法律相談

月刊不動産2011年11月号掲載

名義貸し

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

宅建業者が、他人にその名義を貸して事業を行わせ、利益を分配する契約は、有効でしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.他人に名義を貸して事業を行わせ、利益を分配する契約は、無効です。

    2.宅建業者は、名義貸しを行ってはなりません(宅建業法13条1項)。以下、宅建業法の条文だけを掲げる。

     名義貸しとは、免許を受けた者が、その免許名義を他人に貸与する行為です。事前に承諾する場合だけではなく、事後に承諾を与える行為も名義貸しになります。名義貸しの方法は、書面によるもの、口頭によるものを問いませんし、貸与が継続的なケースはもちろん、一時的、一回的な貸与も禁止されます。

     名義貸しの禁止に違反すると、指示、業務停止の処分を受け、情状が特に重いときは、免許取消しの処分を受けることもあります(65条1項・3項・2項2号・4項2号、66条1項9号)。

     さらに刑事罰が科されることもあり、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれらの併科とされています(同法79条)。

    3.最近、名義貸しの禁止に関する高裁判決が公表されました(名古屋高裁平成23年1月21日判決)。

     宅建業者XがYに名義を貸与した上で、X名義のYによる取引業務について、Yが経費を負担した上で営業利益の80%を取得、Xが残り20%の配分を受けるという合意がなされたケースです。Xが、Yに対して、合意に基づく利益分配金を請求しましたが、最高裁は、次のとおり述べてXの請求を認めませんでした。

     『宅建業法13条の名義貸しの禁止の規定は行政取締法規の性質を有するものと解されるけれども、同法は、宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施し(3条)、その事業に対し必要な規制を行うことにより、その業務の適正な運営と宅地及び建物の取引の公正とを確保するとともに、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、もって購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ることを目的として(1条)、免許を受けない者が宅地建物取引業を営むことを禁止し(12条)、
    また、自己の名義をもって、他人に宅地建物取引業を営ませること等の名義貸しを禁止し(13条)ており、12条1項の無免許事業の禁止の違反に対しては刑事罰を設け(79条)、13条1項の名義貸しの禁止の規定の違反に対しても業務停止や免許取消し等の行政処分(65条、66条)にとどまらず、刑事罰(79条)を設けるなど、その実効性確保のための厳しい制裁規定を置いていること、同法がこのような規定を定めた背景としては、宅地建物の取引は、住居や事業活動の場など国民の生活や産業の根幹にかかわる重要な取引分野である上、
    その取引は一般に高額な取引となることが多く、これを巡る事実的、法律的な紛争の危険性も少なくないことから、免許を取得した者にのみ宅地建物取引業を営ませてこれらの取引を円滑に行わせることにより、購入者らの利益を保護する必要性が高いこと等の事情があると解されること、これらの諸点に鑑みると、13条の名義貸しの禁止の規定に違反する合意は、同法が宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施した上趣旨目的を潜脱してその実現を妨げ、実質的に無免許による取引業者の営業を可能にし、
    宅地建物の購入者らの円滑で安全な取引を阻害する危険を生じさせるものであって、相当強度の違法性を帯びた合意というべきであり、その私法上の効力としても、公権力をもって実現することを許容するのは相当ではなく、したがって、これを裁判上行使することが許されない性質のものというべきである。

     そうすると、XとY間において合意された名義貸しの禁止規定に違反する合意の一部をなしている本件の利益分配金に係る合意も、これを裁判上行使することは許されないといわなければならない。

     Xは、Yとの間で合意をしたのは、Yが苦境にあることに配慮し、同人の更生等に協力するとの事情によるものであって、その合意内容にも不当なものは含まれておらず、また13条を潜脱するなどの不法な動機によるものでもないとして、Yが合意の無効を主張するのは信義誠実の原則に違反して許されない旨を主張するが、13条の名義貸し禁止の規定が保護を図っている法益は、合意の当事者間の個人的な関係や事情によって左右されるべき性質のものではなく、また、その合意の実態は、13条の名義貸し禁止の規定に抵触するものであることは明らかであるから、Xの主張は採用することができない』

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