法律相談

月刊不動産2010年2月号掲載

売主の説明義務

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

売主(宅建業者)に床面積100㎡程度の建物を建てたいと伝えた上で、土地を購入しましたが、購入後法令上の制限が判明し、希望の面積の建物が建ちませんでした。売主に損害賠償を請求できるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.宅建業者である売主には、買主に対して、法令上の制限を説明する義務があります。したがって、売主に対して、損害賠償を請求することができます。

    2.さて、宅建業者は、宅地建物の取引の仲介をする場合だけではなく、自ら売主として取引の主体となる場合にも、重要事項を説明しなければなりません。

    3.(1) 買主Xが、床面積100㎡程度の建物を建てたいという希望を、売主Yと仲介業者Z(YもZも宅建業者)に伝えた上で、東京都内の土地(建ぺい率80%)33.02㎡を、売買代金2,830万円(消費税込み)で購入したところ、この土地が第2種高度地区内にあって高さ5m以上の部分が斜線制限に服し、一般的な階高により建築した場合、3階部分の一部が斜線制限の影響を受けるため、延べ床面積100㎡程度の建物を建築することは法的に不可能であったという事案があります(東京地裁平成21年4月13日判決)。

     (2) XのYに対する損害賠償請求に対し、Yは、仲介業者が介在している場合、売主は重要事項説明を仲介業者に任せるのだから、売主である自らに責任はないと主張をしていました。

     しかし判決では「宅建業者が宅地建物の売買の売主となる場合、買主となろうとする者に対し、宅建業法35条1項各号に規定された重要事項について説明義務を負い、同義務は、当該売買を宅建業者が媒介した場合でも、免除されない(同法35条1項本文参照)」として、Yの言い分は退けられています。

     (3) 引き続き「Yは、売買契約の売主として、信義に従い誠実に同契約上の債務を行わなければならないところ(民法1条2項)、宅建業法は、宅建業者が取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならないと規定しているから(宅建業法31条)、宅建業法上の重要事項説明義務は、売買契約上の付随義務の内実をなすというべきである。

     Yは、①Zを通じて、Xから「不動産購入申込書」を受領した際、Xが本件土地に建物を新築予定であること、及び、②Zが用意した重要事項説明書には第2種高度地区と記載されているだけで、同添付資料中に同規制の内容について説明する資料が含まれていないことを、それぞれ認識しているところ、Yが売買契約当日にZないしE(取引主任者)の説明に立ち会っていれば、同説明が不十分であることを認識することができ、Y自らが十分な説明をする機会があった。

     しかるにYは、Zないしその担当者であるEが、Xに対し、重要事項を説明する際、別室で待機し、何らかの説明をしていない。

     この点、F社長(Yの社長)の陳述書には『不動産売買の慣例上、仲介業者が買主に売買に関する説明などを終え、残すは契約書に押印だけという段階になって初めて、売主と買主とが顔を合わせることが多く、本件売買契約の際も、この慣例に従った』旨の記載があるところ、自ら、同業者を信頼し、説明の機会を放棄したことをもって、Xに説明義務違反による被害を転嫁することは相当とはいえない。また、Yは、Xが設計士に相談中であったことをもって、Yに責任がないという趣旨の主張をする。

     しかし、Xが、Eをして、契約日前日に、わざわざ、売買契約書及び重要事項説明書を事前に説明させていることに照らしても、Xは、設計士からのアドバイスと併存的に、宅建業者からの説明を希望していたというべきであり、Xが設計士に相談中であったことは、Yの説明義務を左右しない。」

     したがって、「Yには、本件売買契約に付随する説明義務に違反した債務不履行がある」と述べられ、Xの責任が認められました。

    4.売主が別の宅建業者に仲介業務を委託したり、あるいは、複数の宅建業者が仲介業務を行う場合には、重要事項説明をほかの宅建業者に任せっきりにしてしまうことも、ないとはいえません。しかし、購入者との関係では、どの業者にも重要事項説明の義務があります。たとえ、直接の委託を受けていない当事者であっても、宅建業者には、その介入を信頼して取引関係に入った第三者に対して責任があるというのも、確定した判例法理です(最高裁昭和36年5月26日判決)。複数の宅建業者が関与する取引であっても、すべての宅建業者に専門家としての責任があることを、改めて確認していただきたいと思います。

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