法律相談

月刊不動産2013年5月号掲載

土地区画整理事業における賦課金の瑕疵への該当性

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

土地区画整理事業の施行地区内の土地を購入しました。売買契約当時、具体的に賦課金の予定はありませんでしたが、その後賦課金が課されることになってしまいました。このような事情は、売買契約における土地の瑕疵に該当しないでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.回答
     売買契約当時、賦課金の具体的な予定がなかったのですから、賦課金が課されることは、売買契約における土地の瑕疵に該当しません。

    2.最高裁平成25年3月判決

    ①事案の概要と高裁の判断

     土地区画整理事業の施行地区内の土地を売買により取得した買主が、売買後に土地区画整理組合から賦課金を課されたため損害を被ったと主張して、売主に対し、瑕疵担保責任に基づく賦課金相当額の損害賠償等を求めた事案に対する最高裁の判断が、公表されています(最高裁平成25 年3月22 日判決(以下、「最高裁平成25 年3月判決」という。裁判所ウェブサイト)。原審の広島高裁は、瑕疵を認め、売主の責任を肯定していましたが(裁判所ウェブサイト)、最高裁はこれを覆し、瑕疵にはあたらないとして、売主の責任を否定しました。

     事案の概要は次のとおりです。

    (1)X1~X6は、土地区画整理事業の施行地区内の土地3筆を、平成9年4月から平成10 年9月までの間に、Y1~Y3から、売買により購入した(購入金額は、土地1が2,400 万円、土地2が2,250 万円、土地3が1,415 万円)。売買の当時、各土地は、B土地区画整理組合(B組合)が施行する土地区画整理事業の施行地区内に存しており、仮換地の指定を受けていたが、賦課金徴収の予定はなかった。

    (2)B組合は、平成10 年10 月から保留地の分譲を開始したところ、販売状況が芳しくなかった。そこでB組合は、平成13 年11 月28 日、事業に要する経費に充てるため、総額24 億円の賦課金を組合員に課する旨を総代会において決議し、さらに、平成14 年1月、上記総代会の日においてB組合の組合員である者を賦課対象者とすることなどを内容とする賦課金徴収細則を定める旨を総代会において決議した。

    (3)X1~X6は各土地を取得したことによりB組合の組合員となっていたことから、B組合は、平成14年11 月29 日付け賦課金額通知書を送付して、X1~X6に対して、一人当たり46 万円から276 万円の賦課金を請求した。

    (4)X1~X6は、この賦課金が瑕疵による損害であるとして、Y1~Y3に対して、損害賠償を請求した。

    (5)原審の広島高裁は、賦課金が発生する可能性は、売買の当時、抽象的な域を超え具体性を帯びていたといえる状況にあり、それが平成13 年以降に具体化したのだからであって、賦課金が多額であることを考慮すると、売買の当時、賦課金が発生する可能性が存在していたことをもって、土地には瑕疵があると解するのが相当であるとして、損害賠償請求を認めたが、最高裁はこの判断を覆した。

    ②最高裁の判断

    『B組合が組合員に賦課金を課する旨決議するに至ったのは、保留地の分譲が芳しくなかったためであるところ、本件各売買の当時は、保留地の分譲はまだ開始されていなかったのであり、B組合において組合員に賦課金を課することが具体的に予定されていたことは全くうかがわれない。そうすると、上記決議が本件各売買から数年も経過した後にされたことも併せ考慮すると、本件各売買の当時においては、賦課金を課される可能性が具体性を帯びていたとはいえず、その可能性は飽くまで一般的・抽象的なものにとどまっていたことは明らかである。

     そして、土地区画整理法の規定によれば、土地区画整理組合が施行する土地区画整理事業の施行地区内の土地について所有権を取得した者は、全てその組合の組合員とされるところ(同法25 条1項)、土地区画整理組合は、その事業に要する経費に充てるため、組合員に賦課金を課することができるとされているのであって(同法40 条1項)、上記土地の売買においては、買主が売買後に土地区画整理組合から賦課金を課される一般的・抽象的可能性は、常に存在しているものである。

     したがって、本件各売買の当時、賦課金を課される可能性が存在していたことをもって、本件各土地が本件各売買において予定されていた品質・性能を欠いていたということはできず、本件各土地に民法570 条にいう瑕疵があるということはできない。』

    3.まとめ
     法令上の制限が売買対象となる土地の瑕疵となることは、確立した判例法理です(最高裁昭和56 年9月8日、判タ453 号70 頁)。土地区画整理事業における賦課金が、土地の瑕疵となるか否かは、状況に応じて判断しなければならないことになりますが、今般の最高裁の判決は、不動産取引においても、重要な先例的価値をもつものということができます。

page top
閉じる