賃貸管理ビジネス

月刊不動産2022年6月号掲載

管理受託拡大戦略①~管理内容の明確化とメニュー作り~

今井 基次(みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役)


Q

 以前から賃貸管理業務は行っていますが、賃貸仲介を基幹事業としてきたため、あまり管理戸数も増えず、10年ほど700戸前後を横ばい状態です。ここのところ仲介事業の業績が思うように上がらないため、しっかりと管理事業をメインにできるように受託拡大をしていきたいと考えています。ただ、どこから着手したらいいのかわかりません。管理業務の内容も曖昧で、各スタッフごとにやるべき業務内容の認識に誤差が出ているように感じています。まずは、どこから着手すればいいのかを教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     管理受託を拡大するためには、「管理内容の明確化とメニュー作り」「マーケティング」「知識の強化」の3つが大きなポイントになります。一口に管理といっても、やるべき業務の幅は広く、有償でやるべき業務内容を明確にする必要があります。まずは誰もが見てわかるように管理業務内容を明確にし、メニュー化を図ることをお勧めします。そこで、今回は「管理内容の明確化とメニュー作り」について解説をします。

  • 1. 管理内容を明確にする

     賃貸管理業務といっても、やるべき業務の内容は幅広く、また種類も違い、いずれも手間がかかるものが多いのが実情です。管理を受託してから空室を埋めるためには、募集活動(マーケティング)や、契約などの入居手続き(リーシング)から始まります。その後、入居者とのやりとりが発生します。クレームの対応も頻繁に発生しますし、緊急性が高いものもあり、必然的に業務の優先順位が高くなってしまいます。ここは、スタッフにとってはストレスがかかる部分で人的資源が割かれることになります。
     それから、家賃の集金・送金と送金明細書の作成は毎月決まった時期に発生します。間違えることができないプレッシャーとの戦いですから、ここにも大きなストレスがかかります。それ以外にも、物件の維持管理や修繕対応、退去が発生したら原状回復や再度募集業務など、やるべき業務は相当数あります。それぞれ特性が違う業務を、一括で引き受けなければいけないのも、賃貸管理業務の特徴といえます。
     日常的に業務に関わると、判断がつきにくい曖昧な部分が多々あります。たとえば入居者からのクレームが発生して、現地に行くだけでも往復を含めそれなりの時間を取られることになります。わざわざ現場に行かずとも対応できるのに行かざるを得ない。管理会社の経営者からすれば、「人件費をかけてわざわざ現場にいくことは、生産性が下がってしまう」ことになります。しかし現場レベルでは、オーナーのゴリ押しで無償で対応しなければならない、などということもあります。
     このようなことを避けるには、「有償対応」と「無償対応」のすみ分けを細部まで明確にする必要があります。曖昧にしている限り、交渉力の弱い社員ほど言い負けてしまい、生産性は負のスパイラルに陥っていきます。

  • 2. 管理メニューを作って有償と無償を明確化する

     管理拡大を目指すとき、すでに賃貸経営が順風満帆なオーナーからはなかなか相談をもらいにくいものです。空室でも管理会社が何も提案してくれないとか、担当者がまったく頼りにならないなど、問題を抱えている状態で相談があるものです。さらに、管理を任せたいと思っていても、今の管理会社とのお付き合いを考えると… … など、二の足を踏むオーナーは多いのではないでしょうか。確かに、新しい会社に任せたとしても、本当に満足の行く管理をしてくれるのかどうかは半信半疑です。
     そこで、新規で関わるオーナーのために、導入しやすいように管理メニューをいくつか分けておくとよいでしょう(図表1)。選択肢を広げることで二の足を踏んでしまうオーナーを取りこぼすことを減らせます。できればメニューは3つ程度用意して、それぞれ管理料も業務内容に応じて分けましょう。最初は一番低い料金からお付き合いを始めて、徐々にお付き合いが深くなったらアップグレードしてもらうのも方法のひとつです(図表2)。


     アパート全体の1世帯だけ客づけして、決めたらその部屋だけ管理というような「個別管理」から徐々に信頼を作る方法もあるのですが、集合住宅の部屋ごとに管理会社が違うと、実際には満足のいく管理を提供することができません。さらに、一括管理になればよいのですが、ならない限り、たった1世帯のために物件の現地に行く時間を取られることもあり得るのです。これでは生産性は上がりませんし、なんのための管理なのかもはっきりしません。それであれば、最初から「個別管理」は行わないと決めておいた方がよいでしょう。
     管理拡大といっても、入居率が伴わないと管理戸数が増えたところで、顧客満足度は上がりません。仮に短期的に増えたとしても、長期的には結局横ばい状況に陥ります。
     管理拡大を進めるときには「入居率を高めることを意識すること」が、結局拡大への近道になります。ただ管理戸数を増やすのではなく、入居率を高めつつ増やすことをいつも意識しておきましょう。

page top
閉じる