法律相談

月刊不動産2019年9月号掲載

日当たりについての不利益事実の不告知

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

中古マンションの2階住戸を購入しました。隣接地は空き地で、売主の不動産業者から、「眺望・日当たり良好」と説明を受けていましたが、半年後には建物ができて眺望・日照が遮られてしまいました。売主は建設計画を知っていたのに説明はありませんでした。売買契約を取り消すことができるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 消費者契約法により取消し可能

     消費者契約法によって、売買契約を取り消すことができます。

  • 2. 不利益事実の不告知による取消し

     消費者と事業者の間には、取引のための情報の質や量、交渉力において、構造的に格差があります。消費者契約法は、この格差に着目し、事業者が消費者契約の締結の勧誘をするに際し、重要事項について、消費者の不利益となる事実を告げず、消費者がその不利益な事実を存在しないと誤認し、それによって消費者が契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたときは、消費者はこれを取り消すことができるものとしました(消費者契約法4条2項。以下、同法の条数だけを示す)。ご質問のケースでは、隣接地に建物ができて、眺望・日照が遮られることは消費者にとっての重要事項です。建設計画があるという不利益な事実を売主の不動産業者が知っていながら告知しなかったならば、買主は売買契約を取り消すことができるということになります。

  • 3. 消費者契約法の改正

    (1)法改正の必要性
     消費者契約法は、2000年5月に制定され(2001年4月施行)、その後、市民生活における消費者保護のための法律として定着しました。しかし、施行から期間が経過し、その間の社会状況や取引の実態からみて、消費者保護のための法律として不十分である点が目立ってきました。そのため、2016年と2018年の2回にわたって、改正がなされています。

    (2)2016年改正( 2017年6月施行)
    ①過量な内容の契約についての取消権付与
     消費者が通常必要とする分量、回数、期間を著しく超える契約をした場合、その勧誘をした事業者がその過量の事実を知っていたときには、取消しを可能としました(4条4項)。
    ②不実告知取消権の重要事項の追加
     不実告知取消権の重要事項について、契約の目的物に直接には関係しない事項に関する不実告知にまで、その範囲が拡大されました(4条5項3号)。
    ③取消権を行使した場合の返還義務の制限
     消費者が取消権を行使した場合の返還義務について、その範囲を現存利益に制限する定めが設けられました(6条の2)。※6条の2は2020年4月1日に施行。
    ④ 取消権の行使期間
     消費者が取消権を行使することができる期間が6カ月から1年に伸張されました(7条)。
    ⑤不当条項の範囲の拡大
     消費者の解除権を放棄させる条項が無効とされました(8条の2)。事業者に債務不履行があっても消費者は解除をすることができないなどの条項が無効となります。
    ⑥消費者の不作為を申込みと扱う条項を10条無効の例として条文化
     「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項」が不当条項となるとする例示が追加されました(10条)。

    (3)2018年改正(2019年6月施行)
    ①不利益事実の不告知の要件の緩和
     従来、消費者契約法上、不利益事実の不告知によって契約を取り消すためには、事業者による故意の不告知であることが必要でした。しかし、消費者にとって故意を立証することは容易ではありません。そこで、改正によって、故意だけではなく、重大な過失による不告知の場合もまた、取消しができるものと改められました(4条2項)。ご質問のケースについても、売主が建設計画を知っていたのに説明をしなかった場合だけではなく、これを知らなかったけれども知らなかったことに重大な過失がある場合にも、取消しができるということになります。
    ②取消しができる困惑類型の追加
     民法の成年年齢引下げなどに対応し、不安をあおる告知や好意の感情の不当な利用が、取消しの対象となる不当な勧誘行為として追加されました(4条3項3~8号)。
    ③無効となる不当条項の追加
     消費者が後見、保佐または補助開始の審判を受けたことのみを理由として事業者に解除権を付与する条項について、成年後見制度の趣旨に反する不当な条項であり、無効である旨の定めが設けられました(8条の3)。
    ④解釈に疑義が生じないよう配慮する義務
     事業者には、契約条項を作成するにあたって、解釈について疑義が生じない明確かつ平易なものになるよう配慮しなくてはならないものとされました(3条1項1号)。
     2018年改正について、改正後の規定は、施行日(2019年6月15日)以後に締結される消費者契約について適用されます(附則2条4項)。

今回のポイント

●事業者が、消費者にとっての不利益事実を告げず、消費者がその不利益事実を存在しないと誤認し、それによって消費者が契約を締結したときは、消費者はこれを取り消すことができる。
●マンションを購入するにあたっての隣地の状況と住戸の眺望・日当たりは消費者にとっての重要事項であり、事業者が、隣地の空き地の建設計画を知りながらこれを告げずに「眺望・日当たり良好」と説明をすることは、不利益事実の不告知に該当する。
●不利益事実の不告知については、2018年改正(2019年6月施行)に消費者契約法が改正され、事業者が、これを知りながら告知をしなかった場合(故意の場合)だけではなく、重大な過失によって告知をしなかった場合(重過失の場合)にも、取消しができるものとされた。

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