税務相談
月刊不動産2015年5月号掲載
事業用建物の建て替え工事完了前に相続が開始した場合の小規模宅地特例の取扱い
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
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事業用建物の建て替え工事完了前に相続が開始した場合の、その敷地に係る相続税の小規模宅地特例の取扱いについて教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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宅地等にある事業用建物が相続開始直前において建て替え工事中であっても、一定の要件に該当する場合は、その宅地等は事業用宅地等として相続税の小規模宅地特例の対象となります。
1.小規模宅地特例の概要
小規模宅地等に係る相続税の特例(以下、「小規模宅地特例」といいます。)とは、被相続人等が居住用として使用していた自宅敷地(居住用宅地)、店舗の敷地(事業用宅地)、貸アパートの敷地(貸付事業用宅地)などの宅地等を、被相続人の親族が相続又は遺贈(以下、「相続等」といいます。)により取得する場合、一定の要件の下で、これら宅地の評価額を相続税の課税対象から減額できる制度をいいます。
2.被相続人の事業の用に供されていた宅地等に係る特例
被相続人の不動産貸付業等以外の事業(以下、「事業」といいます。)に使用されていた宅地等のうち、特定事業用宅地等に該当するものについては、被相続人に係る相続税の課税価格の計算上、地積400㎡まで、その評価額の80%相当額が減額されます(租税特別措置法69条の4第1項、第2項)。
この場合、「特定事業用宅地等」とは、次の要件を全て満たす宅地等をいいます(租税特別措置法69条の4第3項第1号)。
(1)その宅地等を相続等により取得した被相続人の親族が、その宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその事業を営んでいること。
(2)その宅地等を相続等により取得した被相続人の親族が、その宅地等を相続税の申告期限まで所有していること。
3.事業用建物の建築中に相続が開始した場合に、その敷地が「被相続人の事業に使用されていた宅地等」に該当するかどうかの判定方法
被相続人が所有していた宅地等が、「被相続人が事業に使用していた宅地等」に該当するかどうかについては、相続開始の直前において当該宅地等が被相続人により現実に事業に使用されていたか否かという観点から判断するのが原則です。このため、「相続開始直前において建て替え工事が行われていた被相続人所有の建物の敷地は、事業に使用されていた宅地等に該当せず、特定事業用宅地等に係る小規模宅地特例の適用を受けられないのではないか」という疑問が生じます。
しかし、被相続人の事業に使用されていた建物の建て替え工事中に相続が開始した場合に、被相続人の事業に使用されていた宅地等であるかどうかの判定を、単に相続開始直前において被相続人の事業に使用されているかどうかのみで行うことは、事業の継続性に配慮して設けられている小規模宅地等の特例の趣旨からみて、実情にそぐわないことも考えられます。
そこで、国税庁は「租税特別措置法通達69の4-5」を発遣し、被相続人の事業に使用されていた建物の建て替えのため、その建物を取り壊し、その建物に代わる建物(被相続人又は被相続人の親族の所有に係るものに限る。)の建築中に相続が開始した場合であっても、相続開始直前におけるその建物に係る事業の準備行為の状況からみて、被相続人がその建物を速やかに事業に使用することが確実であったと認められるときは、その建物の敷地として使用されていた宅地等は、事業用宅地等に該当するとの見解を示しています。
なお、同通達では、「被相続人がその建物を速やかに事業に使用することが確実であったと認められるとき」の具体例として、相続税の申告期限までに、前述2.の「特定事業用宅地等」の要件に該当する被相続人の親族が、建築中の建物を事業に使用しているケースを挙げています。
4.相続税の申告期限までに、被相続人の親族が建築中の建物を事業用として使用していない場合の取扱い
相続税の申告期限までに、前述3.に該当する被相続人の親族が建築中の建物を事業に使用していない場合であっても、事業に使用していない理由が次に掲げる事情により、やむを得ず建物の完成が遅延していることによるものであるときは、その建物の完成後、すみやかに事業に使用されることが周囲の状況からみて確実であると客観的に認められるときに限り、その建物の敷地である宅地等は、小規模宅地特例の適用のある事業用宅地等に該当するものとして取扱われます(租税特別措置法通達69の4-5逐条解説)。
(1)建築中の建物の規模からみて、建築工事に相当の期間を要すること。
(2)法令の規制等により、建築工事が遅延していること。
(3)(1)又は(2)に準じる特別な事情があること。
【ポイント】
● 被相続人所有の事業用宅地等で一定のもの(特定事業用宅地等)をその親族が相続等した場合は、被相続人に係る相続税の計算上、地積400㎡まで、その評価額の80%相当額が減額されます。
● 被相続人所有の宅地等が事業用宅地等に該当するかどうかは、原則、相続開始直前にその宅地等が被相続人の事業に使用されていたかどうかで判断されます。
● 宅地等にある事業用建物が相続開始直前において建て替え工事中の場合は、その建物を事業に使用していないことから、その宅地等は原則として事業用宅地等には該当しません。
● ただし、その宅地等を相続等した被相続人の親族が、相続税の申告期限までにその建物を事業に使用した等の場合は、その敷地である宅地等は事業用宅地等に該当するものとされます。