法律相談
月刊不動産2015年3月号掲載
ローン条項の説明および助言に関する仲介会社の説明義務
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
戸建住宅の購入の際、ローン条項を付けていましたが、ローン手続きをしないまま期限が過ぎてしまい、結局手付放棄により契約を終了することになりました。仲介会社からは手続きをすべき時期について適切な説明は受けていません。仲介会社に損害賠償の請求をできるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1. 回答
仲介会社には、ローン条項について依頼者に説明し、その取扱いについて、適切な助言をする義務があります。仲介会社がこの説明および助言の義務に違反し、そのために損害を被ったのであれば、損害賠償を請求することができます。
2. ローン条項
住宅の売買契約では、多くの場合に金融機関からの住宅ローン融資によって、売買代金が支払われます。住宅ローンで売買代金を支払う計画を立てて売買契約を締結したにもかかわらず、金融機関からの借入れができないと、買主は購入資金を得ることができず、大変に困ったことになってしまいます。
そこで住宅ローンを借りて住宅を購入するときは、ローン条項が付けられるのが通例です。ローン条項とは、買主が住宅ローンを借りられなかったときには、違約金などの負担をすることなく、手付金が返還され、無条件で契約を解除することができるという特約です。
ところで、ローンの手続きやローン条項は、複雑にして専門的であり、一般消費者にとって、容易に取り扱うことはできません。仲介会社には、ローンに関して、説明や助言が求められることが多く、仲介契約の内容によっては、説明や助言が、法的な義務となります。
東京地裁平成24年11月7日判決(ウエストロー・ジャパン)では、仲介会社の説明および助言に関する義務違反が肯定されました。
3. 事案
Xは、平成20年9月7日、S不動産販売の仲介によって、Aから、神奈川県茅ヶ崎市所在の土地および土地上の建物(本件物件)を、代金4,500万円として、手付金225万円を支払ったうえで、買い受けました(本件売買契約)。「Xは、本件売買契約締結後、金融機関に対して住宅ローンの借入れの申込みをし、その全部又は一部につき同年10月2日までに借入れを受けられないときは、同月13日までの間、本件売買契約を解除することができ、Aから、無利息で既払金の返還を受けることができる」(本件住宅ローン特約)とのローン条項が付されていました(この期日を過ぎると、ローン条項に基づく解除権を行使することができなくなる)。
4. 裁判所の判断
「本件媒介契約に係る契約書には、S不動産販売が行う業務として、登記、決済手続等の目的物件の引渡しに係る事務の補助を行う旨が記載されており、宅地建物取引業者に対して不動産の購入の媒介を依頼する顧客としても、住宅ローンを利用して不動産の購入代金を支払う場合には、宅地建物取引業者としての専門的知識に基づき、住宅ローン利用のために必要な手続の補助を受けることを期待しているのが通常であって、実際にも、Xは、S不動産販売に借入先となる金融機関の紹介を依頼し、それまでXと取引のなかったB銀行の紹介を受け、S不動産販売の担当者は、Xに代わってB銀行の担当者と折衝し、事前審査相談票を提出するなど、住宅ローンの借入れに関する交渉窓口として行動していたものとみることができる。
そして、本件売買契約には平成20年10月13日を買主からの解除権行使の期限とする本件住宅ローン特約が付されていたのであるから、S不動産販売は、本件売買契約の締結後、住宅ローンの借入れができず、売買代金の決済が不可能となった場合に備えて、本件住宅ローン特約上の解除権を行使して、Xにおける損害の発生・拡大を防止する機会を確保するために、可能な限り借入れの可否についての判断が上記期限までに示されることを目指して、B銀行と交渉し、その結果を報告するなどして、借入れに必要な手続をXに促すなどの助言を与える義務を負っていたというべきである。ところが、本件売買契約締結後、B銀行に必要な手続・提出書類等を確認し、Xが速やかに借入れの申込みを行うよう助言を与えることは容易であり、それを行っていれば、B銀行から借入れができないことが上記期限までに判明し、Xは本件住宅ローン特約に基づく解除権を行使することが可能であったにもかかわらず、平成20年11月11日頃までの間、Xは借入れの申込みをしておらず、これはS不動産販売がB銀行との折衝の状況や必要な手続を正確に説明せず、必要な助言等も行っていないことに起因するものと認めることができ、本件媒介契約上の義務を怠ったものというべきである。
したがって、S不動産販売は、Xが本件住宅ローン特約により本件売買契約を解除する機会を失ったことにより生じた損害について賠償する責めを負うものというべきである」。