税務相談
月刊不動産2008年9月号掲載
保証債務の履行に係る譲渡所得の特例について
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
個人が保証債務を履行するために不動産を譲渡した場合の譲渡所得の特例について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1. 保証債務の履行
保証債務の履行とは、主たる債務者が債務を弁済しないときに、保証人が代わりに債務を弁済することをいいます。具体的には次のような場合が該当します。
(1) 保証人として主債務者の債務を弁済した場合
(2) 連帯債務者として他の債務者の債務を弁済した場合
(3) 他人の債務を担保するため抵当権等を設定した人が債務を弁済したり抵当権を実行された場合
2. 特例の概要
(1) 保証債務の履行に係る譲渡所得の特例
保証債務の履行に係る譲渡所得の特例とは、個人が保証債務を履行するために不動産その他の資産を譲渡した場合で、保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときには、求償権の行使不能額等について譲渡所得の金額の計算上なかったものとみなされるというものです。
(2) 適用を受けるための要件
不動産の譲渡の際に、この特例を受けるには、次の3つの要件すべてに当てはまることが必要です。
①不動産を譲渡する時点で、保証債務契約が有効に成立していること。
「保証債務の履行のために不動産を譲渡する」場合の特例ですから、資産を譲渡する以前に保証人が金融機関と保証債務契約を結んでいることが前提となります。
②保証債務の履行義務の発生後、資産の譲渡により保証債務を履行したこと。
保証人による保証債務の履行義務は、主たる債務者が返済期限までに債務を返済しない場合に、債権者(金融機関)から保証人に対し保証債務の履行請求を受けて初めて発生します。したがって、保証人が金融機関からの請求前に債務の返済をすると、「保証人から主たる債務者が借入れをして債務を返済した」とみなされ、保証債務の特例が適用されません。
また、不動産の譲渡と保証債務の履行との間には、明確な因果関係が必要です。例えば、保証人が自己の預貯金で保証債務の履行をした後で不動産の譲渡をしたような場合には、不動産の譲渡と保証債務の履行との間に因果関係がありませんので、保証債務の特例の適用はありません。
③保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこと。
保証人が②の不動産の譲渡をして債務の返済をした場合、主たる債務者に対し「あなたの代わりに債務を返済したから、私が返済した金額を払ってくれ」という権利が生じます。これを「求償権」といいます。
保証債務の特例は、保証人が主たる債務者に対し求償権を行使することを前提とし、求償権の行使ができない場合に適用がある制度です。したがって、最初から主たる債務者に対する求償を前提としていないときには、特例の対象外とされます。例えば、主たる債務者に返済資力がないため求償権の行使ができないことを知りながら、あえて債務保証をしたような場合には、この条件に該当しません。
また、「保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこと」とは、主たる債務者が倒産等により事業を廃止した場合や、債務超過の状態が相当期間継続し、衰微した事業を再建する見通しがないこと等により、求償権の行使ができないことが確実となった場合をいいます。したがって、主たる債務者に返済能力がある場合には、保証人は求償権を行使できるわけですから、この特例の適用はありません。
(3) 所得がなかったものとする部分の金額
譲渡所得の計算上、所得がなかったものとする部分の金額は、次①~③のうち一番低い金額となります。
①肩代わりをした債務のうち、回収できなくなった金額
②保証債務を履行した人のその年の総所得金額等の合計額
③譲渡した不動産の譲渡益の額
(4) 申告要件
この特例を受けるためには、所定の事項を記載した書類を添付の上、確定申告をすることが必要です。