法律相談

月刊不動産2007年11月号掲載

住宅瑕疵担保履行法

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

住宅の瑕疵担保について、新しい法律ができたと聞きました。どのような法律なのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 平成19年5月、住宅瑕疵担保履行法(特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律)が成立、公布されました。

     この法律は、瑕疵担保責任が確実に履行されるように、新築住宅の売主などに対し、保証金供託又は保険加入を義務づける法律です。

    2. さて業法上、瑕疵担保責任は引渡日から2年以内に制限できるので(業法40条1項、2項)、業者が売主となる売買契約には、通常、瑕疵担保責任を2年とする特約条項がつけられています。

     しかし一般市民にとって、住宅は生活の基盤であり、たいへんに高価な買物です。住宅の基本的な構造部分についてまで瑕疵担保責任を2年に限定するのは、あまりにも短すぎるのではないかと考えられるようになりました。そのため、平成12年4月に施行された品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)により、新築住宅の売主は、建物の基本的構造部分については、10年間瑕疵担保責任を負うこととされました(品確法88条1項)。この定めは強行法規であって、これと異なる特約には効力がありませんから(同条2項)、住宅の購入者には、引渡しから10年間瑕疵担保責任を追及する法律上の権利が保障されます。

    3. もっとも法律上の権利があることと、実際に保護を受けることとは、別の問題です。購入者に法律上の権利があっても、売主に資力がなければ、権利は絵に描いた餅であり、購入者は実際の保護を受けられません。平成17年11月に発覚した耐震強度偽装事件では、この問題が現実化してしまいました。

     すなわちこの事件では、偽装された構造計算に基づいて建築されたマンションが販売されました。建物の基本的構造部分に瑕疵がある以上、購入者は、売主に対し、品確法に基づく瑕疵担保責任を追及することが可能です。しかし事件により事業を継続できなくなったマンションの売主は、事件発覚後まもなく倒産に至り、そのために多くの購入者にとって、品確法に基づく権利をもちながら、実質的な保護を受けられないということとなってしまいました。

     このような状況が不動産業に対する社会的な信頼を揺るがすものであることは、論を待ちません。耐震強度偽装事件をきっかけに、建物の安全確保と住宅の購入者保護のための様々な対策が講じられましたが、住宅に関する瑕疵担保責任が確実に履行されるようにすることは、制度改革のひとつの眼目とされ、今般の住宅瑕疵担保履行法の制定に至ったわけです。

    4. 住宅瑕疵担保履行法の下では、新築住宅の売主は、瑕疵担保責任の履行を確保するために、①保証金を供託、あるいは、②保険に加入しなければなりません。①の保証金供託は、業者の供給戸数に応じて、供託所に保証金を積み立てさせ、業者が倒産したときなどに、積み立てられた供託金から購入者の損失を補填させる制度です(住宅瑕疵担保履行法11条1項、14条1項)。

     供託すべき保証金の額は、毎年3月31日と9月30日を基準日として、その基準日前の10年間に供給した住宅の戸数によって決められます。例えば、供給戸数が10戸から50戸の場合、3,800万円から7,000万円、500戸から1,000戸の場合、1億4,000万円から1億8,000万円、5万戸から10万戸の場合、11億4,000万円から18億9,000万円、とされています。

     ②の保険加入の制度は、業者が新たに創設される住宅瑕疵担保責任保険法人との間で保険契約を締結し、業者が倒産したときなどには、この法人から購入者に直接保険金が支払われることとするものです(住宅瑕疵担保履行法11条2項、17条)。保険料は1戸当たり5万円から10万円程度、保険の種類は掛け捨てになるものとみられています。

     売主は、保証金を供託し、あるいは保険に加入しなければ、新築住宅の売買契約を締結することができません(住宅瑕疵担保履行法13条)。

    5. 住宅瑕疵担保履行法は、保証金供託や保険加入の部分については、公布の日から2年6か月以内、指定保険法人の部分については公布の日から1年以内に施行されることになっています(住宅瑕疵担保履行法附則
    1条)。

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