税務相談

月刊不動産2010年3月号掲載

貸家の贈与があった場合の敷地の相続税評価について

情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)


Q

親から子に貸家の贈与があった場合の貸家敷地の相続税評価について教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.貸家建付地の相続税評価

    (1) 評価方法

     土地付き建物を所有している人が建物をほかに貸し付けている場合における、その建物の敷地のことを貸家建付地といいます。

     建物には借家人の有する敷地利用権(借家権)があり、敷地の処分や利用が制限されます。相続税や贈与税の計算上、貸家の敷地の評価については、土地所有者が自分で利用している土地(自用地)に比べて、借家人の有する敷地利用権相当額(自用地評価額×借地権割合×借家権割合)の引下げが行われます。具体的には、「貸家建付地評価額=自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)」の算式により貸家建付地の評価を行います。

     この算式中「借地権割合」は地域により異なるので、路線価図等により該当地の割合を確認する必要があります。「借家権割合」は一律30%となります。

    (2) 貸家に空室がある場合

     貸家が空いた場合には、その宅地の利用を制限する借家人がいなくなるため、相続税や贈与税の計算上は自用地評価額となります。貸家の一部に空室がある場合には、実際に賃貸している部分の割合のみを評価引下げの対象とします。貸家建付地の評価においては、(1)の算式のとおり賃貸割合を乗じて計算を行います。

    2.使用貸借により土地を借受けた場合の使用権の評価

    (1) 無償で借り受けた側の使用権評価

     建物の所有を目的として、無償による土地の借受け(使用貸借)をした場合には、有償で借り受ける場合とは異なり、その使用貸借に係る使用権の価額はゼロとされます。建物等の所有を目的として土地の使用貸借が行われた場合であっても、その土地の借主に対する贈与税の課税は行われません。

    (2) 無償で貸し付けた側の土地評価

     (1)より借主側の使用権の価額がゼロであることから、使用貸借に係る土地の所有者に相続の開始があった場合や所有者がその土地を贈与する場合には、その使用貸借に係る土地の価額は、その土地上の建物の利用状況にかかわらず、自用地として評価されます。

    3.親から子に貸家の贈与があった後の敷地の相続税評価

     (1) 贈与前と貸家の借家人が同じである場合

     貸家とその敷地を所有する親が建物のみを子に贈与し、建物の敷地は使用貸借契約により無償で貸し付けることにした場合において、その後、親に相続が発生したときの貸家の敷地の相続税評価は、どのように行うのでしょうか。

     前記2.(2)で解説したように、使用貸借に係る土地を相続により取得した場合のその土地の相続税評価は、自用地評価額とするのが原則です。

     しかし、当初は建物所有者である親が土地(敷地)所有者であったわけですから、建物の所有者である親と建物の借家人との間で締結された賃貸借契約に基づき、建物の借家人は建物敷地の利用権も有していたことになります。そして、この建物借家人の有する敷地利用権は、判例により建物が第三者に譲渡された場合においても、侵害されることはないと解釈されています。

     このことから賃貸している建物の所有者が変わり、新たな建物所有者の敷地利用権が使用貸借に基づく使用借権となり、従来の建物所有者の敷地利用権とは異なるものになったとしても、建物所有者の変更以前に有していた建物借家人の敷地利用権まで変動したと考えることはできません。贈与前と同一の借家人が建物を賃借している場合は、土地所有者は建物の敷地についても引き続き処分や利用が制限されることになるので、土地の評価においては自用地評価額から相応の減額を行うべきと考えられます。

     以上により、建物とその敷地の所有者が同一人で、その建物が他人に賃貸されており、その後建物だけが贈与されて、建物の敷地について使用貸借が行われている状況で、その土地について相続があった場合の土地の相続税評価額は、貸家建付地として評価することとされます。

    (2) 贈与前と貸家の借家人が異なる場合

     3.(1)の取扱いは、貸家の贈与前と貸家の敷地の所有者(親)の相続時点での借家人が同一であることが条件です。貸家の贈与後に借家人の異動があった場合には、異動した借家人に係る敷地は自用地として評価されます。

     贈与の前後での借家人の異動により敷地の相続税評価額が異なりますので、注意が必要です。

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