賃貸管理ビジネス

月刊不動産2026年8月号掲載

経営者は人材開発を恐れるな
「3つの資本」開発ロードマップ

代表取締役 今井 基次(みらいずコンサルティング 株式会社)


Q

 都内で賃貸管理業を営む不動産会社です。若手社員が「成長できない」「他社のほうが条件がいい」とすぐに辞めてしまい人材が定着しません。これまで研修などの機会もなく、彼らも不安があってのことだと思います。これからどのように人材育成すべきでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  離職を恐れず良質な学びの機会を与え、管理業務の価値に気づかせましょう。どうせ辞めてしまうからと、人材に対する投資を控えすぎてはいけません。世代ごとに「人的・社会・金融」の3つの資本を育てる指針を示し、社員の人生を豊かにする支援こそが、人材定着を生む最大の近道です。

  • 人材不足時代の人材開発

     深刻な人材不足が続く昨今、「辞めてもまた新しい人を入れればいい」という考えは、もはや通用しません。人が辞めた後に新たな人材が入社する保証はどこにもないのです。現場の仕事の品質を維持し、オーナーからの信頼を得ていくためには、会社自体を魅力ある組織へとアップデートし、今いる人材に気持ちよく働いてもらう環境を整えるほうが、はるかに建設的です。そのためには、経営者が「人材開発」に真っ向から向き合う必要があります。

  • 良質な学びの機会が少なすぎる

     人材を育成する立場から現場を見ると、従業員の方たちの「良質なインプットの機会」が圧倒的に少ないと感じています。社長や経営陣は外部の研修に足を運び、常に新しい情報を吸収しています。しかし、一般社員は日々の業務に追われ「自社のやり方」しか知りません。その状態で社長が「うちの会社でも、他社の仕組みを取り入れよう!」と言っても、社員がピンとくるはずがありません。
     人はみずから動機づけられなければ行動を起こさないものです。社員に主体的に動いてもらうには、彼らを信頼して良質な研修や他社との交流の場に送り出し、意図的にインプットの機会を与える必要があります。「外の世界を見せると、他社に引き抜かれるのでは」と懸念する経営者もいるでしょう。しかし、自社の労働環境や社風を改善していくことこそが経営者の役割であり、それを行わない怠慢こそが人材流出の最大の原因なのかもしれません。

  • 質の高い仕事という認識

     管理会社の現場では「作業的な仕事ばかりでキャリアアップが見えない」と嘆く若手も多くいます。それは、管理業務の一部分しか見えていないからです。本来、賃貸管理の仕事には「オーナーの資産を最大化させる」という重要なミッションがあります。物件の維持管理の先にある「価値向上」を実現する役割は、非常に難易度が高くやりがいのある仕事です。
     さらに、資産価値向上のための提案は、オーナーとの強固な信頼関係がなければ聞き入れてもらえません。作業の向こう側にある価値に気づき成長してもらうには、多くを語る前に、まずは彼らが「できる部分」を一つずつ着実に開発できるよう支援することが求められます。

  • 資本開発ロードマップをもとに人材開発する

     とはいえ、人は誰も一度に多くのことはできません。世代ごとの課題を踏まえ、長期的な視点で見守ることが重要です。結論として、会社は「従業員が豊かになってくれること」を望んでいるはずです。従業員が豊かな人生を歩むためには「人的資本(働く力)」「社会資本(人脈)」「金融資本(お金を働かせる)」の3つの資本を効率的に活用できることが望ましいのです。

    人的資本
     仕事に対する基本姿勢は各社で指導しているでしょうが、まずは宅地建物取引士や賃貸不動産経営管理士といった不動産関連資格を必ず取得してほしいところです。プロとしてレベルの高い仕事をするための壁であり、これを突破できなければ次の壁で挫折します。
     学習面では、業界内での実務の研鑽はもちろん、学びの幅を広げることで他者と差別化され、「自分自身のブランド」が形成されていきます。

    社会資本
     人脈形成も段階を踏んで広げます。まずは身近な社内や業界内のコミュニティから始め、徐々に社外のコミュニティやオンラインサロンなどへ広げるのもよいでしょう。さらに年代が上がれば、業界外との交流を積極的に深めていくことが好ましいでしょう。こうした良質なつながりは、ビジネス上の信頼関係を深めるだけでなく、事業の多角化や新しいアイデアを生み出す強力な源泉となります。

    金融資本
     最近の若手は、若い段階から投資への意識が高い傾向にあります。それは推奨すべきですが、投資のテクニックばかりに目を向けている人が多すぎます。投資にはまず「種銭」が必要であり、そのためには目の前の仕事を一生懸命頑張るしかありません。単に小銭を貯め込むよりも、若いうちは「良質な浪費(経験への投資)」をしていくほうが、結果的に魅力的な人材へと成長します。年代が上がるにつれて資産運用へとステップアップしていくのが理想です。
     世代ごとの「3つの資本」の成長ロードマップを提示し、社員がみずからのキャリアと人生を豊かにできるよう全力
    でサポートすること。それこそが、人材定着を生み、選ばれる不動産会社へと飛躍するための唯一の近道なのです。徹底的に遊び、徹底的に学ぶ環境を提供し、若手の成長を恐れずに後押ししていきましょう。

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