法律相談

月刊不動産2018年7月号掲載

建物状況調査のあっせんに関する事項の媒介契約書面への記載

渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所 弁護士)


Q

 売買の媒介を依頼され、宅建業法に従って、媒介契約書面に「建物状況調査を実施する者のあっせん」に関する事項を記載することになりました。ここでいう「あっせん」とはどのような意味なのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • あっせんとは

     平成30年4月施行の宅建業法では、売買の媒介契約書面に、「建物状況調査を実施する者のあっせん」に関する事項を記載することが義務づけられました(宅建業法34条の2第1項)。ここで「あっせん」とは、売主または購入希望者と建物状況調査を実施する者との間で建物状況調査の実施に向けた具体的なやりとり(たとえば、建物状況調査を実施する者が作成した建物状況調査費用の見積もりを媒介依頼者に伝達すること等)が行われるように手配することを意味する言葉です。

  • 平成28年宅建業法改正

     さて、わが国の住宅事情は、高度経済成長期からバブル期にかけて、量的な充足を図るために多くの政策がとられてきました。その結果、数の上では住宅の不足は解消されましたが、近年では、むしろ膨大な数の空き家の存在が社会問題となるに至っています。また、国の人口動態をみれば、少子化の時代を迎えており、これから本格的に人口が減少するとのことです。

     そのような状況のもと、現在では、人々の豊かな住環境を整えるためには、既存住宅の十分な活用が求められています。平成28年3月に改定された住生活基本計画でも、既存住宅の流通市場の活性化は、今後の住宅政策の中心となる課題と位置づけられました。宅建業法においても、既存住宅の流通促進のための改正がされ、平成30年4月から施行されました。

     この改正には、①売買・交換の媒介契約を締結したときに交付する書面(媒介契約書面)に、建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載する(宅建業法34条の2第1項)、②売買・交換・貸借の契約が成立するまでの間に、建物の取得者または借主に対して、建物状況調査の結果の概要、建物の建築・維持保全の状況に関する書類の保存状況を重要事項として説明する(同法35条1項)、③売買・交換の契約が成立したときに契約の各当事者に交付する書面(37条書面)に、建物の構造耐力上主要な部分または雨水の浸入を防止する部分(「建物の構造耐力上主要な部分等」という)の状況について当事者の双方が確認した事項を記載する(同法37条1項)という3つの内容が含まれます。

  • 媒介契約書面の記載事項

     建物状況調査とは、既存住宅について、建物の構造耐力上主要な部分等に生じた劣化・不具合の有無を把握するための調査で、基礎、外壁等の部位ごとに生じているひび割れ、雨漏り等の劣化・不具合を、目視や計測等により調査を行うものです。建物状況調査時点における住宅の状況を把握した上で、売買等の取引を行うことができ、取引後のトラブルの発生を抑制することができ、また、既存住宅購入後に建物状況調査の結果を参考にリフォームやメンテナンス等を行うことが可能になるとされています。

     建物状況調査の調査対象部位は、建物の構造耐力上主要な部分等です。具体的には、構造耐力上主要な部分として、基礎、土台および床組、床、柱および梁、外壁および軒裏、バルコニー、内壁、天井、小屋組を、また、雨水の浸入を防止する部分として、外壁、内壁、天井、屋根を、それぞれの調査箇所とするのが一般的です。給排水管路や給排水設備等は建物状況調査の調査対象ではありませんが、オプション調査として依頼できる場合があります。

     建物状況調査は国の登録を受けた既存住宅状況調査技術者講習を修了した建築士(既存住宅状況調査技術者)が実施します。講習を修了していない建築士や検査事業者が実施する調査は、宅建業法上の建物状況調査には当たりません。

     法改正によって、「建物状況調査を実施する者のあっせん」に関する事項が媒介契約書面の必要的記載事項となったわけですが、宅建業者がなすべきことは、売主または購入希望者に対して、建物状況調査の制度概要等について紹介することです。売主または購入希望者の意向があれば、これに応じてあっせんを行うこととなります。あっせんを求められなければ、あっせんを行う必要はないということになります。

     なお、建物状況調査を実施する者に関する情報を単に提供するだけでは「あっせん」とはいえないとされています。

  • まとめ

     既存住宅の流通が増加しない背景には、個人間で既存住宅を売買することが多く、買主は住宅の質に対する不安を抱えているといわれています。今般の改正によって、既存住宅の取引時に、専門家による建物状況調査(インスペクション)の活用を促し、建物状況調査の普及を図ることが、宅建業者のひとつの役割となったということもできましょう。もっとも、建物状況調査を依頼するのは、売主や購入希望者であり、宅建業者の役割は、間をとりもつことです。宅建業者としては、売主や購入希望者の意向を十分に確かめながら、業務を行う必要があります。

  • Point

    • 宅建業法上、「建物状況調査を実施する者のあっせん」に関する事項が媒介契約書面の必要的記載事項となっている。
    • 建物状況調査とは、既存住宅について、構造耐力上主要な部分または雨水の浸入を防止する部分に生じた劣化・不具合の有無を把握するための調査である。資格を有する専門家によって実施される。
    • あっせんは、売主または購入希望者と建物状況調査を実施する者との間で建物状況調査の実施に向けたやりとりが行われるように手配することである。宅建業者は、売主や購入希望者の意向を十分に確かめながら、業務を行わなければならない。
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