賃貸管理ビジネス

月刊不動産2025年8月号掲載

自主管理の入居者が決まりにくい時代に突入!
今こそ「賃貸管理委託」を提案しよう

代表取締役 今井 基次(みらいずコンサルティング 株式会社)


Q

 ここ1年くらいで、自主管理をしているオーナーからの空室相談が増えています。もちろん空室を埋めて差し上げたい気持ちはありますが、その前に当社がすでにおあずかりしている管理物件があり、客づけに関してはそちらを優先せざるを得ません。
 何か、このような自主管理オーナーに上手に管理移管を進める方法はないでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  自主管理物件は、都心などの稼働率が高いエリアを除き、年々、入居者が決まりにくい状況になっています。管理会社はオーナーから委託されている決めるべき物件があり、空室が増えるほど、そちらを優先するためです。
    まずは、管理を委託することの費用対効果を伝え、メリットとデメリットを知ってもらうことから始めましょう。

  • 拡大する空室率の地域格差

     近年の賃貸市場では、空室率の地域格差が拡大し、物件の収益力も「選ばれる物件」と「後回しにされる物件」で二極化が進んでいます。特に地方圏や築古物件では、自主管理のままでは客づけ競争に埋もれてしまうケースが増えています。
     オーナーの意識も変化しており、「自分でできることは自分で」という考えから、「結果に結びつくなら任せたい」へとシフトしつつあります。こうした背景を踏まえると、いま管理会社が果たすべき役割は、従来の“物件の管理代行業務”にとどまらなくなっています。

  • 法改正で高まるオーナー責任

     2020年の民法改正により、原状回復や修繕義務、賃料減額の基準が明文化されました。その結果、入居者対応はより法的・専門的な知識を要するものとなっています。
     「設備不具合を理由とした家賃減額請求」や「原状回復精算のトラブル」など、これまでは曖昧に済まされていた領域でのもめ事が増加しています。
     こうした複雑なトラブルに対し、オーナーひとりでは太刀打ちすることが難しくなり、法的リスクも含めた説明・対応ができる管理会社の存在が、ますます求められています。

  • 自主管理物件が後回しにされる現実

     仲介会社の現場では、紹介の優先順位が明確に存在します(図表1)。自主管理物件は、下記のような理由から後回しにされやすいのが実情です。この現実を踏まえると、「良い物件を所有している=すぐに決まる」という単純な図式が通用しなくなっていることを、オーナーに正しく伝えることが重要です。

     

     

  • 数字で見る管理委託の優位性

     「管理委託=コスト」という印象を持つオーナーは少なくありません。しかし、稼働率の差と手間の削減を加味すれば、むしろ管理委託のほうが手残り収益が高くなるケースもあります。仮に稼働率の差が5%あると仮定しても、図表2のようなシミュレーションとなるのです。そもそも自主管理物件の客づけ優先順位が下がるわけですから、当然のことながら稼働率は下がります。また、精神的負担の軽減、トラブル時の迅速な対応、リフォーム提案による長期入居化など、数値以上の付加価値も訴求ポイントになります。

  • 管理委託のメリット・デメリット

     管理委託では、オーナーに「何ができて、何ができないか」を明確に可視化したうえで提案することが、納得感のあるクロージングにつながります。単に「管理を任せてください」ではなく、オーナーが抱えるリスクと労力をどう軽減できるのかを、具体的に提案する必要があります。
     加えて、他社との違い( 例:リノベーション提案力、相続・売却支援、空室対策のノウハウ等)を明確に打ち出すことで、「任せるならこの会社」という納得感を醸成できます。空室が長引きしやすく、トラブルも複雑化する中で、オーナーにとって「管理会社とのパートナーシップ」は重要な経営判断の一部となっています。
     不動産管理会社としては、管理受託を単なる業務受注ではなく、「課題解決型サービス」であることを明確に打ち出し、戦略的に提案していく姿勢が求められるのではないでしょうか。

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