賃貸相談

月刊不動産2007年5月号掲載

火災警報器の設置と賃貸借契約

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

消防法の改正により、住宅用火災警報器の設置が義務付けられると聞きました。私は賃貸アパートを所有していますが、火災警報器を設置しなかった場合には損害賠償を受けたりすることはあるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.消防法の改正

     ご質問の消防法の改正とは、平成16年6月2日公布(平成18年6月1日施行)された改正消防法9条の2を指しているのだと思います。この改正により、すべての住宅に火災警報器の設置が義務付けられることになります。新築住宅については平成18年6月1日からですが、既存の住宅については各市町村等の条例により平成20年6月1日から平成23年6月1日までの間に設置義務化の日程が決定されていくことになります。

     これまで消防法は大規模火災の発生する度に議論がなされ、デパート、病院、ホテルなど不特定多数の人が出入りする建物についての規制が強化されてきました。このため、これらの建物における火災による死者は大幅に減少してきたといわれていますが、消防法はこれまで住宅については規制していませんでした。しかし、我が国では建物火災による死者は年間1,500名前後ですが、このうち住宅火災による死者が85~90%程度を占めるといわれています。しかも、そのほとんどが65歳以上の高齢者の方々であるといわれています。その理由の多くは逃げ遅れであって、火災警報器等により早期に火災の発生が認知できていれば、余裕をもった避難活動によって生命が救われた可能性があることが指摘されています。実際にも、火災警報器の設置されていなかった住宅の火災の場合には火災100件当たりの死者は約6.7人前後ですが、火災警報器の設置されていた住宅の火災の場合には死者は約2.2人との調査結果があり、火災警報器の設置によって死者は約3分の1に減少することが知られています。

     このような事情から、消防法が改正され、住宅建物に対しても火災警報器等の設置が義務付けられることになったものです。

    2.対象となる住宅と設置すべき機器

     今回の消防法の改正では、火災警報器等の設置は、戸建住宅、マンションやアパートなどの共同住宅、店舗併用住宅その他のすべての住宅がその対象とされています。改正の趣旨からすれば、すべての住宅への義務付
    けは当然ということになりますが、既にスプリンクラー等の設備が設けられているというような場合には住宅用火災警報器の設置が免除されることがあります。

     設置が義務付けられる火災警報器等とは、火災の発生を早期に感知し、警報する警報器設備で、次のいずれかの設置が義務付けられることになりました。

    (1)住宅用自動火災報知設備

     感知機、受信機と中継機器等から構成される警報設備

    (2)住宅用火災警報器

     感知と警報の部分が一体となった警報器で火災を感知した警報機器のみが音を出すタイプのもの

    (3)煙式警報器

     一般的なタイプのもので煙を感知することにより火災の発生を知らせるタイプのもの

    (4)熱式警報器

     熱を感知することにより火災の発生を知らせるタイプのもの

    3.賃貸住宅における火災警報器の設置

     従来から、火災による被害の拡大防止と住宅火災における死者数の減少という観点からは、住宅用火災警報器の設置は好ましいものと考えられてきましたが、既存の住宅に火災警報を設置することは義務付けられてはいませんでした。

     したがって、火災警報器を設置していない共同住宅の火災により多数の死者が出た場合であっても、具体的な法律の条文で火災警報器の設置を義務付けたものはないため、賃貸人が火災警報器を設置しなかったことを法的にとがめることができるのか、火災警報器を設置していないことが過失を基礎づける事実と判断できるのかについては議論のあるところでした。

     しかし、住宅火災における死者数が火災警報器の設置によって約3分の1に減少するという事実、消防法を改正して住宅用警報器の設置が新たに義務付けられたことからすると、住宅火災により死者が出た場合に、火災警報器を設置していれば死者数はもっと減少したのではないか、との観点からの責任追及は十分にあり得ると考えておく必要があると思います。

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