税務相談
月刊不動産2013年8月号掲載
事業用建物の家賃に係る消費税率引上げの経過措置(5%税率が適用される場合)
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
事業用建物の家賃に係る消費税率引上げの経過措置について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.消費税率引上げの適用時期と経過措置
平成26年4月1日以後に行われる消費税の課税取引に係る税率は、8%に引上げられます。
ただし、消費税の課税取引に係る契約が平成26年3月31日までに締結され、26年4月1日以後にその契約に係る商品等の引渡しやサービスの提供等が行われる場合に、引上げ後の8%税率を適用すると、事務処理が煩雑になり、商取引に支障を来たすおそれもあります。このため、課税取引のうち一定のものは、引上げ前の税率(5%)を適用する経過措置が設けられています。
今回はこの経過措置規定のうち、消費税の課税取引に該当する店舗事務所など事業用建物の家賃に関する取扱いについて解説します。
2.事業用の賃貸建物の家賃に係る消費税率の特例
(1)5%税率が適用される場合
事業者が、平成25年9月30日までの間に締結した建物の賃貸借契約に基づき、平成26年4月1日前から平成26年4月1日以後にかけて、引き続きその契約に係る建物の賃貸を行っている場合において、その契約の内容が次の①または②に該当するときは、平成26年4月1日以後の家賃に係る消費税については、5%税率が適用されます。
①次の2つの要件を満たすこと。
イ. その契約に係る建物の賃貸期間とその期間中の家賃が定められていること。
なお、建物の賃貸借契約上、借主が支払う消費税相当分につき「消費税率の改正があったときは改正後の税率による」旨の規定がある場合、その規定は「家賃の額の変更を求めることができる旨の定め」には該当しません。ロ. 事業者が事情の変更その他の理由により、その家賃の変更を求めることができる旨の定めがないこと。
②次の3つの要件を満たすこと。
イ. その契約に係る建物の賃貸期間とその期間中の家賃が定められていること。
ロ. 契約期間中に当事者の一方または双方がいつでも解約の申入れをすることができる旨の定めがないこと。
ハ. 契約期間中に支払われる家賃の額の合計額がその建物の取得に要した費用の額及び付随費用の額(利子または保険料の額を含む。)の合計額の90%以上であるように契約において定められていること。
(2)平成25年10月1日以後に家賃の変更が行われた場合
①原則
平成25年10月1日以後に家賃の変更が行われた場合は、(1)の経過措置の対象外とされ、8%税率が適用されます。
②特例(5%税率が適用される場合)
その家賃の変更が、借主が修繕義務を履行しないことにより行われたものであるなど正当な理由に基づくものである場合は、その家賃の変更後も引き続き、5%税率が適用されます。
(3)書面による通知
前述(1)の経過措置の適用を受けた事業者は、その相手方に対し、その建物の賃貸が(1)の経過措置の適用を受けたものであることにつき請求書等にその旨を表示するなどして、書面により通知する必要があります。
(4)事例による(1)の経過措置の解説
例えば、平成25年9月1日に賃貸期間3年、賃貸期間中の家賃月額50万円、家賃の変更は認めない旨の特約を定めた店舗の賃貸借契約を締結し、同日から賃貸を開始した場合は、平成25年9月30日までに貸付けの期間とその期間中の賃貸料を定めた契約を締結し、かつ、その契約で賃貸料の変更を認めないと定めているので、前述(1)①より賃貸期間中は5%税率が適用されます。仮にその契約において中途解約が認められていたとしても、(1)①の要件を満たすことから、経過措置の適用があります。
この場合において、中途解約を認めない旨の特約を定める等、前述(1)②の要件を満たす賃貸借契約を締結したときは、仮にその契約において家賃の変更が認められていたとしても、賃貸期間中は5%税率が適用されます。
ただし、平成25年10月1日以後に家賃の変更が行われた場合は、変更後の家賃の全額が経過措置の対象外となり、8%税率が適用されます。