賃貸仲介営業

月刊不動産2018年7月号掲載

空室対策と提案業務を強化し求められる商品づくりを

宮下 一哉(株式会社船井総合研究所 不動産支援部 チーフ経営コンサルタント)


Q

 弊社の仲介店舗では、家賃が下がって成約単価が落ち、集客コストは膨らみ、他社との競争が激しくなっています。また、AIやVR、IT重説なども広まってきて、これまでとは全然違うビジネス環境に対応できるか心配です。今後の見通しや対応の方法を教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

     賃貸仲介ビジネスで、最も重要なことは「求められる商品の品揃え」です。

     これを徹底強化している仲介会社はしっかりと業績を伸ばしています。まずは「商品づくり」に重点をおき、他社との差別化を徹底してみてください。

  • 今年の繁忙期で売上アップした仲介会社の共通項

     今年の繁忙期を振り返ると、前年比で売上アップした仲介会社には、1つの共通項がありました。それは「管理物件が増えている」ということ。現在の賃貸仲介ビジネスで収益を出していくためには「ユニーク物件(自社独自の取扱物件)」の品揃えが不可欠ですが、それを最も効果的に実現できるのが管理物件を増やすことです。管理物件を一番増やしやすい方法は、長期空室(3カ月以上)となっている物件のオーナーにアプローチし、管理物件に限定した空室対策を提案して受託していくことです。私がお手伝いさせていただいている不動産会社は、年200~1,000戸くらいの管理物件を増やしています。だいたい、現管理戸数の10~30%くらいの戸数を増やすことを目標として実現していき、その増加分が基になって仲介の売上アップにもつながっています。ここ数年、皆さまの会社で管理戸数が横ばい、もしくは減少傾向であれば、そこに着手することをオススメします。

  • 商売で最も重要なことは「品揃え」

     AI、VR、IT重説などの普及が進み、どんどんデジタル化する賃貸仲介ビジネスにおいて、情報量やスピードが加速度的に増していっています。そこに対応するためにはインターネットやIT(ICT)の活用が不可欠となっていますが、そういう情勢のなかでも、商売において最も重要なことは「品揃え」の充実です。例えば、大きなデパートやショッピングモールの施設内を歩いて、店内を見ているとき、「商品が何にも揃ってないなあ」と感じることはありませんか? もちろん、たくさんの店でたくさんの商品を品揃えしていますが、自分の欲しいものがないと「商品が何にも揃ってない」と感じるわけです。要するに他社と同じような商品をどんなに大量に揃えても、お客様の求めるものでなければ見向きもされないということです。陳列をする時間、値札付けの時間、発注の時間などのすべてがムダになります。そういう状態でAIやVRを使おうが、大きな成果は得られません。AIやVRを導入してあまり成果が出ていない会社を見ると、「商品」という根本的な部分に手を入れていないケースが多いように感じます。この「商品」「品揃え」に注力することこそが、今、最も求められている、他社と差別化できる重要な方法です。AIやITがどんなに普及しても、オーナーへの空室対策の提案や、管理委託の提案は人がやらなくてはいけない仕事です。標準化された業務、誰がやっても成果に大きな差が出ない業務はAI・ITに任せられても、「意思決定に人の感情」が伴う業務は、人でないと務まりません。急激に変化している賃貸仲介業界ですが、そういった業務に力を入れられる会社が、今後ともお客様に選ばれ、勝ち残る会社だと思います。

  • 今、求められる商品の前提

     今の時代にお客様に求められる商品の第一条件は「価格が手ごろである」ことです。どんなにデザインが優れていても、機能性が高くても、大多数のお客様に選ばれる商品の第一条件は「価格」です。賃貸不動産ビジネスにおいては、家賃・面積・間取り・立地で、だいたいの「賃料相場」が決まります。そのなかで他社と差をつけるには、それらの項目に設備・使い勝手・付帯サービスも含めたもので比較して「お得感」があること。ただ、賃料相場を意識しながら、それらの詳細項目で別化を図るためには、ある程度の知識と経験が必要ですが、オーナーへの提案・交渉に時間を要することと、リフォームの先行投資を求めることになるため、なかなか手が付けられず進んでいかない…という会社が多いようです。

     そこで私がコンサルティングさせていただいている会社では、他の業界や社会一般での傾向を考慮して、最も効果的に差をつけやすい方法として「ゼロ賃貸ソリューション」と呼ばれている方法を実施しています。これは、賃貸物件の入居時費用を「ゼロ(家賃のみ)」とし、かつ退去時の入居者費用負担を「ゼロ(故意過失の場合は請求)」とする方法です。その費用の捻出の仕方、オーナーへの提案の仕方、お客様へのプロモーションの仕方、売上の立て方については、誌面での簡単な説明が難しいため、ここでは割愛しますが、空室対策プランとして・管理委託を受ける方法として、非常に効果の高い方法です(図表)。実際に、まだ管理を受託していないオーナーへ「ゼロ賃貸」を提案して「募集の際はお客様へ優先的に紹介し、空室対策も精力的に行います」と言い切って営業をすると、管理を任せてくれるケースが増えています。

  • 今、賃貸仲介会社が強化すべきこと

     相続税法が2015年に改正されたことを契機に、税金対策での新築物件が多く建設された結果、翌2016年以降から空き物件が全国で増えて入居率が下がっています。空室を抱えているオーナーに対する空室対策の提案が求められているため、空室対策を徹底的に実施している会社は売上がアップし、実施していない・中途半端になっている会社の売上は落ちているのが全体的な傾向です。空室が増えていることは、オーナーにとっては由々しき事態ですが、賃貸仲介会社にとっては大きなチャンスです。この機会を逃さず、空室対策&管理委託提案の「武器」を準備し、来年の繁忙期までにしっかりやることが大事です。

  • Point

    • 前年比で売上アップした仲介会社の共通項は「管理物件が増えている」ということ。
    • 他社と同じような物件をどんなに大量に揃えても、お客様の求めるものでなければ見向きもされない。
    • 初期費用にお得感がある物件は、お客様のニーズが高いため提案しやすい。
    • 2016年以降から空き物件が全国で増えており、賃貸仲介会社にとっては大きなチャンス。
    • 空室対策&管理委託提案の「武器」を準備して、しっかりやり切ることが大事。
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