法律相談
月刊不動産2007年9月号掲載
クーリングオフ
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
私の勤務先に6日前に宅建業者の来訪があり、その業者を売主とする住宅購入について、執拗(しつよう)に勧誘を受けたために、その場で申込みをしてしまいました。クーリングオフによる申込みの撤回ができるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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申込場所がご質問者の勤務場所であり、かつ、申込日が6日前なので、クーリングオフによる申込みの撤回が可能です。仮に申込みの際、申込みを撤回できる旨及び申込み撤回方法の告知を受けていたとしても、その後8日を経過していませんから、クーリングオフの権利を行使することができます。
さていつの時代にも、様々な分野において、訪問販売や電話勧誘などを利用し、購入意思が確実ではないのに強引に商品を売りつける押付け商法が存在します。
宅地建物取引でも、かつて訪問販売や旅行先での販売など不安定な状況での取引が行われ、苦情や紛争が多発したことがありました。そのため昭和55年に宅建業法が改正され、クーリングオフの制度が導入されています。
クーリングオフの語源は、感情的な高ぶりを冷ますことを意味する「cooling-off」という英語です。一時的な感情で商品購入を申し込み、あるいは売買契約を締結したけれども、購入申込みや契約締結の状況が冷静な判断を行うには不適当な状況だったときには、購入後一定期間、買主・申込者から通知をすることによって、申込みの撤回や契約解除が認められます。これがクーリングオフの制度です(宅建業法37条の2第1項前段)。
クーリングオフの適用要件については、(イ)当事者、(ロ)取引場所、(ハ)適用の例外の3つを理解しておかなければなりません。
(イ)当事者については、業者自らが売主、業者以外の一般購入者が買主となる場合に、クーリングオフが適用されます。売主が業者ではない場合や、あるいは売主と買主のいずれも業者である場合には、適用はありません(78条2項)。
(ロ)取引の場所としては、申込みや契約が、業者の事務所等以外の場所においてなされた場合に適用があります。業者の事務所等以外の場所とは、申込者・買主の自宅や勤務先、旅行先や飲食店などです。
(ハ)適用の例外に関しては、クーリングオフが適用されない3つの例外が定められています。
第1番目の例外は、申込者・買主から申出があった場合です。自宅又は勤務場所で契約に関する説明を受ける旨を申し出た場合には適用除外となります(規則第16条の5第2号)。
第2番目の例外は、申込者・買主が、申込みの撤回等ができる旨及び申込みの撤回等を行う方法を告知された場合において、告知日から8日を経過したときです(37条の2第1号)。告知がなければ、8日の期間は開始せず、申込みや契約から8日を経過してもクーリングオフの権利行使が可能です。
第3番目の例外は、買主が、宅地又は建物の引渡しを受け、かつ、その代金の全部を支払ったときです(37条の2第2号)。売買契約が決済されて終了した場合にまで契約解除を認めるのは、取引の安全を害するので、例外とされています。
ところでクーリングオフの権利は、申込みの撤回や契約解除を通知することによって行使しますが、申込みの撤回や契約解除の通知は、書面によらなければなりません。契約解除・申込みの撤回は、書面を発した時に、その効力を生じます(37条の2第2項)。書面については、確実性や後日の紛争防止を考えれば、内容証明郵便を利用すべきでしょう。
申込者・買主がクーリングオフの権利を行使した場合、売主業者は損害賠償又は違約金の支払を請求することはできません(37条の2第1項後段)。申込みの撤回・契約解除が行われた場合、業者は、速やかに、手付
金などを返還しなければなりません(37条の2第3項)。クーリングオフに関する規定は強行規定です。法律の定めと異なる特約を付したとしても、特約が買主・申込者に不利な内容であるときには、その特約は無効とされます(37条の2第4項)。
なおクーリングオフの趣旨を考えれば、クーリングオフの適用されないケースにおいても、業者は、購入意思の確実さを担保できる状況の下で、申込みや契約締結がなされるよう配慮しなければならないものということができます。