じた瑕疵まで認めると、売主は永久に責任を負うことになる」として、買主の訴えを退けていましたが、東京高裁は、この東京地裁の判断を覆し、次のように判示して、売主の瑕疵担保責任を認め、売主に、汚染土壌の除去費用などの損害があったとして、4億4,900万円の支払を命じました。

     「売買契約締結当時、売買契約の目的物である土地に含まれている物質の有害性が社会的に認識されていたかどうかは、当事者が売買契約を締結するに当たって前提となる事実をどのように認識していたか、また、認識可能であったかに包含される問題であって、事実の範疇(はんちゅう)に包含される問題であると考えられる。

     そして、このことは土地に含まれていた物質が当時の取引観念上は有害と認識されていなかったが、売買契約後に有害と社会的に認識されたために、当該物質を土壌を汚染するものとしてこれを規制する法令が制定されるに至った場合において、売買契約の目的物である土地に当該物質が含まれていたことが判明したときにも当てはまる。

     よって、売買契約締結当時、土壌を汚染するものとして当該物質を規制する法令の規定が存在しなかったことを理由に、売買契約は適法であり、民法570条にいう隠れた瑕疵が存在することを否定することはできないものというべきである。

     土壌を汚染するものとして当該物質を規制し、汚染の除去等の措置を定める法令の規定が定められ、買主が当該規定に従い、汚染の除去等の措置に必要な費用を負担したときには、買主は売主に対し、民法570条に基づき、上記の費用相当額の損害賠償請求をすることができると解するのが相当である」

     この東京高裁の判決は、売買契約のときに規制を受けていなかった物質について、売買契約から10年以上経過した後になって法規制を受けたことを理由として、瑕疵担保責任を認めるものであり、売主にとって、極めて重い責任を認めるものとなっています。環境問題に対する社会的な意識が高まり、裁判所もまた、土壌汚染に対する厳しい態度を示すに至っていることを示すケースとして、注目をしておかなければなりません。

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