法律相談

月刊不動産2017年6月号掲載

高齢者の不動産取引

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

 土地購入の仲介の依頼を受け、土地の所有者との間で売買契約を締結する準備を進めていますが、売主が高齢者で、正常な判断能力があるかどうか疑いがあります。成年後見の手続きがなされているかどうかを確かめるのには、どうすればよいでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 法務局で確認可能

     法務局から、登記事項証明書または登記されていないことの証明書の交付を受け、確かめることができます。

  • 2. 高齢者の不動産取引

     高齢化社会を迎え、不動産を売却して生活費にあてようとするなど、高齢者が当事者としてかかわる不動産取引が多くなっています。しかし、行為者の判断能力が低下している場合には、意思能力の制度または行為能力が制限される制度(成年被後見人・被保佐人・被補助人)によって、法律行為の効力が否定される可能性があります。

     まず、意思能力とは、法律行為の法的な結果や意味を弁識する能力のことです。たとえば、物を買えば物の自由な使用・処分ができるようになる代わりに代金を支払う義務が生ずること、所有物を売れば代金を得られる代わりに物の自由な使用や処分ができなくなることなどを理解することができる能力であり、一般には7歳から10歳程度の理解力とされています。

     意思能力の有無は、行為者について画一的に定まるのではなく、法律行為の性質、難易等に関する考慮をも加味した上、個別の契約ごとに判断されます。行為時において、当事者に意思能力が欠けていたと判断されると、契約は無効となります(大判明治38.5.11、民録11号706頁)。

  • 3. 行為能力が制限される制度

     意思能力の制度は、契約がなされた時点における判断能力を、個別具体的な状況によって検討する仕組みですが、個別の事情をいちいち考慮するのでは、本人保護は安定しませんし、また、取引の相手方に不測の不利益が及ぶことも考えられます。そこで、認知症、知的障害、精神障害などによって物事を判断する能力(事理弁識能力)が十分でない本人について、裁判所が画一的な基準によって事理弁識能力が低下していることを認定し、定型的に法律行為に制限を加える(行為能力を制限する)ために、成年被後見人・被保佐人・被補助人という3つの仕組み(以下、「後見等」という)を設けました。

    (1) 成年後見

     精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者について、家庭裁判所が審判を行い(民法7条・838条2号)、同時に本人を援助するために、成年後見人を選任します(同法8条・843条1項)。成年後見人は、本人(成年被後見人)を代理して契約などの法律行為をすることができます(同法859条)。

     後見の審判がなされている場合には、本人が自ら契約を行うことは想定されておらず、仮に本人が契約を締結してしまうと、その契約は、後日取り消されることになります(同法9条本文・120条1項)。

    (2) 保佐

     精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者について、家庭裁判所が審判を行い(同法11条・876条)、同時に本人を援助するために保佐人を選任します(同法12条・876条の2第1項)。保佐が開始されると、不動産売買などの重要な行為については、保佐人の同意が必要になります(同法13条1項)。

    (3) 補助

     精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者について、家庭裁判所が審判を行い(同法15条1項・876条の6)、同時に本人を援助するために補助人を選任します(同法16条・876条の7)。補助の制度は、たとえば軽度の認知症であって通常後見や保佐の審判は認められないものの、本人自らが財産管理について他人の助けを必要とすると判断したような場面で利用されることが想定されます。事理弁識能力が著しく劣っているわけではないので、補助開始の審判に際しては、本人の同意が必要です。補助の審判に際しては、申立てによって、補助人に、同意権や代理権が与えられます(同法17条1項・876条の9)。

  • 4. 高齢者の不動産取引への対応

     法定後見等については、後見等に関する登記がなされます(後見登記法4条)。法務局に申請すれば、登記事項証明書の交付を受けることができますから(同法10条1項)、後見等の審判がなされていることは、登記事項証明書によって、これを知ることができます。後見等の登記には、後見等の種別(同法4条1項1号)に加え、成年後見人等の氏名または名称、住所(同項3号)も記録されています。後見等の登記がない場合には、「登記されていないことの証明書」の交付を受けることができます。

    当事者の判断能力に疑いを感じさせるような事情があるときには、法務局からこれらの証明書を受けた上で、取引を進める必要があります。

    なお、これらの証明書の申請をすることができるのは、本人、その配偶者および四親等内の親族等であり、これらに該当する者は、自ら証明書の申請が可能です。また、代理人による申請も認められますので、宅建業者が委任を受けて証明書を取得することも可能です。

  • POINT

    • 高齢者が、取引を行うときに、法律行為の法的な結果や意味を弁識する能力を失っていれば、意思能力を欠いた法律行為として、契約は無効となる。
    • 画一的な基準によって事理を弁識する能力が低下していることを認定し、定型的に行為者を保護するための制度として、後見等の3つの仕組みがある。後見等の手続きがなされているときには、契約の効力が否定されることがある。
    • 後見等の手続きがなされているかどうかは、法務局の証明書を調べることによって、知ることができる。
    • 後見等の手続きに関する法務局の証明書は、宅建業者が親族等から委任を受けて、代理人として申請し、取り寄せることができる。
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