賃貸管理ビジネス

月刊不動産2023年1月号掲載

4つのタイプから考える、管理会社の経営戦略①

今井 基次(みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役)


Q

 先代から会社を引き継ぎ2年が経過しました。仲介事業は以前よりも売上げが減少しており、管理戸数は横ばいですが、800室管理しているおかげで雇用の維持もできています。
 ただ、長年勤めている古参の社員がいることで、安定している反面、なかなか新しいことにチャレンジする勢いがありません。
 社長の私がトップダウンで進めることもできないことはないのですが、なかなか古参の社員の腰も重く、動きが鈍い状況です。何かよい手立てがあれば教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     現在の自社のポジションを客観的に捉えて、どの方向に進むべきかを、まずは経営者が明確に決めてください。
    今いるポジションと向かうべき方向にズレが生じている場合には、会社のビジョンを明確に打ち出していく必要があります。
     自社でオリジナルブランドと商品作りを推進する場合と、外部のブランド(フランチャイズ)や商品を利用する方法があり、それぞれに特徴があります。自社の個性を見極めながら、進むべき方向を改めて考えてみましょう。

  • はじめに

     管理会社は、売上げのほとんどを管理料などのストック収入が占めるため、仲介事業とは収益モデルが異なり、経営が安定しやすいのが特徴です。その一方、従業員が安定思考に陥りやすいことと、バックヤード業務の比率が高いため、従業員の競争意識が弱くなる傾向があるのも事実です。人口減少により仲介の取り扱い件数が以前ほど伸びにくい市場で、ストック事業にウエイトを置くことは正しいでしょう。ただ、会社として目指すべき方向を明確にしなければ、本来は同じベクトルに向くべき従業員のリソースや意識も分散してしまいます。その結果、なかなか業績があがりにくいということが生じます。管理獲得は、全国的にも意識が向けられている昨今、どのような経営戦略でライバルの管理会社と戦うべきかを考えておかなければなりません。
     そこで、今自社がいる場所と目指すべき方向を、4つのタイプに分けて考えてみましょう。

  • A 独自ブランド構築タイプ(革新系)

     自社のリソースを活用して、フランチャイズや他社の仕組みに依存せず、自社独自ブランドを構築してライバルと差別化をするタイプ。自社での経験や組織知を活かし、独自の商品やサービスを創り出す能力にも優れています。自社でブランドや商品を構築するためには、経営者のリーダーシップが問われるのですが、それを支える右腕の存在が極めて重要となります。
     ベンチマークとされる企業であり、自ら作り出した商品をさらにBtoB向けに売り出し、事業の多角化が進められ、新たなるビジネスモデルを展開します。
    組織全体で共有する知識やノウハウ等。

  • B 他社ブランド活用タイプ(革新系)

     積極的に社外のベンチマークへ参加して、フランチャイズや他社のサービス・仕組みを積極的に活用するタイプ。自社にまだリソースがない場合は、お金を出してノウハウを得るこの方法は、とにかくスピードを重視したい場合には良いでしょう。先々、Aタイプを目指す場合でも、視野を広げ、さまざまなことを試すことができます。ただ、小さな商圏内では差別化は図れますが、少し商圏を広げてみた場合、同様のサービスやブランドを提供する会社とバッティングすることもあります。
     まずは従業員みずからが他社を知ることで自社の問題に気づくことができ、内的動機付けを与えるのにも良い機会となります。

  • C 独自ブランド保持タイプ(保守系)

     先代から引き継いだ看板を守りながら、独自の手法で業務に取り組むものの、外部との接点が少ないため成長スピードが上がらないタイプ。地域密着で長年営業をしているものの、なかなか思うように現状以上のやり方や新しいブランドを構築できないという悩みを抱えがちです。
     情報収集に関するアンテナが伸びていないことで、自社のポジションを把握できていないことが、このタイプには多いのではないのでしょうか。
     地域で長年ブランドを構築していた経験があるため、過去の成功事例に引っ張られやすいのですが、時代の変化を敏感に察知し、行動に移すことができれば機会損失を起こしにくくなります。

  • D 他社ブランド依存タイプ(保守系)

     フランチャイズなどに加盟しているものの、社内の行動力がイマイチ上がらず、新しいチャレンジを実行できないタイプ。情報を収集できる機会はあるものの、良い事例を社内で実行にうつすことができず、プロジェクトはいつも中途半端で終わってしまいがちです。成長意欲のある右腕や、大きな改善を遂行するスタッフが存在していないことも問題です。
     若手をプロジェクトリーダーにするなどの、思い切った行動を起こさない限り、なかなか保守的な現状を打破することはできません。

     4つのタイプをみて、今自社が築くべきタイプと、目指すべきタイプのイメージができたでしょうか。次回は、もう1つ重要な管理会社が目指すべきタイプ「量」と「質」について触れていきたいと思います。

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