法律相談

月刊不動産2015年12月号掲載

ローン条項

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

 ローン条項(ローン特約)を付けて賃貸アパートを売却しましたが、買主から、金融機関で融資が承認されなかったとして、契約解除の通知がきました。融資が承認されなかったのは、買主が、契約前に金融機関から示されていた条件による融資の申込みをしなかったことがその理由でした。解除の通知は、有効なのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

     解除の通知に効力はありません。売買契約におけるローン条項は、買主があらかじめ示されていた融資条件に沿った融資申込みをしたにもかかわらず融資の承認が得られなかった場合に限って適用されるからです。

  • ローン条項について

     不動産を購入するにあたっては、金融機関のローンを利用することが一般的ですが、金融機関の審査によりローンが承認されないと、購入者は代金を支払うことができません。しかしローンの審査が通らなかったために購入者が債務不履行の責任を負うことになるのは、不当です。ローン審査がおりないと重い責任を負わされる、という不安がつきまとうならば、購入意欲がそがれることにもなります。そこで購入者がローンを利用する場合には、多くの場合に、ローン条項(ローン特約)が定められています。金融機関からローンの承認を得られなかった場合には、購入者が損害賠償などの不利益を負うことなく、契約解除によって契約を終了させることができるというのがローン条項です。

     もっとも、ローン条項を付けて売買契約を締結したときは、買主は誠実にローンの申込みをしなければなりません。買主があらかじめ予定されていたとおりの手続きを行わなかったために融資を得られなかった場合には、契約を解除することはできません。

  • ローン条項の有効性が問われた事案の概要

     東京地判平成26.4.18(出典:ウエストロー・ジャパン)は、買主が誠実にローンの申込みをしなかったために、ローン解除が否定されたケースです。事案は次のとおりでした(図表)。

     (ⅰ)売主Xと買主Yは、平成25年2月19日、売買代金2,200万円、契約解除の場合の違約金440万円として、K社の媒介により、宅地(90.34m2)および2階建てアパート(1階、2階各39.69m2)の売買契約を締結した。同日、YからXに対して、手付金100万円が支払われている。

     (ⅱ)この売買契約には、「Yは,本件売買契約締結後速やかに,融資のために必要な書類を備え,その申込みをしなければならない。融資未承認の場合の契約解除期限(平成25年3月12日)までに融資の全部又は一部について承認を得られないとき,又は金融機関の審査中に同期限が経過した場合には,Yは本件売買契約を解除することができる。本件売買契約が解除された場合,Xは,受領済みの金員を無利息で遅滞なくYに返還しなければならない」とのローン条項が定められていた。

     (ⅲ)Yは契約に先だって、あらかじめM社(金融機関)と打合せを行い、別のアパートを共同担保に供することを条件として、売買契約の後に、ローンの手続きを行うこととしていた。しかしながら、Yは、共同担保を提供することなくM社にローンの申込みをしたために、ローンの承認を得られなかった。

     (iv)Yは、ローン条項に基づき、平成25年3月7日に契約解除の通知を行ったが、Xが解除の効力を認めないので、Yは手付金100万円の返還を求めて訴えを提起した。

     これに対し、XはYに対し、同年4月9日に契約を債務不履行に基づき解除したうえ、違約金340万円(440万円から手付金として受領していた100万円を差し引いた額)の支払いを求めて訴えを提起した。

  • 裁判所が下した判断

     裁判所は、次のとおり判示して、ローン解除の効力を否定してYの手付金返還請求を認めず、他方、Xからの契約解除を肯定して、違約金の支払いを認めました。

     『いわゆるローン条項は,買主において,金融機関から融資が受けられず,そのために残代金を支払うことができなかった場合でも,手付金の放棄や違約金の負担をすることなく買主が売買契約を白紙解除することができるという,買主を保護するための条項であって,一般にこのような条項が売買契約に付される場合,売買契約の締結に先立ち買主側で金融機関に事前相談を行い,融資の見通しを示された上で売買契約を締結し,この見通しに沿って融資の申込みを行うことが予定されていることからすると,ローン条項が適用される融資の申込みとは,金融機関から示された見通しに沿った内容での申込みと解するのが,売主及び買主双方の通常の意思にかなうものである。本件においても,YはK社を通じて本件金融機関に事前相談を行い,本件金融機関から示された本件融資条件の内容を認識した上で本件売買契約を締結しているのであるから,本件ローン条項は,Yが所定の期間内に本件融資条件に沿った融資申込みをしたにもかかわらず融資の承認が得られなかった場合に適用されるものと解するのが相当である。以上によれば,Yは,本件融資条件に沿った融資の申込みをしたということはできないから,本件ローン条項に基づく売買契約解除の要件を満たしていないことになる』。

  • Point

    • ローン条項とは、金融機関からローンの承認を得られなかった場合には、買主が損害賠償などの不利益を負うことなく、契約解除によって契約を終了させることができるものとする特約です。
    • ローン条項付き売買契約を締結したときは、買主は誠実にローンの申込みをしなければなりません。
    • 買主が予定されていたとおりの手続きを行わなかったために融資を得られなかった場合には、ローン条項に基づく契約解除はできません。
    • 東京地判平成26.4.18では、買主は、融資条件に沿った融資の申込みをしていないとして、契約解除の効力が否定されています。
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