賃貸相談

月刊不動産2018年12月号掲載

賃貸人からの期間内解約の有効性

江口 正夫(海谷・江口・池田法律事務所 弁護士)


Q

 弊社では、45年前から賃貸マンションを経営しています。建物の老朽化が激しく、多少の補修をしたからといって空室が埋まるわけでもないので、どうせ費用をかけるのならば、この際、賃借人に退去を求め、建て替えを実現したいと考えています。一般に期間内解約条項は賃借人の権利として定められているものが多いように思いますが、弊社の使用している賃貸借契約書では、契約期間内の解約は賃借人だけではなく、賃貸人も3カ月の予告をもって解約ができる旨が定められています。賃借人は、この賃貸借契約書の内容を承認して署名・押印しているのですから、この規定に基づいて3カ月の予告をもって賃貸借契約を解約し、マンションの建て替えを実現したいと思っていますが、可能でしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

     賃貸借契約の当事者は、締結した賃貸借契約を遵守する義務がありますので、期間を定めた賃貸借契約の場合は、合意した賃貸借の期間内は解約できないのが原則です。しかし、当事者が期間内解約条項を設けて、契約期間内に解約する権利を留保したときは、民法618条の規定に基づき、期間内でも有効に解約することができます。民法618条の文言によると、賃貸人も期間内解約条項により解約する権利を留保していれば、契約期間内に賃貸借契約を解約できることになりますが、これについては、民法に対する特別法である借地借家法の強行規定として、賃貸人からする期間内解約についてだけ、2つの制限が付されています。1つは、民法上、建物賃貸借の期間内解約は3カ月の予告で可能ですが、賃貸人からの解約は6カ月の予告が必要であること、もう1つは、賃貸人からの解約については、借地借家法上の正当事由がなければ解約することはできないということです。したがって、本件の場合には、3カ月の予告ではなく6カ月の予告が必要であること、さらに賃貸人に借地借家法上の正当事由が認められない限り、有効に解約することはできないことになります。

  • 1.建物賃貸借契約における期間内解約の原則

     民法では、建物賃貸借契約を解約することができるか否かは、期間を定めない契約であるかと、期間を定めた契約であるかにより、異なった規律をしています。

     

    (1) 期間を定めない建物賃貸借の期間内解約

     民法は、当事者が賃貸借の期間を定めなかった場合の解約申入れについては、民法617条に以下の定めをしています。

     このように、民法では、期間を定めない建物賃貸借はいつでも解約の申入れができ、解約申入れの日から3カ月の経過をもって終了するとされていますので、3カ月の予告をもっていつでも解約することができることになります。しかも民法は、この期間内解約は「各当事者」ができる旨を定めていますので、民法上は、賃借人だけではなく、賃貸人も3カ月の予告をもって期間内解約ができるかのように読めます。

     

    (2) 期間を定めた建物賃貸借の期間内解約

     これに対し、期間を定めた賃貸借の期間内解約については民法618条に定められています。

     この規定の意味は少しわかりにくいかもしれませんが、当事者(賃貸人と賃借人)は、期間を定めた賃貸借契約を締結した場合でも、「その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したとき」は、前条の規定、すなわち、3カ月の予告をもって、いつでも賃貸借契約を解約できるということを意味します。「解約をする権利を留保」とは、期間内解約をすることができる旨を合意したという意味ですので、建物賃貸借契約書において、期間内解約条項を設けたときということになります。

     つまり、民法では、期間を定めた場合であっても、賃貸人と賃借人は、それぞれ期間内解約条項が設けられていれば、期間内解約をすることができるということで、この場合には前条(617条)が準用され、3カ月の予告をもって期間内解約をすることができると定めていることになります。この規定は、期間を定めた場合であっても、期間内解約条項があれば解約できるという意味ですから、期間を定めた場合でも期間内解約条項が定められていなければ、当事者は期間内解約をすることができないということになります。

  • 2.賃貸人からの期間内解約

     民法の規定からすれば、期間を定めた賃貸借契約であっても、期間内解約条項において、賃貸人も期間内に解約をすることができる旨を規定していれば、3カ月の予告をもって期間内解約ができるかのように読めます。

     しかし、賃貸人が期間内解約権を行使することについては、借地借家法において民法の特則が定められており、この特則は強行規定であることに留意する必要があります。1つは借地借家法2 7 条であり、賃貸人が建物賃貸借の解約を申し入れた場合には、建物の賃貸借は解約申入れの日から6カ月を経過することにより終了する旨が定められています。もう1つは、借地借家法28条であり、賃貸人による建物賃貸借の解約の申入れは正当事由がなければ、することができない旨が定められています。

     したがって、賃貸人による期間内解約は、期間内解約条項の文言どおりには効力を生じないことに注意が必要です。

  • Point

    • 期間を定めない建物賃貸借はいつでも解約の申入れができ、解約申入れ後3カ月を経過することにより終了するが、期間を定めた建物賃貸借の場合は、期間内解約条項が設けられていない限り、賃貸人も、賃借人も期間内解約をすることはできない。
    • 期間内解約の条項がある場合には、賃借人は、当該期間内解約条項に基づき賃貸借の解約が認められるが、賃貸人の場合には、借地借家法の強行規定により、期間内解約は制限されている。
    • 賃貸人による期間内解約は、借地借家法により、6カ月の予告をもってするものでなければ、効力を認められない。
    • 賃貸人による期間内解約は、借地借家法に定める正当事由が認められる場合でなければ、行うことができない。
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